これまでの調査結果は、オオムラサキの越冬幼虫が見られるエノキの根元にはアカボシゴマダラは検出されないか、混在しても1–2頭ということを示しています。
今回も場所を変えてオオムラサキの生息域でのアカボシゴマダラの分布状態について調査しました。結果として、オオムラサキを検出したエノキの成木4本からは全くアカボシゴマダラは検出されませんでした。1本からはゴマダラチョウ Hestina japanica のみを検出しました。
オオムラサキの越冬幼虫はゴマダラチョウやアカボシゴマダラのそれとは異なり、丘陵や山岳地域の雑木林の中あるいは林縁にあるエノキに生息することが一般的です。平野部においてはやはり周囲にクヌギやコナラを中心とする雑木林があり、照葉樹やスギ林が混在して乾燥しにくいような環境にあるエノキから検出されます。
いわゆる里山の環境とオオムラサキの親和性を強調している例を頻繁に見ますが個人的には少々違和感を感じています。すなわち、「管理された里山でないとオオムラサキは生息できない」とする情報があるのですが、必ずしも里山と結びつける必要はありません。
たとえば、私が定点観察している千葉市内のあるオオムラサキ生息場所は雑木林と照葉樹林が混在する森で住宅街とゴルフ場に囲まれており、里山とは程遠い環境にあります。条件さえよければ都市近郊でもオオムラサキは生息できるのです。一方で九州では里山というより山岳地の雑木林周辺に生息している印象が強いです。
ゴマダラチョウは独立して生えているエノキの高木から検出されやすく、アカボシゴマダラはもっぱら幼木・低木に見られます。
今日も丘陵部の雑木林の中にあるエノキを対象として調査しました(写真1)。
写真1
オオムラサキの越冬幼虫は多くは一枚のエノキの落ち葉に一頭検出されますが、複数頭が一度に検出されることも割と頻繁にあります(写真2)。今日は一枚の葉っぱに最大5頭がくっついて出てきました。
写真2
ときどき、ゴマダラチョウといっしょに一枚の落ち葉にくっついていることもあります(写真3)。
写真3
写真4
写真5
異常な形態もときどき見られます。写真6は片側の頭上突起が欠けている個体です。
写真6
写真8
今回の調査結果も、従来の仮説である「オオムラサキの生息するエノキにおいては、アカボシゴマダラの生息は稀」ということを支持しています。
10年前は正直言ってアカボシゴマダラの越冬幼虫を意識して探していませんでした。しかし、私が撮りためた過去の画像と調査記録の洗い直しを行ってみると時折本種が混在していることがわかりました。これらの調査記録を見るとオオムラサキがいる根元でのアカボシの検出確率(総調査木数に対する検出陽性木数の割合)は5%以下となり、この時と比べてもそれほど状況は変わっていないのではないでしょうか。
オオムラサキは雑木林の中あるいは隣接した湿気のあるエノキの落ち葉にいることが多く、この点においてもゴマダラダチョウやアカボシゴマダラと生態が異なります。幼虫レベルにおいては3者は微妙に棲み分けを行っていると考えられます。