エノキの木あるいは枝に保護網をかけて Hestina 属種やオオムラサキの幼虫の動態を観察し始めてまだ日が浅いですが、見事に保護網の効果が出ています。つまり、これらの幼虫にとって最大の天敵は鳥だということです。
実験しているのは数本のエノキの中低木(樹高4-5 m) ですが、これらの木にいる幼虫はゴマダラチョウでもアカボシゴマダラでもオオムラサキでも同じように鳥に食べられることがわかりました。今日初めて目撃しましたが犯人の一つはシジュウカラです。口に幼虫をくわえて飛び去っていきました。
このときばかりは「憎っくき鳥め!」と瞬間的に思ってしまいました(笑)。残念ながら、あっという間の出来事で画像に収めることができませんでした。
保護網をしている枝の幼虫は、どの木でも初期設定とほぼ同じ数で推移していますが、網をかけていない枝では5齢幼虫が大きくなるたびに食べられてしまい、結局ほとんどが残っていない状況です。全滅した木もあります。
オオムラサキの5齢幼虫はゴマダラチョウやアカボシゴマダラのそれと比べて体が小さいですが(写真1)、それでもどんどん消えていきます。よく言われるように大きくなると(終齢になると)鳥に狙われやすいというのはもちろんありますが、条件次第ではこのような小さな幼虫でも捕食されるようです。
写真1
捕食されやすい条件の一つは、今回実験しているような「中低木に生息」というのがあります。中低木は大木と違って木枝と葉っぱがまばらなので、幼虫の存在を鳥が察知しやすいのではないかと思います。大木を精査していないので結論づけるのは早計ですが、少なくとももっぱら幼木にいるアカボシゴマダラの幼虫よりは、中低木の幼虫の方が圧倒的に消えていく確率が高いです。
私は以前から不思議に思っていることは、幼木や高木には Hestina 属の越冬幼虫がいるのに樹高3–10 mの中低木からはそれらが検出されにくい、ということです。この理由の一つとして、もちろん中低木は大木と比べて落ち葉が流されやすく、かつ主幹北側の根元に安定した日陰もできにくいということが挙げられます。しかし、それ以上に中低木は葉上、枝上の幼虫が捕食されやすく、越冬幼虫が残りにくいということが考えられるのではないでしょうか。
今回の保護網実験で驚いたことがあります。それは鳥よけとして市販されている13 mmのメッシュの網が役に立たなかったことです。写真2のように、エノキが葉が網に接している場合には、奥行き10 cmくらいのところにいたゴマダラチョウとオオムラサキの幼虫は全部食べられていました。鳥が網に止まり、嘴を伸ばして捕らえたのでしょうね。
ちょっとツメが甘かったと反省しています。
写真2
従来の文献をあらためて見てみると、樹木に生息するチョウの幼虫にとって野鳥が最も恐い天敵の一つであるということはそれほど強調されていないようです。むしろ、寄生虫やカマキリやクモ類などの捕食性節足動物が天敵として全面に挙げられています。
自然界のエノキにおいてゴマダラチョウやオオムラサキの幼虫の捕食の程度を調べるのは容易でなく、実際にほとんど調べられていないように思います。それが天敵としての野鳥の存在が過小評価されている理由の一つでしょう。
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