Dr. Tairaのブログ

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やはり検査と隔離が明暗を分けた

はじめに

日本では第1波のCOVID-19流行が減衰に向かい、首都圏と北海道を残して、緊急事態宣言の解除がなされるまでになりました。接触削減要請に伴う国民自粛の賜物だと思います。それとともに日本の感染症対策が効果があったのか、これからやってくると予測される第2波の流行を迎える準備のためにも、しっかりと検証しておくべきです。

日本はいわゆるクラスター戦略によって、PCR検査を有症患者の確定と退院のための陰性確定に集中的に適用してきました。世界標準の「検査と隔離」という感染症対策とは、異なる方法をとってきたわけです。検査と隔離が成功した例としては、韓国や台湾などの東アジア諸国・地域が挙げられます。一方で失敗したというか、感染のスピードに検査が追いつかず、爆発的な患者の増大を許して医療崩壊を起こしてしまったのが、欧米の先進諸国です。

すでに先月21日に、検査の陽性率と死者数との間には関係があるとしたプレプリント論文が出されています [1]。この記事では、その報告から1ヶ月経過した現状を踏まえて、主にCOVID-19の死者数とその増加パターンを分析し、PCR検査との関係を見ることによって、今回の日本の対策を評価してみたいと思います。

1. 東アジアの中での評価

日本の対策を評価するためには、もちろん諸外国の例と比べる必要があると思いますが、欧米の先進国と東アジア諸国の間には100倍以上もの感染者数と死亡者数の違いがあるので [1]、これらを単純に比較しても意味がないように思われます。これは先のブログ記事「日本の新型コロナの死亡率は低い?」、「COVID-19を巡るアジアと欧米を分ける謎の要因と日本の対策の評価」でも述べたとおりです。

そこでまず、100万人あたりの死者数(ここでは死亡率とします)について、東アジア・西太平洋諸国(世界保健機構WHOによる西太平洋諸国のカテゴリーに、インドネシアバングラデシュを追加)で比べてみました。用いたデータと図は、特記しない限りすべて Our World in Data (OWD) [2]から引用したものであり、分析に応じて適宜加筆、改変しました。なお現在、日本は、死者数については、記録がある世界154の国・地域・事例中で28位、アジアではイラン、中国、インド、インドネシアパキスタン、フィリピンに次いで7位です [3]

図1は、1月31にから5月21日までの、国別の死亡率の経時的変化を示します。初期段階では中国において死亡率がカウントされ始め、2月終わり頃からは韓国がこれに続き、3月下旬からほかの国々において、それが上昇していることがわかります。そしてほとんどの国で、一定の期間を経て死亡率の上昇が見られなくなったり、緩やかになっているのに対し、フィリピン、日本、インドネシア、およびバングラデシュの4ヶ国においては、依然としてそれが上昇していることがわかります。

ちなみに、東アジア1位のフィリピンの死亡率は7.6、2位の日本は6.3です。

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図1. 東アジア・西太平洋諸国における死亡率(100万人当たりの死者数)の時間的推移(OWDからの転載図を改変).

死亡率が上昇しているということは、ベースになる患者数が多く、それに伴って多くの重症患者が生まれているということでしょう。医療提供体制の影響もありますし、高齢者ほど重症化しやすいこともありますので、とくに日本の場合は、高齢化率も関係してくると思います。

しかし、それにしても日本の死亡率が東アジアで2位というのは、高齢化や医療提供体制だけでは説明できないように思います。感染者数、死者数、致死率においても東アジアでは上位なので、感染症対策全般の影響とみた方が妥当だと思います。日本のクラスター戦略は、「重症化しやすい患者を発見して治療する」、「そのためのPCR検査」という方針だったと思いますが、その実、周辺の諸国と比べて長期間に亘って死者数を増やし、死亡率を上昇させてきたということが言えます。

死者数の時間的経過とともに、その増加をどの段階で抑え込めたかということを測る指標として、全死者数(T)に対する日毎の死者数(D)の対数割合(D/T比)の移動平均を見るのが有用です。D/T比は死者数が増加している間は直線的に延びていきますが、死者数が減少に転じると屈曲し始め、増えなくなるとそこから急激に下降していきます。すなわち、D/T比は死者数の多さとその増加の継続性を測ることができます。

図2に、医療崩壊を起こしたいくつかの欧米諸国と、東アジア・西太平洋諸国のD/T比の変化を示します。欧米諸国ではグラフの上側までD/T比が延びており、かつ米国では依然として屈曲点からの減少が緩やかです(図2上)。すなわち、死者数トップの米国では、すでに日毎の死者数が減少傾向にあるものの、依然としてかなりの数の死亡があることを意味しています。

一方、東アジア・西太平洋諸国では欧米諸国よりもかなり手前で線が屈曲し、急激に下降しています。その中でも上向きのトップの位置にあるのが、フィリピン、日本、インドネシア、およびバングラデシュです(図2上赤枠内)。すなわち、図1にあった、死亡率が依然として上昇している国々です。

日本のパターンをよりわかりやすくするために、欧米、フィリピン、インドネシアバングラデシュを除いたものを図2下に示します。そうすると、日本の屈曲点からの落ち込みがまだ緩やかで、小さいことがわかります。つまり、依然として毎日相当数の死亡がカウントされている状況を意味しています。ちなみに、日本における直近1週間の死者数の平均値は12人/日です。

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図2. 欧米諸国および東アジア・西太平洋諸国におけるT/D比の変化(OWDからの転載図を改変).

死者数の増加が長期間に亘って続き、死亡率が上昇していくということは、検査と隔離がうまくいかなかった(症状が進んでから患者確定し入院が遅れた)、あるいは医療提供体制に問題があった、ということができます。日本では、感染ピーク時においても患者数が病床数を超えることはなく、ギリギリで医療崩壊も回避し、今では病床数に余裕がありますので、地域・救急医療体制は別にして、病院内の医療体制そのものの問題はないと考えられます。

そこで、検査と隔離という面から、東アジア・西太平洋諸国における、感染者数当たりのPCR検査数を並べてみました。この値は、一人の感染者を探し出すのに、何件(何人)PCR検査をやったかということを示します。つまり、この値の逆数をとれば陽性率ということになります。

図3に示すように、1位(ニュージランド)から6位(マレーシア)までは、図2上の赤枠外にある、早い段階でD/T比の屈曲点を迎えた国々です。一方、図2上赤枠内の日本を含めた4ヵ国は、7–11位の後塵を拝しています。早く屈曲点を迎えた国では、シンガポールが唯一この順位の範囲(9位)に入っています。

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図3. 東アジア・西太平洋諸国における感染者一人当たりのPCR検査数 (人数) (OWDからの転載図を改変).

上述した図1〜図3の結果を照らし合わせると、どうやらPCR検査の陽性率が高い国ほど、長期間に亘って死者数が増加し、死亡率が高いということが言えそうです。フィリピン、日本、インドネシアバングラデシュが、これに相当します。シンガポールも陽性率が高いですが、これは急激な海外労働者の感染者増加が起こったためと考えられ、死者数自体は抑えられています。

図3から計算すると、日本の人数ベースの陽性率6.3%になりますが、厚生労働省のデータを使えば約8%になります。すなわち、東アジアの中では日本は十分にPCR検査されているとは言えず、それは長期間に亘って死亡者がカウントされ、死亡率が高くなっていることに反映されていると考えられます。日本より上位の国々では陽性率は1.5%以下であり、十分に検査されていることが伺われます。

2. 欧米と比較した評価

上記した結果は、日本を東アジア・西太平洋の国々と比べた場合であるので、やはり欧米の国々との比較も必要になってきます。そこでまず、図3と同様に、米国、ヨーロッパ代表の18ヵ国、および日本における感染者数当たりのPCR検査数を比較してみました。図4に示すように、1位のスロバキアから11位まで欧州諸国が並び、12位に日本がつけています。そして米国は17位の位置にあります。

順位で日本より下の国々の陽性率は、いずれも7%を超えています。千葉大学の研究グループは、陽性率7%以上の国で感染者数が多く、死亡率が高いと報告しましたが [1]、事実そのような国々が13–20位に入っていることがわかります。感染者の増加に検査が追いつかず、医療崩壊を起こした国々や、スウェーデン(19位)のように何の対策もとらず、感染者数と死者数を増やしている国が入っています。

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図4. 米国、ヨーロッパ諸国、および日本における感染者一人当たりのPCR検査数(人数)の比較(OWDからの転載図を改変).

次に、図4にデータとして入れた国々について、D/T比をプロットしてみました。そうすると、見事にPCR検査の陽性率が高い国(10〜20位、ピンクの背景)と低い国(1〜9位、薄青色の背景)が、上下に分かれて分布することがわかりました。つまり、陽性率が高い国ほど死者数が多く、死亡率が上昇するということになります。日本はその2つのグループの間に位置しています。

なお、ピンクの枠内に入る国としてドイツは例外で、比較的低い陽性率を達成し(図4、11位)、医療崩壊も起こしていません。

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図5. 米国、ヨーロッパ諸国、および日本におけるT/D比の変化(OWDからの転載図を改変): 図中の番号(赤字)は図4の順位の番号に相当.

ここで重要なことは、ヨーロッパ諸国でも一応に医療崩壊を起こして死者数を増やしているわけではなく、図5の薄青色の枠内にある国々では、感染者数も死者数も抑えられ、絶対数ベースでは、日本よりもいい成績を達成しているということです。具体的には、図4に並べた1位〜9位の国々です。

3. 検査と隔離の重要性

上述したように、日本を東アジア・西太平洋の国々と比較した場合、決してよい成績ではなく、死亡率ではフィリピンに次ぐ2位であり、かつ死者数の増加も依然として続いていることがわかります。今、専門家の間では「クラスター対策は初期はうまくいった」とよく言われています。しかし、検査の徹底ができずに市中感染を広げ、重症者を重点的にケアするという方針でありながら、今なお死者数の増加と死亡率の上昇に至っていることは、初期設定そのもの、あるいはその運用と継続性が間違っていたということになるでしょう(→あらためて日本のPCR検査方針への疑問)。

日本が東アジア・西大平諸国の中で死亡率が高い状況については、あくまでも想像の域をでませんが、受診の目安が障害になって検査が控えられ、検査で患者確定した段階ですでに発症からの時間が経過しており、高齢患者が多いこともあって、その後の治療に負荷をかけた(対応が間に合わなかった)ということが考えられます。いずれにせよ、死亡率の高さを生んでいる要因については、検証されるべきでしょう。

フィリピンやインドネシアでは、検査と隔離が徹底されておらず、感染者数の増加に検査が追いついていない状況であり、死者数を増加させています。やはり、検査と隔離が重要なことがここでもわかります。

図4、5で示したように、ヨーロッパ諸国でも検査・隔離の対策が比較的うまくいった国は、被害を最小限に抑えたとみることができますが、人口(密度)や地理的な影響もあるかもしれません。たとえば、北欧のノルウェーフィンランドは検査が十分に行われており、死者数も少ないですが、人口が少なく、地理的にもヨーロッパの中心から離れています。

そこで、北欧と周辺国の被害状況と、南欧、東アジア・西太平洋諸国のそれらについて比べてみました。表1に示すように、北欧と周辺国のほとんどは感染者、死者数ともに被害が小さいですが、対策をとらなかったスウェーデンや検査が追いつかなかったオランダ(図4-最下位)では、甚大な被害が出ており、南欧医療崩壊を起こしたイタリア(図4-13位)、スペイン(図4-16位)に匹敵しています。これら4ヶ国では致死率は10%を超え、死亡率も三桁に至っています。同じ南欧でも検査が十分であったギリシャ図4-2位)は、感染拡大を抑えています。

検査が十分に行われていた北欧の国々やギリシャでは、被害が抑えられたとは言え、比較的人口が少ない地域であり、死亡率でみると二桁に跳ね上がってしまいます。やはり、感染拡大を抑えたヨーロッパ諸国においても、東アジア・西太平洋の国々と比べると、死亡率が一桁高いという結果になります。

表1. COVID-19の感染者数と死者数に関する北欧と周辺国、南欧諸国、東アジア・西太平洋諸国の比較(青字は検査・隔離対策が十分でなかった国を示す. 図4参照)

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既報 [1]でも示されているように、そして先のブログ記事でも述べたように、欧米の先進諸国をみてわかることは、東アジア諸国と比べて著しく高い感染者数、死者数、致死率、死亡率を記録していることです。感染拡大を抑えたヨーロッパの国々でさえも、死亡率でみれば、東アジアより一桁高いレベルを示しています。したがって、欧米諸国と東アジア諸国との間に、何らかの未知の要因が働いていると考えざるを得ない状況になっています [1]。BCG接種の効果や人種の遺伝的要因も絡んでいるかもしれないという仮説も生まれ、その要因を解明する研究も始まっています。

おそらくは、これらの未知の要因の上に、欧米先進諸国では感染者数が爆発的に増加し、検査が追いつかなくなり、医療崩壊に至り、多数の死者を出したということになります。しかしながら、表1から見えることは、これらの未知要因が関係したとしても、初期対応で早めに検査と隔離を徹底できたヨーロッパ諸国では、医療崩壊もせず、感染者数も死者数も抑えられているということでしょう。

東アジア・西太平洋諸国の成績とも照らし合わせると、やはり早期の検査と隔離が明暗を分けたと言えそうです。既報 [1] にあるとおり、感染拡大抑制の効果は検査の陽性率(検査を十分に行なっているか)に現れます。早期の検査は、感染拡大抑制と早期入院・治療による重症化防止という両面で効果があります。

おわりに

今日もテレビのワイドショーで、医療崩壊を起こした欧米諸国と日本とを比較して、なぜ日本が感染者数も死者数も少ないかという議論をやっていました。図5をみたらわかるように、それは単に日本より成績の悪い国々(ピンクの枠内の国)と比較して論じているだけであって、まったく的外れだということがわかります。

日本よりも感染者数をや死者数を抑えているヨーロッパの国々はたくさんあり、また東アジア・西太平洋諸国の中にあっては、日本は最も成績が悪いグループの中に入ってしまいます。

このような、東アジアの中で死亡率が高く、今なおそれが上昇し続けている日本の状況は、テレビやその他のメディアで全くといっていいほど報道されていません。このままでは日本の感染症対策の是非を誤った評価に導いてしまう可能性があり、この先の流行に対して、見通しの甘いまま準備を進めてしまう危険性があります。

今までのような方針をとり続け、感染拡大抑制に失敗した場合はまた「大規模な接触削減をやればいい」というのであれば、あまりにも能がなさすぎます。国民への生活や経済活動への副作用が大きすぎるからです。現代では検査とICTという武器があるわけですから、もっと効果的に使うことができるはずです。

国には、これまでの日本の状況を、より科学的に適切に判断してもらいたいと思います。今までのように検査を医療資源として捉えるのではなく、検査拡充を前提とした社会政策の一環として位置付ける段階に来ていると思います。

引用文献・記事

[1] Hosaka, A. et al.: Global comparison of changes in the number of test-positive cases and deaths by coronavirus infection (COVID-19) in the World. Preprints Online: 21 April 2020 (05:42:47 CEST). https://www.preprints.org/manuscript/202004.0374/v1

[2] Roser, M. et al. Coronavirus Pandemic (COVID-19). Our World in Data. Last update May 22, 2020. https://ourworldindata.org/coronavirus

[3] Johns Hopkins University of Medicine. Coronavirus Resource Center: Mortality Analyses. https://coronavirus.jhu.edu/data/mortality

引用拙著ブログ記事

5月18日 COVID-19を巡るアジアと欧米を分ける謎の要因と日本の対策の評価

5月13日 日本の新型コロナの死亡率は低い?

4月6日 あらためて日本のPCR検査方針への疑問

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19

カテゴリー:社会・時事問題