Dr. Tairaのブログ

生命と環境、微生物、科学と教育、生活科学、時事ネタなどに関する記事紹介

緊急事態宣言延長で思うこと

今日(5月4日)、安倍総理大臣は首相官邸で記者会見し、予定していた緊急事態宣言を1ヶ月で終えることができなかったことについて国民に陳謝するとともに、5月末までの延長を表明しました。

私はこれを聴いていて、緊急事態宣言延長はやむおえないと率直に思いました。一方で、さまざまな疑問もあります。やはり思うのは、これまでの緊急事態宣言期間の総括であり、当初の目標からからどれくらいの達成度か、1ヶ月間延長するに至った根拠は、そして解除を可能とするための見通しを具体的な基準をあげて説明してほしかったということです。とくに部分的に解除するという言及の根拠や、さらに1ヶ月延長することによる中小企業へのさらなるダメージに対する補償についても、言及してほしいと思いました。

安倍総理が具体的な根拠をあげて説明するためには、前提として政府専門家会議の筋の通った説明が必要なことは言うまでもないことです。しかし、前日の専門家会議の記者会見での説明は首をかしげざるを得ないものが多く、本当に大丈夫かという気さえしました。

今日のTV朝日の「モーニングショー」では、専門家会議の説明の問題点を取り上げていました。まず問題は、副座長の尾身茂氏が「我々は感染の実態の一部を把握しているにすぎない」と述べていたことです(図1)。「クラスターさえ捉えれば感染の実態が掴める」という方針でPCR検査を限定使用してきた張本人である政府専門家会議から、こうも堂々と反省もなく述べられると、唖然としてしまいます。

しかも、PCR検査数が減っている中で新規感染者が減っているのでは?という疑念に対して、彼は「PCR検査数が徐々に増えている中で...」と嘘を言っていました。

そしてクラスター班の西浦博氏が「報告されているより少なくとも4-5倍の感染者がいる」と、これも堂々と述べています。

f:id:rplroseus:20200504224329j:plain

 

図1. 専門家会議メンバー尾身茂氏とクラスター班西浦博氏による感染者数に関する見解.

彼らが感染の実態はわからない、発表されている数倍の感染者がいると考えているのなら、彼らが示している図2の感染者の増減の推移に関するグラフはどのようにして作ったのでしょうか。このようなグラフは、緊急事態宣言中の今までの1ヶ月間の接触削減の効果や達成度を総括するものとしてきわめて重要です。しかし、根拠となる数字や生データがそもそも不正確なものであったら、すべてが崩れてしまいます。

たとえば、東京都で言えば、緊急事態宣言以降400人/日以上を検査した時には(たった4回しかありませんが)、翌日の陽性者を150人以上出していますが、200人/日以下の検査人数だと陽性者は100人以下にしかなっていないのです。検査人数に陽性者数が依存していることがわかります。

f:id:rplroseus:20200504224348j:plain

図2. 専門家会議が提出した感染者の推移のグラフ.

少なくとも専門家会議は、彼らが言う実効再生産数の数値や図2のグラフの根拠となる計算式と生データおよび会議の議事録を公開すべきでしょう。そもそもCOVID-19については未知な部分が多く、流行の予測や抑制対策の効果の予測もむずかしい面があります。だからこそ、余計科学的データも含めた情報公開が重要なのです。

西村経済再生大臣は、今日「日本は(幸いにも)爆発的感染に至ってない」と言っていましたし、先日のテレビ番組では「世界に冠たるクラスター班が感染拡大を抑えた..」とも言っていました。

思えば3月始め頃、日本のメディアのいくつかは、お隣韓国の状況を感染爆発という形容で揶揄していたことを記憶しています。ところがいつの間にか日本はすっかり韓国を追い抜いてしまい、感染者(陽性者)数、死者数、致死率とも東アジア・環太平洋諸国の中で、中国を除けば、トップクラスの仲間入りをしています(表1)。西村大臣の「爆発的感染に至ってない」というのは免罪符にもならないでしょう。

表1. 東アジア・環太平洋諸国における感染者数、死者数、および致死率

f:id:rplroseus:20200504224424j:plain

さらに死者数と並んで重症者数も増え続けています(図3)。クラスター戦略は失敗し、その結果、市中感染者とそこを起点とする院内感染などが増えたため、クラスター班は緊急事態宣言とともに8割削減という物理的隔離を提案せざるを得なかったというのが、本当のところでしょう。反省点があるとすれば、もっと早く接触削減を提言すべきでした。

f:id:rplroseus:20200504224405j:plain

図3. 国内の死者数と重症者数の推移.

西浦氏は4月10日の実効再生産数は全国で0.7、東京で0.5であると発表しました。であるなら、その後接触8割削減が実行に移されたわけですから、この1ヶ月近くで相当にその値は低くなっていなければなりません。そして、実効再生産数が1を下回った時点での緊急事態宣言と8割接触削減であるとするなら、そもそもそれらを大規模に実施する必要があったのかという疑問も出てきます。

安倍総理が緊急事態宣言の延長を表明するなら、当然その値を公開し、それをベースにした話にすべきでしょう。それによって国民が我慢して行ってきた自粛(自主隔離)と8割削減の意義と効果がわかるわけですから。個人的には延長は仕方ないとは思っていますが、国民に定量的な達成度も解除の定量的基準も示さず、いきなり延長というのは手続きとしては乱暴です。

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:社会・時事問題