Dr. Tairaのブログ

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全国で新規陽性者1000人超え

今日、日本全国における新型コロナウイルス新規陽性者数が1,000人を超え、1,252人となりました。そして9府県で1日当たりの新規陽性者数を更新しました。すなわち、大阪221人、福岡101人、愛知167人、沖縄44人、京都41人、岐阜30人、栃木16人、三重10人、鳥取2人の新規陽性者数を記録しました。加えて、今回の流行が始まって以来、岩手県で初めて陽性者が2人確認されました。

図1は、NHKの本日21時のニュースの時点での陽性者情報であり、感染者1,229人となっていますが、栃木で10人、岐阜で13人の上乗せがあり、合計1252人となります。

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図1. テレビのニュースが伝える全国の新規陽性者数と累積陽性者と死者数(NHK News Watch9 2020.07.29).

累計死者数もいつの間にか1,000人を超えて1,003人(クルーズ船を除く国内事例)となりました。思えば、最初の国内事例から累計陽性者数が1,000人を越えるのに49日間かかりました。そのことをブログに書いたのが3月4日です(→国内感染者1,000人を突破)。それが、最初の事例から6ヶ月以上経って、たった1日で陽性者数が1,000人を超えるようになったわけです。

政府の感染症抑制へ向けての無策ぶりや勘違いぶりは目を覆いたくなるばかりです。実は最初の流行の3-5月は検査がまったく足りないことで、はるかに多数存在していた若年層の無症状・軽症感染者を見逃していたことは、今回の流行における陽性者の年齢構成を見れば明らかです。それに気づかないないまま、見かけの減衰を「日本モデルの力」の成功(→世界が評価する?日本モデルの力)などと勘違いして経済活動再開に走ったこと、そして裏ではだらだらとくすぶっていた潜在的若年層の感染の燃え残りが、再び勢いを増し現在に至っていることを、国は強く認識すべきと思います。

言い換えれば、検査を絞った当初のクラスター対策が大きな勘違いと油断を招き、今回の再燃流行をもたらしたと言っても過言ではありません。

対策の失敗の上塗りは専門家会議の廃止と分科会への改組、それに、もはや論外ですが、無策の中でのGo Toトラベル事業の前倒しの開始です。

私は6月初頭に第1波の流行の再燃を予測して、国がとるべきいくつかの可能な感染症対策を提言しました(→再燃に備えて今こそとるべき感染症対策)。それは専門家会議の見解の見直し、ウイルス解析情報の開示、検査拡充と実施(職種ごとの優先検査)、接触追跡アプリの導入、隔離・医療態勢の強化と経済支援、厚労省感染症コミュニティーの体質改善です。しかし、これらのほとんどが今なお対策として実現しておらず、あるいは改善されていません。

このような無策の中での社会経済活動の再開は異常とも言えます。おそらく8月には、政府は再度接触削減のための自粛要請を強化することになるでしょう。

●行政検査の弊害

検査の件数は4月の流行ピーク時に比べて大幅に増えましたが、基本は厚生労働省を司令塔とする保健所を通す行政検査であり、検査対象者は濃厚接触者に限定されています。この弊害は、たとえば介護施設クラスター発生の事例に現れています(→PCR検査拡充非合理論の根っこにあるもの)。すなわち、この事例では行政検査の対象となったのは濃厚接触者の40人のみであり、入所者・職員全員(160人)については検査が拒否されました。結局、施設自らが検査する必要がありました。

今日もテレビの情報番組やワイドショーでは、行政検査に関する検査拒否などのトラブルについて伝えていました。名古屋市では、ある女性が38℃の発熱と味覚障害があり、保健所に相談しましたが、陽性者との接触の可能性が低いとして検査の対象にないと回答されました。翌日全身の痛み、倦怠感で再度保健所に連絡するも50回以上かけても繋がらず、やっとかかったと思ったら「まだ話足りないんですか?」との返事だったそうです。そして、30分後「やはり接触が確認できないので検査できません」との回答で終わりました。

別のワイドショーでは大阪市での事例を紹介していました。旅行後に発熱した男性が医師に相談したところ、コロナの初期症状かもしれないとして保健所への連絡を勧められました。そして、保健所に連絡したところ「医師からの直接の依頼でないと検査は受けられない」と回答されました。男性は糖尿病の持病があって手遅れになるかもしれないと伝えると「それは仕方ないですね」と保健師に冷たく言われたそうです。その後4、5日後には検査を受けられるということになったらしいですが、「保健所の冷たい対応には驚いた」と漏らしていました。

3-5月の最初の流行において相当数の患者と死亡者を出したことと加えて、これは行政災害とも言える、大きな国民の健康被害と捉えるべきかもしれません。

●無策が招く市中感染と家庭内感染

先のブログ「コロナ禍のこの期に及んでも何もしない国」でも紹介したように、米国ニューヨーク州では感染拡大抑制対策の一つとして室内会食(レストラン)が禁止されています。室外では認められていますが物理的距離(physical distance)をとることとなっています。このNY州の方針の正しさをまさしく証明すると思われるのが、東京の最近の感染事例です。

昨日(7月28日)における経路判明の陽性者119人の感染場所と形態を見ると、32%に当たる38人が家庭内、20%に相当する24人が会食となっています(図2)。つまり、お店で飲食して感染した後、そのまま持ち帰って家庭内感染というパターンが相当の割合であることを示唆しています。しかも東京都の説明によれば2、3人での会食で感染が多いということをテレビは伝えていました。大阪府の吉村知事は、5人以上の会食は避けるという方針を述べていますが、人数はあまり意味をもたないということになります。

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図2. 東京都における感染経路判明における感染の場所と形態(2020.07.29 TBSテレビ「Nスタ」).

このように、ほとんど無策の状態での東京における会食や飲食を通した感染事例を考えると、もしニューヨークのような対策をとっていれば、感染拡大はある程度防ぎ得たのではないかと考えられます。政府は相変わらず感染予防対策として3密回避を強調していますが、むしろ「会食が最大の感染リスクである」という視点からの対策をとるべきでしょう。飲食時には必ずマスクを外しますので、会食が危険なことは考えてみれば当たり前のことです。

岩手県での初事例

時間の問題だったかもしれませんが、岩手県で初の陽性者が出てしまいました。達増拓也知事は以前、「第1号になっても県はその人を責めません」「感染者は出ていいので、コロナかもと思ったら相談してほしい。陽性は悪ではない」と呼びかけていましたが、感染者が責められるということは本来おかしなことです。このようなことを知事が呼びかけなければならないほど、日本における差別的な冷嘲熱罵の傾向は異常であるということです。

政府は依然として無策です。8月に入ると軽症者のトリアージ収容態勢と医療態勢はよりひっ迫した状況になるでしょう。そして、仮に夏はうまく乗り越えられたとしても、次に冬の流行期がやってきます。感染者の爆発的増大とともに医療崩壊が起き、とんでもない死者の数になることを私は恐れています。

引用した拙著ブログ記事

2020年7月25日 PCR検査拡充非合理論の根っこにあるもの

2020年7月22日 コロナ禍のこの期に及んでも何もしない国

2020年6月1日 再燃に備えて今こそとるべき感染症対策

2020年5月25日 世界が評価する?日本モデルの力

2020年3月4日 国内感染者1,000人を突破

                            

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:社会・時事問題