昨夜のNHK「クローズアップ現代」ではPFOA/PFOSによる環境汚染と健康被害を取り上げていました。PFOAおよびPFOSはそれぞれペルフルオロオクタン酸、ペルフルオロオクタンスルホン酸の略称です(図1)。生分解性がほとんどなく、環境中に放出されると長い間残存する難分解性有機フッ素化合物です。 これらは総称してペルフルオロアルキル化合物(perfluoroalkyl substances, PFAS)とよばれていますが、OECDによればPFASには数千種類の化学物質が含まれます [1]。
図1. PFOAとPFOSの化学構造
PFOAおよびPFOSは低濃度で優れた界面活性効果を示すことから、さまざまな用途に使われてきました(図2)。 よく知られているところではポリテトラフルオロエチレン(商品名テフロン)があり、テフロン加工のフライパンは家庭でも頻繁に使われています。このPFOAは今月使用・製造が禁止となりました。
PFOA/PFOSの環境汚染による健康被害は、2000年、米国で報告されました(図3)。汚染源となったのは大手化学メーカーとして知られるデュポン社の化学工場です。
健康被害の具体例としては、高コレステロール、妊娠生高血圧、甲状腺疾患、精巣がん、腎臓がん、潰瘍性大腸炎の6つの病気の発症の確率が上がることが報告されています(図4)。さらに、臍帯血中のPFOA/PFOS濃度と乳児の体重、頭周長との間に有意な負の相関があることがわかってきました。米国では汚染された水を飲用していた人々が実際に健康被害を受け、環境汚染源であったデュポン社は損害賠償を行いました。
一方で、日本におけるPFOA/PFOSの環境汚染の実態はほとんどわかっていません。都道府県の水質調査を実施状況を見ると、わずか6都・県にとどまっています(図5)。
環境汚染の実態について水質調査が遅れている理由として、厚生労働省はWHOにガイドラインがない、日本のPFOA/PFOSの汚染濃度が低い(海外の勧告値を下回る)、したがって健康被害につながるとは考えにくいことを挙げています(図6)。
しかしながら、北海道大学の研究グループは妊婦のPFOSの血液中濃度を測定した結果、その濃度が高いほど生まれてくる赤ん坊の体重が低いこと、生死の形成に関わるホルモン濃度が4割低いことを報告しました(図7)。日本においてもPFOA/PFOS汚染の潜在的脅威があることを示唆するデータです。番組でもいっていましたが、首都圏や関西地方の水環境でもこれらの物質が検出されています。
さらに、沖縄の米軍基地ではPFOSの代替物質であるPFHxSが消火剤として日常的な訓練の中で使われており、それが周辺の環境汚染につながっていることが報告されていました(図8)。
周辺の沖縄住民の血液検査が行われた結果、特定の有機フッ素化合物の濃度が通常より20倍ほど高いことが示されました。これが健康被害に繋がる危険性があるのかどうかまだわからないということですが、監視・精査していくべき問題だと考えられます。
引用文献
[1] OECD: Towars a New Comprehensive Global Database of Per- and Polyfluoroalkyl Ssubstances (PFASs): Summary Report on Updating the OECD 2007 List of Per- and Polyfluoroalkyl Substances (PFASs). Series on Risk Management No.39, May 4, 2018. https://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?cote=ENV-JM-MONO(2018)7&doclanguage=en
カテゴリー:社会・時事問題