最近、インターネットやTVニュースでも取り上げられて話題になっていることの一つとして、「ペットボトル飲料を口をつけて飲むのは危険」というのがあります [1–3]。今日の日本テレビeveryでも取り上げていました。具体的には、ペットボトルに直接口をつけて飲んだ後、保管しておくとその中で菌が増殖し、それを飲むことは衛生学的によくないという指摘です。
今日の放送では、飲みかけのボトルを室温で5–6時間保管しておくことで、食中毒の危険性さえあると伝えていました（図1）。果たしてそうでしょうか。
ちなみに私は、海外では行いませんが、国内ではペットボトルに直接口をつけて飲んでいます。半日程度なら大丈夫です。もちろん、食中毒にもなったことはありません。
そもそも私たちの口の中には、唾液1 mL当たり1千万個程度の細菌が常在しています。したがって、その口でペットボトル飲料を飲めば、当然その中の細菌が入ることになり、室温で放置すれば増殖することもあります。
細菌が増殖するためには、それに適した条件が揃わなければなりません。たとえば30℃程度の室温での保管はそれに適います。しかし、炭酸飲料やジュース類の環境は酸性条件であり、増殖には適しません。さらに炭酸は細菌に阻害的に働きます。したがって、比較的生えやすい環境としてはお茶やコーヒーなどの中性のペット飲料ということになります（図2）。
しかしながら、たとえばお茶の類の飲料は、細菌が十分に増殖するためには栄養不足であり、官能的に微生物変敗を起こす程度の増殖は短時間では（たとえば24時間以内には）起きにくいと考えられます。
私は、さまざまなペットボトル飲料に口をつけて半量ほど飲み、それを24時間30℃で放置して一般細菌生菌数測定（https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16195900.html）を行なったことがあります。その結果は、24時間後の1 mL当たりの最大菌数で表すと（初期値：400個）、ミネラルウォーターで600個、コーラで300個、レモン水で400個、緑茶で19,000個、ミルクティーで22万個でした。ちなみに、6時間放置では、ミルクティーを除いてすべて600個以下でした（未発表データ）。
法令上の飲料水や清涼飲料水の水質基準としては、1 mL当たり100個以下であることが定められていますが [4]、30℃で6時間放置した場合では、この10倍を超えたペットボトル飲料は、ミルクティーを除いて見当たらず（初期値とほとんど同じレベル）、衛生学的には問題ないと考えられました。
放送では、飲みかけのペットボトルを24時間放置して、細菌が100倍に増えたと伝えていましたが、実際にどの程度の菌数であったかは不明でした。
放送ではさらに、ネットの声として、「菌がいるとは気持ち悪い」、「菌がいてショック」、「菌がいてやばい」などの反応を紹介していましたが、いささか過剰反応であると思います。
私たちは、唾液に存在する1 mL当たり1千万個の細菌を、絶え間なく飲み込んでいます。そして、ペットボトル飲料に口を当てるとその細菌で飲料が汚染されますが、それを飲んでも元に戻しているだけです。6時間程度の放置でそれらが増殖したとしても、基本的に、食中毒になることは考えにくいです。
なぜなら、食中毒が起こるためには、実際に食中毒菌が外から侵入して最小発症量レベルまで増殖するか、あるいは毒素を産生しなければなりません。環境の衛生状態が悪い海外の特定国ならいざ知らず、国内ではどのようなケースが考えられるでしょうか。健康な自分の口から食中毒菌が入って、それを飲んで食中毒になったというなら、矛盾した笑い話にしかなりません。
報道で伝えるなら、飲みかけのペット飲料での食中毒の事例があるかどうか、もしあるとするなら食中毒の原因菌、症状、原因飲料物などをきちんと知らせるべきです。そして、どのようなケースで食中毒になりえるのかを、専門家をまじえて示すべきです。これらの情報なくして、いたずらに過剰反応している状況を見るにつけ、インターネットやTV放送のいい加減さを考えてしまいます。
参考文献
1. BuzzFeed Japan / 籏智広太: 夏場のペットボトル、口をつけて飲むのは危険？ 雑菌繁殖→破裂→骨折の事故も. Yahoo!ニュースJAPAN. 8月12日. https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180812-00010003-bfj-hlth
2. FNN PRIME: 菌が増殖し食中毒の危険…飲みかけのペットボトル飲料で注意したいこと. 2018年8月15日. https://www.fnn.jp/posts/00350230HDK
3. 日テレNEWS24：食中毒も…飲みかけのペットボトルにご用心. 2018年8月16日. http://www.news24.jp/articles/2018/08/16/07401573.html
4. 厚生労働省：水質基準項目と基準値. http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html
