Dr. Tairaのブログ

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エノキ探索と脱力感

アカボシゴマダラ特定外来生物に指定されてから、この昆虫を飼育して観察するということができなくなりました。特定外来生物の指定の理由が、ゴマダラチョウに対して侵入・競合的というなら、それを証明するために飼育環境での詳しい生態観察も必要と思われますが、特別な申請と許可なくしてはそれもできません。
 
とにかく、アカボシゴマダラとゴマダラチョウの競合的関係に関する知見は、圧倒的に不足しています。その知見を得ようとすれば自ずからフィールド調査に頼らざるを得なくなるわけです。
 
私は昨年から本格的にフィールド調査を開始し、この一年で訪れた関東地域の公園や緑地は200箇所を超えました。調べたエノキは約4000本です。この一年調査で歩いた距離は3,000 kmになりました。
 
これまでも何度となく書いてきましたが、エノキ上の Hestina 属種オオムラサキの幼虫探索を続けてきて、これらの昆虫がとてつもない野鳥の捕食圧の下で生きていることをあらためて感じさせられました。
 
文献や書物を見ても野鳥の捕食のことは書いてあるのですが、「鳥に狙われやすい」とか「鳥が天敵」とかサラッとした表現で幼虫にとってどの程度の実害なのか、今ひとつピンときませんでした。これまで経験してきた幼虫の飼育環境下では、当然ながら捕食など考えようもなく、体力消耗や寄生バチによる死亡を感じる程度でした。
 
それがこれまでのフィールド調査で、野鳥による捕食の被害の大きさを痛感したわけです。これは私の管理下にある、現場のエノキ低木の実験でも確かめることができました。すなわち、幼虫の保護網をかけた場合とかけない場合とで、被害が180度違いました。
 
時の経過と共にどんどん成長していくゴマダラチョウオオムラサキの幼虫を見ながら当初は羽化が楽しみという感覚もあったのですが、成長の度に次々に姿を消していく様子を目の当たりにして、衝撃を通り越して脱力感さえ出てきました。
 
写真1は今日のオオムラサキ5齢幼虫です。彼らもこの後野鳥に食べられるかもしれないと思うとやるせない気持ちです。
 
イメージ 1
写真1
 
写真2オオムラサキゴマダラチョウがいっしょにいるところです。無事に羽化することをひたすら祈るのみです。
 
イメージ 2
写真2

野鳥による捕食の力は、1本のエノキにいる数十頭のゴマダラチョウオオムラサキを全滅させることができるくらい大きいです。この捕食圧は、とくに都市近郊の鳥に目立ちやすいエノキで大きいのではないかと推察されます。道理であれだけゴマダラチョウの越冬幼虫がいながら、成虫の飛ぶ姿を見ないはずです。