Dr. Tairaのブログ

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流行第1波の再燃

はじめに

7月に入り、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の陽性確定者が増えてきました。東京都では二日続けての100人越えです。もっとも東京都の集計はどうもはっきりしないところがありますので、先月からすでに急激に増えていた可能性もありませす。とはいえ、このところ陽性者が急に増えてきたことは全国的な傾向のようです。

ここでは、陽性者数が増えてきたことについての解釈と、感染拡大抑制の対策についての個人的見解を述べたいと思います。

1. 第2波というよりも第1波の再燃

今日(7月3日)までの最近2ヶ月の陽性確定者の推移を図1に示します。今日の新規陽性者は東京で124人(図1上)、全国で250人(図1下)です。

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図1. 東京都(上)および全国(下)におけるCOVID-19流行状況ー7月3日までの新規陽性確定者数の推移(NHK集計データ[1] からの転載図に加筆).

5月25日、安倍首相は記者会見で「日本ならではのやり方で、わずか1ヶ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた。まさに日本モデルの力を示したと思う」と述べました。

しかし、私は、これは収束というよりも、第1波の残り火がくすぶっている状態だけなので、経済活動が再開されれば、積極的な感染拡大抑制対策に行なわれない限り、1ヶ月後に再燃することを述べました(世界が評価する?日本モデルの力? )。事実3月下旬以来、全国レベルで見れば1日当たりの新規陽性者数は20人以下になったことはありません(図1下)。とても収束と言えるものではありません。

昨日、今日のテレビのニュースやワイドショーを見ていると「第2波の襲来か?」などと伝えていますが、第1波の再燃と捉えた方がよいと個人的には思います。本格的な第2波(マスコミ的には第3波)は今年の秋以降になると予測します。

2. 流行モデルが示す再燃

感染症流行は、感染者がゼロにならない限り、人々が接触を再開すればまた元にも戻ることは感染症学や疫学の常識です。政府クラスター斑の西浦博教授(北海道大学)が描く流行予測についてのモデルは、これを如実に表しています [2]図2この図は東京都の動画アーカイブ(2020年5月15日)で見ることができますが、小池百合子都知事に対する西浦教授の説明で使われたものです。4月頭をピークとする東京のCOVID-19の流行パターンが、今後どのようになっていくかを予測したものです。

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図2. 東京都のCOVID-19流行を予測する西浦モデル(東京都動画アーカイブ[2]からの転載図に加筆したもの).

図からわかるように、何も対策がとらなければ6月下旬以降流行がぶり返し、4月前の感染拡大と同じようになるか、それ以上の流行が予測されています。クラスターのような高リスク伝播が10%削減されれば流行のピークがやや遅れ、30%減になるとかなり抑えられることを示しています。ただ、これが検査数や接触機会削減の程度とどのような関係があるかはよくわかりません。

図2で示すように、小池都知事は、何もしなければ流行がぶり返すというレクチャーを受けていたわけですから、このような事態は予測できたはずであり、それを避けるためのより積極的な対策もとれたはずです。にもかかわらず、部分的な"夜の街"の集団検査以外にはこれといった新しい対策はとられませんでした。先般、小池都知事は東京都の新しい指標を公表しましたが、感染症拡大抑制の対策としては、依然として何もありません(→東京都の新しい指標で思ったこと)。

3. 現状をどう見るか

いまの流行の再燃について、図1図2を比較しながら見ることについては、気をつけなければいけないことがあります。それは、現在と以前とではPCR検査の方針が違うので、新規陽性確定者の増加の見方については、その影響を考慮しなければならないということです。

図2の4月をピークとする流行時においては、クラスター対策とセットの積極的疫学調査の方針のために、重症化しやすい有症状者を優先的に検査し、無症状者は検査しないというものでした(→あらためて日本のPCR検査方針への疑問)。したがって自ずから、重症化しやすい高齢者に偏った陽性患者が記録されていたということがあります。

しかも、相談・受診の目安が設けられて検査が抑制されていたために、全体的に検査を受けるまでのタイムラグを生じています。そうすると、検査を受けないまま自然治癒した軽症の人も相当いたと考えられます。つまり、この時期は、無症状感染者はもとより、軽い症状になりやすい若い世代の感染者ほどカウントされていない可能性があるのです。

一方いまは方針が変わり、無症状の濃厚接触者も検査され、集団検査も行なわれるようになりました。つまり、検査数は依然として十分とは言えないものの、以前よりははるかに網羅的に検査が行なわれているわけです。したがって、感染者の中心である20–30代の若者がやっと広範囲に検出されるようになったと言えます。今日のテレビの報道番組では、4月4日ときょう(7月3日)の陽性確定者の年齢構成の違いを示していましたが、まさしく検査の方針の違いが現れていると思います(図2)。

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図2. テレビの報道番組が伝える東京都の4月4日と7月3日の陽性確定者の年代別割合ー現在は圧倒的に20–30台が多い.

そうなると、4月4日と7月3日の陽性確定者数にはあまり違いはないものの、流行の状況はまったく異なる可能性があります。4月4日は多くの若い世代の感染者が検査から漏れている状況にあること、そして7月3日と比べて40–50代や60–70代がそれぞれ2.3倍、5倍の数になっていることを考えると、現在よりも相当流行が進んでいたと推察することができます。

逆に7月3日は4月4日よりも流行の前段階と考えると、これから著しく陽性確定者が増える可能性があります。たとえば、今後何も対策がとられなければ、4月4日と同じ40–50代、60–70代の陽性者数を数える頃には、全体としては450人/日の新規陽性者数になっている計算になります。現在のペースの倍加時間(約9日)とすれば、これは2週間後に当てはまる数字ということになります。

実際には人々の行動変容(例:マスク着用や物理的距離の確保)の意識や以前とは違い、検査・隔離が早くなっていることも考えれば、そして休日の検査数の減少を考慮すれば、感染者増加はより鈍化することもあり得ます。上記の450人/日に達する時期は少し後ろにズレて、7月末頃になるかもしれません。そしてこの増加分の多くは、以前は検査をされないで放置されていた市中感染者があぶり出されている分ということになります。

上記のように、図2の西浦モデルは、根拠となる新規感染者のパラメータそのものにバイアスがあるということになります。つまり4月をピークとする前回の流行は、無症状・軽症者や若年世代の多くの推定感染者数を除いた不正確な数字に基づくものであり、またこの数字に基づけば、正確に実効再生産数を割り出すことはむずかしかったということになるでしょう。そして、緊急事態宣言に伴う接触機会削減の効果の検証することも容易でないことがわかります。

この意味で、そして以前と今とでは異なる流行パターンの考え方をしなければならないほど、国が当初採ってきた検査限定適用とセットのクラスター対策は罪深いと思います。命と健康を守るために必要な事実を知る権利がある国民に対して、不利益とも言うべき不完全な、偏った疫学情報を生み出したことになるわけですから。

4. あらためて「検査と隔離」

国の対策の基となるCOVID-19流行のシミュレーションは、クラスター対策班の西浦教授が担っています。今後、政府専門家会議は分科会として位置づけられる予定ですが、形を変えたとしてもクラスター斑もいままで同様に仕事を行なうことになるでしょう。そこで私は、西浦モデルに期待したいのは、単純なクラスター伝播の削減や接触機会削減のみを対策として考慮するのではなく、「検査と隔離」の概念をパラメータとして入れてほしいということです。

これまで何度ととなく西浦教授のシミュレーション結果を見てきましたが、なぜか一切検査拡充と隔離の効果が考慮されていません。検査で隔離される感染者が多ければ多い程、それだけ感染の広がりは抑制することができます。にもかかわらず、これがパラメータと考慮されていないということは、クラスター戦略の当初のPCR検査抑制の方針が影響しているのでしょうか。

一方、九州大学の小田垣孝名誉教授(社会物理学)は、経済活動と感染拡大防止の両立を想定したシミュレーションモデルを使って、検査と隔離の効果を定量的に示しています [3]。ここで使われているのは一般的な「SIRモデル」を改良したモデルであり、公表値を使って独自に計算しています。

SIRモデルは、未感染の人(S)、感染者(I)、治癒あるいは死亡した人(R)の数が時間とともにどう推移するかを示す数式です。疫学の専門家でなくても理解できる平易な数式なので、国内外の多くの専門家や一般人がこの数式を改良しながら、さまざまな計算結果を導いています。

小田垣氏は、計算の前提として、無症状や軽症のため検査を受けずに生活を続ける「市中感染者」と、PCR検査で陽性と判定されて隔離生活を送る「隔離感染者」の二つに感染者を設定し、前者は周囲に感染させるが、後者は感染させないと仮定しています。さらに、陽性と判定されたらすぐに隔離されると仮定し、検査が増えるほど隔離感染者が増えて伝播が抑え込まれるということを考慮してモデルを改良し、計算しています。

モデルを使って、当時の流行状況に対して、異なる対策によって新規感染者数が10分の1に減るのにかかる日数を計算したところ、接触機会8割削減で23日、都市封鎖に相当する10割削減でも18日かかることがわかりました。一方、検査数が倍増するなら接触機会が5割減でも14日しかかからず、検査数が4倍増なら接触機会をまったく削減しなくても8日で達成するという結果になりました、つまり、接触機会削減よりも検査・隔離の拡充の方が対策として有効であることを示したことになります。

最近出版されたネイチャー誌論文では、COVID-19流行の抑制に検査と隔離が有効であることが報告されています [4]。この研究では、人口3,200人のイタリアのボー(Vo’)市において、市民85%以上をPCR検査しています。検査の標的はE遺伝子とRdRp遺伝子です(→ウイルスの変異とPCR検査参照)。その結果、陽性者の42.5%が無症状であり、無症状感染者が、有症状患者と同様のウイルス量を保持することも明らかにしています。

この街ではロックダウン前の陽性者の割合は2.3%だったのに対し、解除後では1.2%に減少しました。すなわち、集団検査と患者の隔離の迅速な対応が感染拡大抑制に有効なことが証明されています。論文では、感染者が自覚症状がない間にも伝播させる可能性を示唆しており、さらに全市民を検査することで、感染が拡大して手に負えなくなる事態が避けられる手段が得られると述べています。

おわりに

国の対策のための流行状況予測に関する提言は、クラスター斑が責任を担うものです。流行の再燃に際して、西浦教授には是非この小田垣モデルと同様な観点からの、経済活動を可能とするシミュレーション結果を示してほしいです。5月15日は、小池都知事に対して高リスクの伝播の削減効果を示しているわけですが、「クラスターを抑えればよいという旧態依然の概念」に基づくものであり、経済活動を優先したい都知事に対して新しい対策を促すほどの説得力はなかったかもしれません。いまはクラスターだけではなく、市中感染者も含めて、流行が再燃していることを考慮する必要があります。

引用文献・記事

[1] NHK: 特設サイト 新型コロナウイルスhttps://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/#infection-status

[2] 東京都: 令和2年5月15日 東京都新型コロナウイルス感染症最新情報 ~小池知事から都民の皆様へ~<アーカイブ版>. https://www.youtube.com/watch?v=aI8zvZAdSTM

[3] 小田垣 孝: 新型コロナウイルスの蔓延に関する一考察. (第 1 稿 2020.5.8)(改訂第 5 稿 2020.6.22. http://www001.upp.so-net.ne.jp/rise/images/%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E4%B8%80%E8%80%83%E5%AF%9F.pdf

[4] Lavezzo, E. et al. Suppression of a SARS-CoV-2 outbreak in the Italian municipality of Vo’. Nature published June 30, 2020. https://doi.org/10.1038/s41586-020-2488-1

引用拙著ブログ記事

2020年7月1日 東京都の新しい指標で思ったこと

2020年6月11日 ウイルスの変異とPCR検査 

2020年5月26日 世界が評価する?日本モデルの力?

2020年4月6日 あらためて日本のPCR検査方針への疑問

                          

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:社会・時事問題