Dr. Tairaのブログ

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COVID-19に関する死者数と検査数との関係ー補足

前のブログ記事「やはり検査と隔離が明暗を分けた」で、COVID-19の流行においては、PCR検査数が人的被害を低減する上で重要であることを述べました。そうしたら、このブログを見た知人から、「もっと一目でわかる図はないか」と要求がきました。そこで彼に、千葉大学の樋坂章博教授らの研究グループがいい論文 [1] を出しているので、それを見たらどうかと薦めましたが、1枚でまとめてくれないかとまた返事がきました。なので、この記事で図を一枚補足したいと思います。

千葉大学の論文 [1] では、欧米とアジアとで死者数が100倍ほど違うことを明らかにすると同時に機械学習の解析によって、陽性率が 7%未満の国の死亡者数は陽性率がそれ以上の国の15%に過ぎないこと、そして7%未満の陽性率を保つことが、死亡者数の抑制に重要と指摘しています。

私はこの論文の趣旨を1枚の図で表わせないかと考え、死者数と検査数の相関をとってみることにしました。とはいえ、死者数は国の人口や人口密度によって大きな影響を受けると考えられます。そこで、これを平準化するために、100万人当たりの死者数(D/M)を比較値として用いることにしました。ただし、検査数は感染者数に大きく影響を受けるので、D/M値と100万人当たりの検査数を単純に比較することは、ほとんど無意味なことは先のブログ記事「テレビのコメンテーターによるPCR検査数のミスリード」で述べたとおりです。意味のある比較なら陽性率が適切でしょう。

検査の陽性率ですが、Our World in Data [2] には陽性率について直接のデータはないものの、確定感染者1人当たりの検査数(T/C)のデータが利用できます。この値の逆数は陽性率になりますので、T/C値を使えば同じような意味として使えます。そこで、ヨーロッパ、米国、カナダ、アジア(中東を除く)の国々のデータを取得し、D/M値とT/C値の相関をとってみました。

表1に、Our Word in DataおよびWHO Coronavirus DIsease (COVID-19) Dashbordから取得し、今回の分析に用いたD/M値とT/C値の一覧を示します。表1左側に、ヨーロッパ諸国に米国とカナダを加えた35ヶ国のデータを、表1右側にアジアの20ヶ国のデータを示します。NAはデータがない部分で、これらに該当する国は分析から省きました。

表1. ヨーロッパ諸国(+米国、カナダ)(左)およびアジア諸国(中東を除く)におけるD/M値(Deaths/mp)とT/C値(Tests/case)の一覧

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表1に示すD/M値とT/C値の対数値を、それぞれY軸およびX軸にプロットしたものが図1です。ヨーロッパ(+米国、カナダ)(薄青色の囲み)とアジア(ピンク色の囲み)のそれぞれのグループについて、独立して相関係数と回帰直線を求めました。からわかるように、ヨーロッパにおいてはp<0.0001(n=34)、アジアにおいてはp=0.0034(n=16)で、有意な逆相関が認められました。つまり、検査数が少ないと結果として重症者→死者が増える、あるいは重症者予備軍の感染者の増加に検査が追いつかないと、その結果として死者数が増えるということが言えそうです。

f:id:rplroseus:20200526002843j:plain図1. COVID-19に関するヨーロッパ諸国(薄青色の囲み)およびアジア諸国(ピンク色の囲み)におけるD/M値(100万人当たりの死者数)とT/C値(感染者1人当たりの検査数)との相関関係:ヨーロッパとアジアでは未知の要因によって100倍ほど死者数が異なる [1].

このように、単純に死者数(D/M値)と検査数(T/C値)のデータをプロットすることだけで、両者の間に高い相関関係があることが明らかになりました。千葉大学の論文 [1] 出版から1ヶ月経過していて、日本を含めたさまざまな国で死者数等の数値は大きく変化していますが、あらためて今回の分析で、当該論文の結論を強化する結果になりました。

図1には、アジアにおいては、フィリピン、日本、インドネシアバングラデシュなどの、依然として死者数が増加し続けている国々のデータも含まれています。これらの増加がより緩やかになってくれば、相関がよりはっきしてくるかもしれません。

日本はアジアの中では高いD/M値を示し、トップのフィリピンに次いで2位です(図1赤丸)。両国は今なお死亡する事例を記録し続けており、D/M値の時間的推移がまだプラトーに達していません。日本のテレビは、今日も15人が亡くなったことを、そして高齢者の自宅でのコロナ孤独死があったことをサラッと伝えていましたが、D/M値が上昇し続けているというのは、アジアの先進諸国では日本だけです。この事実は一切報道されていません。

米国ジョンズ・ホプキンス大学の統計 [3] によれば、日本の死者数は154の国・地域・事例の中で28位であり、決して下位の順序とは言えません。そして、1,000万人当たりの死亡率は0.64(図2上)、致死率は4.9%です(図2下)で、これらも世界の中で低い方ではありません。今日の速報値で言えば、死者数は825人(クルーズ船を除く)で、死亡率は0.65、致死率は5%とまた増えています。

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図2. 世界154の国・地域・事例におけるCOVID-19の死亡率(上)および致死率(下)(文献[3]からの転載図): 図中黒線で囲った丸は死者数トップ10の国(ベルギー、フランス、イタリア、英国、オランダ、スペイン、アイルランド、スイス、米国)を示す.

この要因として、日本は高齢化率が高く、死に至る患者が多いことが第一に考えられます。あるいは、これまでPCR検査を抑えたことで、全体的に患者として入院させるまでの時間がかかり、その結果として重症者が増えやすくなり、死者数の増加に至っているのではないかと推察されます。日本には現時点で、まだ180名近くの重症の方が入院しています。

引用文献

[1] Hosaka, A. et al.: Global comparison of changes in the number of test-positive cases and deaths by coronavirus infection (COVID-19) in the World. Preprints Online: 21 April 2020 (05:42:47 CEST). https://www.preprints.org/manuscript/202004.0374/v1

[2] Roser, M. et al. Coronavirus Pandemic (COVID-19). Our World in Data. Last update May 22, 2020. https://ourworldindata.org/coronavirus

[3] Johns Hopkins University of Medicine. Coronavirus Resource Center: Mortality Analyses. https://coronavirus.jhu.edu/data/mortality

引用拙著ブログ記事

2020年5月22日 やはり検査と隔離が明暗を分けた

2020年5月10日 テレビのコメンテーターによるPCR検査数のミスリード

                 

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:社会・時事問題