以前のページでも紹介したように、国内で分布を広げている(北上を続けている)チョウの一つとしてツマグロヒョウモン(Argyreus hyperbius)が挙げられます(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16276882.html)。このチョウは、オスとメスでは翅の模様が異なり、後者では前翅先端部が黒色で、斜めの白帯がある特徴をもちます(図1)。
図1. ツマグロヒョウモンのオスとメス:A, オス(2018年8月11日, 千葉県柏市); B, メス(2013年6月27日、愛知県豊橋市); C, オス(2018年8月13日, 千葉県柏市); D, メス(2010年7月18日, 愛知県豊橋市)
ツマグロヒョウモンは、タテハチョウ科ドクチョウ亜科ヒョウモンチョウ族に属しますが、国内のヒョウモンチョウには珍しく南方系のチョウで、年間複数回発生します。ちなみに、1964年講談社出版の昆虫生態図鑑 [1] を見ると、本種の生息域は、本州南西部、四国、九州、南西諸島となっていて、当時は中部以東、以北にはいないことが示されています。
まず、調査地点として、愛知県豊橋市北山町(34°44'13)と千葉県柏市逆井(35°48'21)の2地点(図2)を選択しました。幼虫は野生のスミレ類のみならず、園芸種のパンジーやヴィオラなどのスミレ属も食草としますので、これらの園芸種がよく見られる市街地で公園があり、草むらなどが残る区域を、観測地点として選択しました。
毎年、6月15日から8月30日の間、晴天の朝10-12時の間の30分間、7-13日の定点観察を行い、目撃した日の割合を目撃頻度(%)として表しました。この際、頭数には関係なく1頭でも目撃すれば1回と数えました。
調査結果を図3に示します。豊橋では頻度は少ないですが、1990年代半ばから本種が本格的に目撃されるようになりました。そして年を追って目撃頻度は増し、2005年以降は30–70%の確率でみられるようになりました。柏でも同様な傾向で、1990年以前は目撃できませんでしたが、1995年以降から常時見られるようになりました。
図3から分かるように、ツマグロヒョウモンの目撃頻度は、両点とも年を経るに従って増加しており、これが地球温暖化が原因とすれば考えやすいです。もちろん、食草となるパンジーやヴィオラなどの園芸植物の流通・拡大にも関係あるとは思われます[2-4]。とはいえ、目撃がほとんどなかった1990年代の柏市の定点では、すでにこれらの園芸植物があったことを考えれば、その影響はより小さいのではないかと考えられます。
ほかの南方系の種であるナガサキアゲハなども北上化の傾向があり、関東でも普通に見られるようになりました(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16266964.html)。南方系チョウの北上化は、地球温暖化と関係があると考えるのが一番妥当と思われます。
参考文献
1. 浜野栄次(著)、古川晴男(監修): 昆虫生態図鑑 1. チョウ・ガ. 講談社. 1964年4月27日, 東京.
2. 津吹卓垢, 生亀正照: ツマ グロヒョウモンの北上の原因を探る (1) 東京都日野市におけるツマグロヒョウモンの発生消長およびパンジーの入荷量 ・ 栽培方法を基にして. 蝶と蛾 Trans. lepi. Soc. Jpn. 59(2), l54-164 (2008). https://www.jstage.jst.go.jp/article/lepid/59/2/59_KJ00005153168/_article/-char/ja/
3. 山本智之: 温暖化?チョウ「ツマグロヒョウモン」の分布が北上. 朝日新聞DIGITAL 2010.09.20. http://www.asahi.com/special/playback/TKY201009170231.html
4. 津吹卓: ツマグロヒョウモンの北上の原因を探る(2)幼虫の行動および冬期の野生の スミレの状態. 蝶と蛾 Trans. lepi. Soc. Jpn. 62(3), 127-134 (2011). https://www.jstage.jst.go.jp/article/lepid/62/3/62_KJ00007563014/_article/-char/ja/