Dr. Tairaのブログ

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スパイクタンパク質とスパイクmRNAの核内移行

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

はじめに

新型コロナウイルスSARS-CoV-2)は、特に脆弱な高齢者層に深刻なCOVID-19の病態を引き起こし、SARS-CoVやMERS-CoVよりも高い病原性と感染力を持ちます。表面の突起物であるスパイク(S)タンパク質がヒトのACE2受容体に結合することによって細胞中に侵入しますが、このSタンパク質は、SARS-CoV-2特有の病態に関わる主要な病原因子であると考えられています。

Sタンパク質3量体のS1/S2の境界には、他のコロナウイルスのSタンパク質には見られない、特異な塩基性アミノ酸の挿入配列(PRRAR)があって、フーリン(furin)切断部位と考えられています(下記図1参照)。すなわち、塩基性アミノ酸を標的とするセリンプロテアーゼであるフーリンの作用を受けてこの部分の解裂が起こり、細胞への侵入と伝播を容易にしていると考えられています。

具体的には、S1がヒトACE2受容体への結合を、S2が受容体に結合したウイルスの細胞内への侵入を担っていますが、このプロセスが完了するためには、Sタンパク質が結合した後S1とS2の間で切断されることが必要であり、ここに多塩基性挿入配列があることで宿主細胞のフーリンによる切断(S1とS2とに開裂)を容易にしていると考えられます。さらに、ACE2の傍にある膜貫通型プロテアーゼTMPRSS2によってS2の一部が切断されて細胞への侵入(ゲノムRNAの侵入)が完了します。

SARS-CoV-2になぜこの特徴的な塩基性アミノ酸の挿入配列があるのかというのは謎の一つであり、論争の的になっています。その論争に中心にあるのが、この配列は人為的に挿入されたものだ(すなわちSARS-CoV-2は人為的改変ウイルス)とする仮説です(→新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える)。

それはともかくとして、最近の研究で、この塩基性アミノ酸の挿入配列には核移行(核局在化)シグナル(nuclear localization signal, NLS)[1] の機能があり、SARS-CoV-2特有の病原性の関連するゲノムの特徴として考えられるようになりました。すでに、SARS-CoV-2感染気道上皮において、Sタンパク質が核内に移行することが報告されています。最近の研究では、SARS-CoV-2 mRNAが感染細胞の核内に集積していることも示されています。

今回、まだプレプリントの段階ですが、米ノースダコタ大学、NIHなどの共同研究チームによって、SARS-CoV-2感染細胞においてSタンパク質とそれをコードするmRNAが同時に核内移行するという、驚くべき初めての報告がなされました []。そして、この核内移行は、ヒト病原性ベータコロナウイルスに特有のNLSモチーフを持つSタンパク質によって支援されていると結論づけられました。

私はこのプレプリントを一ヶ月前アブストラクトだけ目を通し、読みかけのままにしておいたのですが、昨日これを取り上げた解説記事 [3, 4]を目にしたことにより、あらためて精読しました。このブログ記事で概要を紹介します。

1. 核局在化シグナル

NLSとは,タンパク質の一次構造の中にあるモチーフ(領域)で、細胞内で合成された後に、それが核内に移送されるべきかどうかの目印になります。古くから知られるNLSは、塩基性アミノ酸のリジン(L)やアルギニン(R)残基が数個集まったモチーフであり、一つのポリペプチド鎖の中に複数存在することもあります。

古典的なNLS配列には単粒子モチーフであるpat4とpat7、および二粒子モチーフのbipartiteの3種類があります [5]。pat4は、4つの塩基性アミノ酸(リジンまたはアルギニン)またはヒスチジンまたはプロリンに関連する3つの塩基性アミノ酸の連続したストレッチと定義されています。pat7はプロリンから始まる6残基モチーフで、最初の4残基中3残基の塩基性アミノ酸があるセグメントで定義されます。bipartiteモチーフは、2つの塩基性アミノ酸、10アミノ酸のスペーサー、少なくとも3つの塩基性残基を含む5アミノ酸のセグメントからなります。

SARS-CoV-2のSタンパク質は表面膜貫通型の1型糖タンパク質ですが、他のコロナウイルスのSタンパク質にはないpat7タイプのNLSがあります。このNLSモチーフはプロリンから始まり、6個のアミノ酸が続き、4残基のうち3残基が塩基性である配列を含みます(全体として:PRRARSV)。しかし、Sタンパク質の細胞内局在に関しては、これまで包括的な理解は得られていませんでした。

2. 研究の概要

上述したように、Sタンパク質は表面膜貫通型の1型糖タンパク質ですが、他のコロナウイルスのSタンパク質にはない新規の核移行シグナル(NLS)「PRRARSV」によって核内に移行することが予測されていました。

今回研究チームは、SARS-CoV-2とSARS-CoVのSタンパク質配列の多重アライメントを行ない、前者に特異的な挿入配列とその挿入がNLSをつくることを見いだしました。すなわち、SARS-CoV-2には、 IS1 (GTNGKTR)、IS2 (YYHK)、 IS3(HRSY)、そしてIS4 (NSPR)の4つの挿入配列があり、さらに、IS4 のNSPRがpat7 NLS のPRRARSVをつくる(オーバーラップする)ことを見いだしました(IS4とpat7タイプNLSがPRを共有、図1)。

ここで重要なことは、従来フーリン切断部位として考えられてきた挿入配列(PRRAR)が、IS4(NSPR)が挿入されることでNSLモチーフになっているということです。つまりフーリン切断部位でありながら、核内移行のシグナルとしても機能する可能性もあるということです。したがって、フーリンによる先行切断によってNLSモチーフが破壊されるかどうかということが、NLSの機能性としての重要な判断材料となります。

図1. SARS-CoV-2のスパイクタンパク質にみられるSARS-CoVにはない挿入配列(IS1-IS4)とNLSもチーフ(文献 [2] より転載).

研究チームは、SARS-CoV-2のSタンパク質とSコードmRNAの同時核内移行が起こっているのか in vitro 実験で確かめ、このNLSモチーフが、Sタンパク質の核内移行に関わっているか検証しました。

実験材料として健康な非喫煙者慢性閉塞性肺疾患COPD)患者から初代正常ヒト気管支上皮(NHBE)細胞を得て、擬似的気管支気道上皮を形成させました。この気道細胞に、SARS-CoV-2 USA/WA-CDC-WA1/2020株、SARS-CoV Urbani株、MERS-CoVを感染させて、Sタンパク質とSコードmRNAの核内移行を調べました。Sタンパク質および SコードmRNA の検出にはそれぞれ免疫組織化学染色およびRNA in situ ハイブリダイゼーションを使用し、共焦点レーザー顕微鏡で検出しました。

その結果、SARS-CoV-2 SコードmRNAは核内(10%未満)、および細胞質内(〜90%)に豊富に存在し、mRNAの核内転移を示唆しました。1%以下の症例では、SコードmRNAの完全な移行が観察されました。感染細胞内では、Sタンパク質とSコードmRNAが共局在化し、タンパク質-mRNA複合体を形成していることがわかりました。

Sタンパク質は細胞質小胞体-ゴルジ装置経路で気道細胞の核内に移行し(25%)、その15%は核表面で検出され、タンパク質移行の過渡期であることが示唆されました。注目すべきは、核表面に存在するSコード mRNAの核内移行は、SARS-CoV-2のSタンパク質の支援を受けていたことです。一方、細胞質内に存在するS mRNAはそのような関連性を示しませんでした。MERS-CoVSARS-CoVSARS-CoV-2のNタンパク質も核内移行を示しました。Nタンパク質の核内移行は、すでに先行研究で明らかにされています。

これらの結果は、Sタンパク質のNLSモチーフが実際に機能していることを示唆しており、mRNAとの相互作用で共局在化していることになります。著者らは機械学習モデルの先行研究から、SARS-CoV-2 RNAゲノムとサブゲノムRNAは、宿主細胞のミトコンドリアマトリクスと核に転移している可能性があると述べています。今回の結果は、約1%のSコードmRNAが核内に転移していることを示唆していますが、SコードmRNAの細胞内局在は、SARS-CoV-2の発症に重要な役割を果たすと指摘しています。

研究チームは、さらに、SARS-CoV-2のRNAゲノムがSタンパク質またはNタンパク質と相互作用するかどうかを決定するために、配列ベースの予測モデルを提供するRPISeqウェブポータルを用いて、RNA-タンパク質相互作用を in silico 解析しました。その結果、SARS-CoV-2ゲノムに対するSタンパク質とNタンパク質の結合確率はともにちょうど 1 であることがわかりました。Nタンパク質は、ウイルスゲノムのパッケージングに不可欠な豊富に存在するRNA結合タンパク質です。

Nタンパク質が一本鎖または二本鎖RNAに結合する構造基盤はすでに知られていますが、今回の結果はSタンパク質がSコードmRNAに結合し、核内移行を補助していることを示しています。しかし、Sタンパク質がmRNAやおそらく正鎖RNAゲノムに結合する詳細な機構はまだ解明されていません。

Sタンパク質の核内移行は、他の病原性コロナウイルスと比較して、SARS-CoV-2感染における新しい病原性の特徴と言えるものです。しかし、Sタンパク質のNLSモチーフがウイルスによる病態生理にどのように寄与しているかは、まだ解明されていません。今回の結果から、Sタンパク質はNLSによって核内に移行することが示唆されましたが、このことは2つの重要な点を提起していると著者らは述べています。

その一つ目は、S1/S2境界に挿入されている多塩基性部位「RRAR」自体はNLSモチーフにならないということです。そして、挿入配列IS4の「NSPR」もNLSにならず、P7「PRRARSV」NLSの一部として挿入されることで、初めてSARS-CoV-2のSタンパク質にNLSを作り、このウイルスをヒト病原性コロナウイルスの中でユニークな存在にしている可能性があるということです。

ただし、著者らが挿入配列だと示しているIS4は、あくまでもSARS-CoV-2をSARS-CoVと比較した場合に言えることであって、類縁のコウモリウイルスRatG13やセンザンコウウイルスPangolinと比較した場合には、4残基NSPRのうち前二つのNSは共有されています。このあたりは査読の過程で修正されるかもしれません。

第二の重要なポイントは、上記したように、NLSモチーフがS1/S2境界の多塩基性アミノ酸部位(フーリン切断)との関連で機能するかどうかです。すべての1型膜貫通型糖タンパク質は、シグナルペプチドによって細胞表面に局在化する前に、ER-ゴルジ体経路で処理されます。Sタンパク質が宿主細胞侵入のためにビリオン(virion、宿主細胞の外にあるときのウイルス粒子の呼称)上にあるとき、多塩基性アミノ酸部位は機能的であると考えられます。

翻訳後修飾を受けたSタンパク質の表面移動は、フーリン切断によって処理される多塩基性部位を提供する可能性もありますが、これはウイルス再構成前に細胞質内で起こる必要はありません。したがって、著者らは、塩基性アミノ酸部位のフーリン切断はウイルス侵入のステップでのみ機能し、感染した後の細胞ではNLSは機能できることになると述べています。

今回の結果は、NLSモチーフの存在とSタンパク質の核内移行を直接的に証明するものですが、著者らはNSPR配列が天然由来であるかどうかについて肯定も否定もしていません。あくまでも、今回の結果は、挿入配列NSPRが機能的なNLSモチーフの一部であり、新規核内移行を含むSタンパク質の細胞内分布を増加させることを強調しています。

おわりに

今回の研究 [2] で最も重要な発見の一つは、単一の感染細胞において、Sタンパク質とSコードmRNAの異なる空間分布を1分子レベルで同時に検出したことであり、SコードmRNAと核染色との共局在を画像解析することにより、mRNAが核内に転移していることを明らかにしたことです。SARS-CoV-2のNタンパク質は、RNAと結合することが既に示されていますが 、Sタンパク質がSコードmRNAと結合して核内移行するかどうかの情報は、これまでありませんでした。今回は、SコードmRNAの核内移行がSタンパク質が介在していることを証明したことになります。

SARS-CoV-2のSタンパク質のNLSは、このウイルスの新しい特徴であると考えられ、COVID-19の病態に関わる重要な因子だと思われます。たとえば、宿主の免疫反応の回避に寄与している可能性もあります。

今回の研究は、SARS-CoV-2の感染細胞を利用したものであり、mRNAやアデノウイルスDNAワクチンを利用したものではないことには、注意が必要です。論文内容についてはプレプリント段階であり、まだ査読を受ける必要があります。しかし、この発見の意義はきわめて高く、Sタンパク質やその遺伝子の毒性のポテンシャルをあらためて認識させるとともに、同じことがmRNAワクチンでも起こるかもしれない?ということを想起させるものです。

それにしても、SARS-CoV-2のSタンパク質内の特徴的な挿入配列であるフーリン切断部位が、これまたSARS-CoVにはない4塩基配列が挿入されるこでNLSモチーフになるというのは偶然でしょうか。自然の進化でこのようなことが起きるのでしょうか。加えてSARS-CoV-2のSタンパク質は、他の約30のヒトタンパク質と相同性を持つことがすでに明らかにされています。 SARS-CoV-2のゲノムにはきわめて不自然な配列が多すぎます。

引用文献・記事

[1] 清水敏之,佐藤衛: タンパク質の核内輸送機構の構造的基盤. 生化学 80, 493–500 (2008). https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-06-04.pdf

[2] Sattar, S. et al.: Nuclear translocation of spike mRNA and protein is a novel pathogenic feature of SARS-CoV-2. bioRxiv Posted Sept. 27, 2022. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2022.09.27.509633v1.full

[3] Paharia, P. T.: SARS-CoV-2 spike protein and messenger ribonucleic acid found to translocate into the nucleus. Mews Medical Life Sciences Sept. 30, 2022. https://www.news-medical.net/news/20220930/SARS-CoV-2-spike-protein-and-messenger-ribonucleic-acid-found-to-translocate-into-the-nucleus.aspx

[4] McCullough, P. A.: SARS-CoV-2 spike protein found in the human nucleus. TS News Nov. 15, 2022. https://www.trialsitenews.com/a/sars-cov-2-spike-protein-found-in-the-human-nucleus-75dba3dd

[5] Rowland, R. R. R. et al.: Intracellular localization of the severe acute respiratory syndrome coronavirus nucleocapsid protein: Absence of nucleolar accumulation during Infection and after expression as a recombinant protein in Vero Cells. J. Virol. 79, 11507–11512 (2005). https://doi.org/10.1128/JVI.79.17.11507-11512.2005

引用したブログ記事

2021年8月5日 新型コロナの起源に関して改めて論文を読み、戦慄に震える

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)