まず、食材に対して手を使って塩をふるやり方ですが、2本の指で塩をつまむのではなく、3本の指を使うということです(図1)。この方が塩が分散して落ちる効果が高いということでした。あと、できるだけ上からふりかけることが重要だということです。
よく料理人が食材のかなり上方から塩をふっている映像を見ることがありますが、あれは何も見栄えをよくしているわけではなく、まんべんなくふりかけるという理にかなった方法だということを理解しました。これまであまり指を意識していませんでしたが、これから3本指でやってみようと思います。
次に、鮮度が低下した魚へ食塩を使うことで味をよくする方法が紹介されていました。はじめに鮮度の落ちた白身魚(例として鯛)の場合です。
まず、使う食塩の量ですが、魚(切り身)の重量に対して1%の量(重量比)を使うことが重要です。この1%の食塩を切り身の表と裏にまんべんなくふりかけます(図2左)。そして冷蔵庫内で1時間寝かせます(図2右)。
この食塩をまぶした状態での冷蔵中に、浸透圧の関係で水分が魚から出てきます。これの作用で魚の身がプリッと引き締まるわけです(図3左)。出てきた水分には臭みが含まれているので、きれいにふき取ります(図3右)
上記の塩処理をした白身魚はそのままでも美味しく食べられるということです。お好みで少し醤油を使ってもいいかもしれません。
ここで、白身魚への塩の使い方をまとめます。
●魚の重量の1%の塩を使う
●表裏にまんべんなくふりかける
●1時間冷蔵庫で寝かせる
●出てきた水分を拭き取る
それでは赤身の魚の場合はどうでしょうか。赤身の場合も重量比1%の塩を使うところは同じですが、にがり入りの塩がお勧めということでした(図4)。冷蔵の時間は15分とかなり短めでした。
ただし、トロのような脂身には適さないということです。脂が水分をはじくためと説明されていました。
次に肉への塩の使い方です。例としてハンバーグが紹介されていました。塩を先に肉に混ぜて練り、焼いた場合と、塩なしで練り焼いた後に塩をまぶした場合を比較すると、明らかに食感が違うということです(図5)。すなわち、塩を先に入れた方が肉汁を閉じ込める効果があり、フワフワした食感が得られ、後でまぶした場合は固い感じになるということでした。
よって、通常のハンバーグとして食べる場合には先に塩を練りこみ、後で塩を使う場合は煮込みハンバーグなどに合うということのようです。
世界には4000種類もの塩が売られていると紹介されていました(図6)。色、粒の大きさ、味(しょっぱさ)などに違いがあります。しょっぱさはNaClの含有量で決まります。その含有量は80–100%の範囲にあり、容器上の表示で知ることができます。
塩の粒の大きさやしょっぱさの強さなどに応じて、使用対象とする食材が変わってきます。たとえば、粒が大きくしょっぱさが強い塩は牛肉に、粒が大きくてしょっぱさが弱い塩は鶏肉や豚肉に使うということでした(図7)。さらに粒が小さくてしょっぱさが強いものは天ぷらに、しょっぱさが弱いものは野菜にという具合です。
塩の粒の大きさとしょっぱさによる使い方のまとめです。
●粒が大きい、しょっぱさが強い→牛肉
●粒が大きい、しょっぱさが弱い→豚肉、鶏肉
●粒が小さい、しょっぱさが強い→天ぷら
●粒が小さい、しょっぱさが弱い→野菜
放送では「クロスモダリティ効果」についても取り上げていました(図8)。クロスモダリティ効果とは、脳が視覚の情報を優先することによって味覚に変化が起こることです [1]。
たとえば、しょっぱさを感じるように食べ物を見せられると、実際はその食べ物の食塩濃度が低くてもしょっぱく感じるという脳の錯覚です。この効果を使えば、料理の美味しさを変えることなく減塩できる可能性があります。
料理の美味しさが、いかに視覚に依存しているかが理解できました。
参考文献
萩原一平:脳は味覚より視覚の情報を優先する 「クロスモダリティ効果」とは何か. Harvard Business Review 2016.01.29. http://www.dhbr.net/articles/-/3911