Dr. Tairaのブログ

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ゴマダラチョウの減少

ゴマダラチョウ Hestina japonica は、タテハチョウ科に分類されるチョウの1種です。日本を含む東アジアに分布するチョウであり、国内でも北海道の南部から九州までほぼ全域に生息しています。幼虫の食草はエノキの葉です。
 
ゴマダラチョウは、私が小学生の頃はごく普通のチョウでした。平野のど真ん中にあった小学校の敷地内にエノキやヤナギがあって、それらの周囲を同じタテハチョウであるコムラサキ Apatura metis とともに、よく乱舞していたのを記憶しています。やがてその小学校や周辺で姿を見なくなったのは1980年代からです。
 
ゴマダラチョウの減少については、たとえば、私が定点観察を続けていた福岡県、愛知県、千葉県の平野部のエノキの周辺では1990年代から、少なくとも成虫レベルにおいては徐々に目撃する機会が少なくなりました。この2年間での定点観察による目撃回数は、福岡県と愛知県においてそれぞれ1回のみです。今ではエノキが豊富な都市公園か周囲にエノキがある雑木林や里山山麓などに行かないと姿が見られなくなりました。
 
平地でのゴマダラチョウの成虫の減少は、エノキの伐採、幼虫越冬時の落ち葉の除去、農薬の使用、宅地開発などによる環境の悪化などが考えられますが、千葉県のいくつかの観察地点ではエノキ成木の状態はこの10年間ほとんど変わっていません(ただし、幼木は定期的に伐採されている模様)。
 
それもかかわらず、ゴマダラチョウの成虫はこれらの地点では1990年代後半から1回も目撃していません。一方これらの定点でアカボシゴマダラ Hestina assimilis の成虫を見かけるようになりました(図1)。
 
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図1. ゴマダラチョウと類縁種のアカボシゴマダラの標本
 
日本本土においてはアカボシゴマダラは外来種であり、食草を同じくするゴマダラチョウとの競合の可能性から、今年1月環境省特定外来種に指定しました [1]。しかし危惧されているように、果たして両者は競合し実際にゴマダラチョウの生息が圧迫されているのでしょうか。少なくとも現時点においてはそれを証明する文献は見当たらないようです。
 
東アジアにおけるゴマダラチョウとアカボシゴマダラの分布は重なっており、共存しています。そして、日本では、関東へのアカボシゴマダラの侵入以前に、すでにゴマダラチョウは全国的に急激に減少してきた印象を受けます。
 
ゴマダラチョウへ及ぼすアカボシゴマダラの影響を科学的に評価するためには、後者が生息する地域と生息しない地域において、ゴマダラチョウの長期的な分布調査を行い、比較する必要があると考えます。加えてアカボシゴマダラの詳しい生態調査が必要であると感じます。
 
これらの観点から現在、福岡、大阪、愛知の各県内のゴマダラチョウと関東地域における前種およびアカボシゴマダラの幼虫の分布を調べています。
  
参考文献
 
1. 環境省:日本の外来種対策>シリアカヒヨドリなど6種類の追加指定について.