今朝のNHKでは「美と若さの新常識」というテーマで、顔を中心とする肌を健康に保つ方法について放送していました。キーワードは表皮ブドウ球菌という細菌です。この細菌は、グリセリンという三価アルコールを分泌して皮膚の保水の役割を担っていることが知られています。
以前のページでも紹介しましたが、私たちの体の表面にはたくさんの常在微生物(大部分が細菌)がいて、皮膚を健康に保ってくれています↓。表皮ブドウ球菌は代表的な皮膚の常在微生物です。
ではどのくらい皮膚の上にいるかというと、皮膚表面1平方cmあたり数百から数千個と説明されていました(図2)。私も学生相手に調べたことがありますが、平均で10の3乗のオーダーであったと記憶しています。
放送ではゲストのタレントを迎えて各人の保持菌数を発表していましたが、多い人では2〜3万個という菌数が得られていました。
皮膚の水分を保つためには、表皮ブドウ球菌ができる限りいることが必要になるわけですが、この細菌は汗と皮脂の成分を利用して増えることがわかっています(図3)。
表皮ブドウ球菌が生育するとグリセリンが分泌され、水分を保つことに貢献しますが、同時に皮膚が弱酸性に保たれます。同じブドウ球菌属(Staphylococcus)の仲間には、食中毒菌として知られている黄色ブドウ球菌がいますが、この菌は弱アルカリ性が好きです。したがって、表皮ブドウ球菌による弱酸性環境の生成によって、黄色ブドウ球菌の皮膚への侵入が起こりにくくなります。
表皮ブドウ球菌はこのほかにも、抗菌ペプチドを出して有害な微生物(いわゆる悪玉菌)の生育を抑制するなどの役割も担っています。
顔の保水のための条件(表皮ブドウ球菌を保つ条件)
洗顔料を使うと表皮ブドウ球菌が落ちやすくなり、またゴシゴシ洗うことも同じような効果になります。したがって、洗顔の方法が表皮ブドウ球菌を保つためのキーポイントになります。夜汗をかく運動をするというのは、表皮ブドウ球菌のエサを供給し、彼らの増殖を促すという効果です。
さらに放送では、皮膚の健康と美肌を保つためのヨーグルトパックという方法を勧めていました。市販のヨーグルトのホエーを取り出し、これにパック用ペーパーを浸し、顔にパックする方法です(図4)。
図4. ヨーグルトのホエー(乳清)を利用した顔パック(2018.10.08 NHK「美と若さの新常識」より)
放送では、表皮ブドウ球菌に関することに加えて、味噌を食べる効果や大豆製品を食べる効果も紹介していました。そのうちの一つとしてエクオール産生菌が挙げられます(図5)。エクオールは女性ホルモンのエストロゲンと同じような効果があり、ラクトコックスという腸内乳酸菌によってつくられることがわかっています(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16376949.html)。
放送を見聴きしてあらためて感じることは、日本人の伝統的な食生活や昔の顔の洗い方が、美肌と健康のための基本ではないかということです。すなわち、放送では「新常識」と謳ってはいましたが、伝統的かつ経験的な常識を現代の商業主義と生活文化が逆に壊してきたことを認識させる内容でした。
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