Dr. Tairaのブログ

生命と環境、微生物、科学と教育、生活科学、時事ネタなどに関する記事紹介

コロナ禍のこの期に及んでも何もしない国

昨夜(7月21日)のテレビの報道を観ていたら、米国での新型コロナウイルスSARS-CoV-2陽性者数が、現在一日あたり6〜7万人と最悪のペースで増え続けている中において、ニューヨーク市では、7月19日には陽性者数が5人、死者がゼロになったことを伝えていました [1]。一時は検査・隔離も追いつかず、医療崩壊に追い込まれ、一日に600人に迫る市民が亡くなっていたニューヨーク市ですが、劇的な減り方です。

報道では、ニューヨーク市の状況が好転した要因は、当初のロックダウンもありますが、検査・隔離・追跡のサイクルの徹底であると伝えていました。ニューヨーク市に住む知り合いの大学教授からも聞いたのですが、ニューヨーク州には、病院やクリニックはもとより、大学、薬局、教会などいたる所にPCR検査場があって、居住者であれば誰でも無料で回数制限なく検査を受けることができるようです。しかも、グーグルマップで簡単に最寄りの検査場を知ることができるということです。日本の対策とは雲泥の差です。

この感染症対策の成功には、A. クオモ知事の力が大きいとされており、現在の支持率は80%に達すると言われています。彼は、トランプ大統領に対して、コロナウイルスの共謀者(co-conspirator of COVID-19)になるなと求めています [2]

昨夜の報道では、ニューヨーク州での検査は、現在一日あたり7万件が可能と伝えていました。クオモ知事のツイートを覗いてみたら、それを裏付けようなコメントがありました(図1)。昨日の検査数は66,169件、835件が陽性で陽性率は1.29%とあります(図1左)。感染症対策の方針の一つとしての、検査数の充実が現れています。さらに入院数は724で2人が亡くなったとしており、情報が具体的です。

つづくツイートでは、州名を挙げて「ニューヨーク州に来るなら14日間の自主隔離をせよ」と指示しています(図1右)。これも対策としてシンプルですが具体的です。

f:id:rplroseus:20200722214610j:plain

図1. A. クオモ知事のCOVID-19対策に関するツイートの例. 

ニューヨーク州では、さらに8月末まで検査が拡充される予定です。そして、段階ごとに経済活動を再開させるために州が設定されたガイドラインでは、特定の職種の人たちに検査が義務付けられています。

感染拡大の抑制に欠かせないのが、検査とともに濃厚接触者の接触追跡です。ニューヨーク州では、地域の制限解除の要件として、月間で住民1000人あたり30人のテストを実施することや、感染者との濃厚接触者を追跡する”トレーサー”を、10万人あたり少なくとも30人用意することなどを設けています [3]

トレーサーの仕事は陽性者の濃厚接触者を探し出し、新たな感染者を見つけることです。報道では、この追跡を行うトレーサーが、ニューヨーク州には3000人もいると伝えていました。アプリを使わずとも、マンパワー接触追跡を可能にしているという状況です。

非常事態宣言(外出禁止令)解除後の経済活動再開も、6月8日のフェーズ1から7月6日までのフェーズ3まで段階的に進められてきています。それでも、室内レストランでの会食は今なお禁じられており、違反には高額の罰金が課せられていると聞きました。

ニューヨーク州と東京都における新規陽性者数の推移を示したのが図2です。ニューヨークの場合、縦軸の最大値が東京より50倍ほど高いですが、減少傾向はよくわかります。東京の場合は6月下旬から流行が再燃し、陽性者数が増加しています。

f:id:rplroseus:20200727004106j:plain
図1. ニューヨーク州(上)および東京都(下)における新規陽性者数の推移(wordometer COVID-19 Coronavirus Pandemicおよび東京都感染症対策サイトから転載).

図1では、積極的に対策をとったニューヨーク州と基本的に何もしていない東京都との差が如実に現れている格好です。東京都のみならず、国民に要請すること以外のことは、国も何も対策をとっていません

感染抑制対策において最も重要なのが、上述した検査・隔離・追跡のサイクルです。ニューヨーク州の対策は明確であり、制限解除できる要件として地域ごとの検査数とトレーサーの数を決めています。そして検査数も陽性率を十分に低くできるように(<2%)、〜7万件/日と実施されています。翻って日本においては、このような最低限の検査数やトレーサーの数が決められたことなど一度もありません。検査を義務づけている職種もありません。

私はこのブログで、検査・隔離・追跡に関する今やるべき対策(東京型ウイルスの解析と情報開示、検体プール検査、ローラー作戦、職種別検査、下水監視、QRコード+追跡アプリ)を提示していますが(→再燃に備えて今こそとるべき感染症対策)、何ら実現されていません。

そして、安倍政権は、何の感染症対策もないまま、Go To トラベル事業を前倒しで始めました。この事業が全国的な感染拡大の起爆剤になることは明らかであり、想像力のなさに呆れてしまいます。このコロナ禍でも有効な対策を打ち出せず、普通の感覚であれば、とても恐くて進められないと思うのですが、国のトップとしてはちょっと神経を疑います。しかもこの事業は二転三転の方針転換で、あげくに東京外し、対象者の枠も曖昧というおまけ付きです。

今日の政府分科会で、尾見会長は「今は社会経済活動と感染症対策という両立という大命題がある。自粛、外出控え、休業要請で抑制することができるが...」と言っていましたが、すべてお願い、呼びかけレベルで、国の対策としては何の提言もなく、分科会は機能しているのかという疑問を持ちます。全国的な感染拡大となれば(いや確実に拡大しますが)、分科会の責任も重大です。

安倍総理は昨日の自民党役員会で「重症者数はきわめて低く抑えられていて、医療提供体制も逼迫していない」と述べました。しかし今日、山口芳裕杏林大学教授は、「東京の医療は逼迫していないというのは誤りだ」として痛烈に批判しました。コロナ禍のこの期に及んでも何もしない国の姿勢は、一体何なのでしょうか。Go To トラベルの実施とともに決定的に全国的感染症拡大を許し、もはや対策が手におえない状況になり、陽性者収容や医療が機能不全に陥ることを危惧します。

引用文献・記事

[1] テレ朝News: 全米感染拡大も…ニューヨーク市“死者ゼロ”の理由. 2020.07.21. https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000188995.html

[2] CBS News: Trump is "enabling the virus," New York Governor Andrew Cuomo says. July 6, 2020. https://www.cbsnews.com/news/andrew-cuomo-trump-enabling-coronavirus/

[3] mashup NY: NY州 制限解除や事業再開の基準を提示. 2020.05.05. https://www.mashupreporter.com/nys-criteria-for-reopening/

引用した拙著ブログ記事

2020年6月1日 再燃に備えて今こそとるべき感染症対策

           

カテゴリー: 感染症とCOVID-19

カテゴリー: 社会・時事問題