カテゴリー:エノキ下の越冬幼虫の探索
東京都区内のいわゆる「近隣公園」の規模以上の公園においては、夏になるとアカボシゴマダラ Hestina assimilis とゴマダラチョウ Hestina japonica の成虫が混在して飛ぶ姿がよく見られます。個体数としてはアカボシの方が圧倒的に多く、ゴマダラチョウは少数です。まったくゴマダラチョウが見られない場合もあります。
目にできる両種の成虫の存在比だけから判断すると、アカボシゴマダラがゴマダラチョウの生息域に侵入し、後者を駆逐しているようにさえ感じられます。とはいえ、両者の競合を考える場合は、幼虫のステージにおけるそれを見極める必要があります。
私は今冬、東京都区内の主な公園について、エノキ成木の調査を一通り行いました。目的は、エノキの根元にいる Hestina 属越冬幼虫の分布状態の把握です。エノキ成木はゴマダラチョウが好む木ですが、もしアカボシゴマダラが同等、あるいは優占的に存在するようであれば、外来種(特定外来生物)としての脅威が現実のものとなります。
結論から言えば、これまで東京都区内で調べたエノキ成木(幹径≥25 cm、樹高≥10 m)から検出した200頭以上の Hestina 幼虫は、すべてゴマダラチョウでした。つまり、現在のところ「ゴマダラチョウのニッチ(niches)と幼虫のステージにおいて、アカボシゴマダラは競合相手になっていない」ということ示唆するものです。
他の地域でエノキ高木からアカボシゴマダラの越冬幼虫を検出したこともありますが、1本当たり1頭と少なく、枝葉の量から考えて物理的にゴマダラチョウの競合相手になるとは考えにくいです。
それでは、このようにゴマダラチョウの越冬幼虫が多く見られるにもかかわらず、実際私たちが目にすることができる成虫がきわめて少ないということはどういうことなのでしょうか。
上で「200頭以上の幼虫を検出」と述べましたが、実際幼虫を探し出すのにとても苦労する場合があります。今日訪れた公園でその例を示したいと思います。この公園にはエノキの見事な大木がたくさんあり、見ただけで根元に幼虫がいる予感をさせるものです(写真1、2)。


ところが、実際エノキの根元を見ると、大部分が落ち葉がほとんどなくなっている状態でした(写真3)。強風で吹き飛ばされた結果です。わずかに残った落ち葉をチェックしても幼虫は見つかりません。

前のページで、風のために落ち葉が散乱した地面から裸の幼虫を検出したことを紹介しました(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16654351.html)。
この公園でも、エノキの根元から2–3 mの距離に散乱した落ち葉からゴマダラチョウの幼虫を見つけました(写真4)。

落ち葉が大量に残っている大木の根元からは、ほぼ100%に近い状態で越冬幼虫を検出できますが、落ち葉がない多くのエノキにおいては幼虫は春に再び木に登ることなく、姿を消していると考えられます。加えて寄生虫や天敵の捕食の影響があり、卵から孵化した幼虫が成虫に至る確率はきわめて低いと考えられます。
さらに、一旦エノキの成木が伐採されてしまうと、その場から永久的にゴマダラチョウの幼虫がいなくなることを意味します。とくに成長に年月を要する大木を好むゴマダラチョウの性質を考えると、生息環境を復元することはほぼ不可能でしょう。
一方のアカボシゴマダラの場合は、幼虫が好むエノキ幼木はブッシュの中にあったり根元が下草で覆われたりしてることが多く、落ち葉が飛ばされにくい環境にあります。これが成虫の個体数の差になって現れていると思われます。
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