2010年の月刊むし9月号ではアカボシゴマダラ Hestina assimilis の特集記事が掲載されました。その中で、東京都八王子市東部において3年間でアカボシゴマダラの幼虫の数がゴマダラチョウ Hestina japonica のそれを上回ったという報告がなされました [1]。そして環境省は、これをアカボシゴマダラを特定外来生物に指定する一つの根拠の資料として挙げています [2]。
私はこれまでアカボシゴマダラの幼虫ステージにおける分布を調査してきましたが、確かに関東で目撃できる幼虫の数はおびただしい限りです。しかしながら、少なくとも私が調査した範囲においてはゴマダラチョウのテリトリーやニッチにおいてアカボシゴマダラが前者を侵しているとは思えません。棲み分けているように思えます。
とはいえ、地域的な差異もあるかもしれません。そこで、私自身で実際に東京都西部、埼玉県、茨城県、千葉県、神奈川県内でのエノキを食草とする3種のチョウ(オオムラサキ Sasakia charonda、ゴマダラチョウ、アカボシゴマダラ)の越冬幼虫の分布を調べています。
まだ調査回数も調べたエノキの数も少ないのですが、これまで少なくともエノキの成木からはアカボシゴマダラの越冬幼虫はほとんど検出できず、低木においてゴマダラチョウといっしょにいるところを確認しているだけでした。
例として今日のオオムラサキ生息地での調査データを以下に示します。このエリアでは初めてエノキ成木からゴマダラチョウとアカボシゴマダラをいっしょに検出しました。今日の結果をまとめると以下の通りです(エノキの高木18本および低木・幼木21本の調査結果)。
アカボシゴマダラのみ検出 低幼木4本
ゴマダラチョウのみ検出 高木4本
ゴマダラとアカボシを検出 高木1本
オオムラサキとゴマダラを検出 高木3本
オオムラサキのみを検出 高木2本
いずれも検出されず 高木8本・低幼木17本
エノキ高木における総検出頭数は以下のとおりです。木によっては落ち葉の保存状況がよくなく、一人で急いでの探索だったせいもあり、検出数は少なめです。
アカボシゴマダラ 2匹
ゴマダラチョウ 40匹
オオムラサキ 56匹
写真2
写真3は、高木から検出したゴマダラチョウ(左)とアカボシゴマダラ(右)を示します。
写真3
今回の結果は、アカボシゴマダラは主にエノキ低幼木に見られ、稀に高木からも検出されるというこれまでの見解を一応支持するものです。さらに今回もゴマダラチョウとアカボシゴマダラは根元の異なる方位から検出されました。
今回、オオムラサキの検出数は予想したほどではありませんでした。毎年決まった木に越冬幼虫が見つかるという一方で、前年検出した木で翌年まったく検出されないということもよくあります。後者の場合、産卵用としてのその木に対する親和性が定着していないのかもしれません。検出数が少ないのは環境悪化に加えてマニアによる採集圧の影響もあるかもしれません。
年明けての冬も残り少なくなりましたが、引き続き越冬幼虫調査を続けていきます。
参考文献
[1] 松井安俊 (2010) ゴマダラチョウへの脅威, 放蝶アカボシゴマダラ問題を憂慮する. 月刊むし, 475, 17-21.
[2] 環境省: 日本の外来種対策>特定外来生物の選定(専門家会合資料・議事録等). https://www.env.go.jp/nature/intro/4document/data/sentei.html
カテゴリー:エノキ下の越冬幼虫の探索