Dr. Tairaのブログ

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チョウの幼虫の飼育

 私のウチの小庭には柑橘類、山椒、クチナシ、パセリなどの鉢植えがあり、またエノキクスノキなどの自然低木が生えています。これらの草本にはさまざまなチョウ目の昆虫が訪れては産卵していきます。大部分の鉢植えは人間の食用のために置いているのですが、いつも昆虫の観察の場となって私の目を楽しませてくれます。
 
ときには野外から幼虫を採集してきて飼育・観察することもあります。ここではオオムラサキの幼虫飼育を中心に紹介したいと思います。
 
写真1はエノキの低木です。いつ頃から生えてきたのか記憶にないですが、気がついたら庭に生えていて5年は経過していると思います。オオムラサキゴマダラチョウの越冬幼虫を採集して飼育する基本の場となっています。
 
イメージ 1
写真1
 
オオムラサキの幼虫の飼育はナミアゲハなどと比べるとはるかに難しいです。冬場に落ち葉の下にいる越冬幼虫を採集してきて、春から本格的に飼育するというのが一般的パターンと思いますが、テクニックを要します。
 
インターネット情報では、春になるまで越冬幼虫を冷蔵庫で保存しておいて、春に植樹のエノキが芽吹いてきたらエノキに移すということがよく示してあります。しかし、冷蔵庫のスペースを確保するのが面倒だし、乾燥しすぎるエノキに移す時に死亡する確率が高くなる)嫌いもあり、さらには起眠の遺伝子発現のタイミングを調節するのも容易でないので、私は室外に放置して自然の気温変化に任せています。

プラスチック容器(たとえば市販豆腐のパッケージなどが利用できる)に落ち葉にくっついた越冬幼虫を入れ、さらにこれを虫かごに入れてポリ袋で包んで陽の当たらない場所に放置します。上下に"空"の落ち葉を挟んで重層しておくのも重要です。
 
この時水分調整が大事です。オオムラサキは乾燥に弱いので、1週間に一度くらいの頻度で霧吹きで落ち葉に水を散布します。葉がやや湿っているなと感じるくらいがベストで、この状態を見極めながら霧吹きの頻度を調節します。また水分過多にならないように、雨などの降り込みで水没しないように、容器の底に適当に穴をあけておきます。水分過多になると落ち葉にカビが生えやすくなります。
 
気温が高くなってくると、幼虫が保存容器の中から這い出して虫かごの壁や蓋にくっつくようになります。この状態が1週間続く状態でしたらエノキに移すタイミングです。東京周辺だと4月上旬からの一ヶ月くらいの間になると思います。ゴマダラチョウの場合はこれよりも1–2週間早まります。
 
私の場合は幼虫が這い出したタイミングでそれらの幼虫を爪楊枝に乗せ、写真1のエノキの根元付近の幹に移しています。ほとんどの場合、すぐに幹を上り始め枝分かれの二又で位置どりする行動が見られます。一方、まだ落ち葉にいる幼虫もいっしょに根元に移します。数日から数週間遅れで落ち葉から顔を出し、幹を上り始めるでしょう。

一般的には庭に適当なエノキがあるということは少ないです。その場合は、植木鉢にエノキ幼木を育てておくことを勧めます。写真2は私が育てている鉢植えのエノキです。越冬幼虫を上記のタイミングで鉢植えのエノキの根元に移します。
 
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写真2
 
鉢植えのエノキで気をつけることは、できる限り主幹が太くかつ枝分かれが多いものを選択することです。越冬幼虫はエノキが若葉が出るまで、基本的に枝分かれの位置で待機します。したがって、二又が少なかったり枝が細すぎたりすると位置どりができず、下に降りて逃げ出したりします。
 
この若葉が出るまでの枝上での待機が5齢幼虫脱皮への準備段階(様々な遺伝子発現)として重要なようで、冷蔵庫から出した(落ち葉についた状態の)越冬幼虫をいきなり切り出したエノキに移してもうまく育たないことが多いです。死亡する確率が格段に高くなります。
 
では鉢植えのエノキもない場合はどうするか。その場合は、上記の虫かごの中で這い出した越冬幼虫を若葉が出るエノキが手に入るまでそのまま自然の気温の変化の中で放置しておきます。体力を消耗して死亡することもありますが、自然条件で放置というのが一番よいと思います。
 
エノキの若葉が十分に出てくる時期は4月中旬から下旬です。この時期を見計らって水差ししたエノキの枝(写真3)に移します。自然木としてエノキの低幼木は割と公園や緑地に見られるのでそれを枝切りしてきて利用します、
 
大事なことは必ず起眠している状態の幼虫を移すことです。繰り返しますが、まだ落ち葉にくっついている幼虫を剥がしてエノキ上に移すことは成功率が極端に悪くなりますので避けるべきです。
 
イメージ 3
写真3

エノキは写真3のように、水を入れたペットボトルに枝の根元を斜めに鋭く切った状態で差し込みます。もともと水上げが悪いエノキですが、これで4〜5日は保たすことができます。重要なことは生け花用のハサミで組織をつぶさないように一気に枝を斜めに切ることです。これに失敗すると(皮がはがれたりすると)水上げは悪くなります。
 
稀に幼虫が水没することがあるので、ボトルの差し込み口はテープなどでしっかりと封をしておきます。オオムラサキは5齢からさらに6齢に脱皮し、蛹化までに2ヶ月以上かかるので、面倒ですが頻繁にエノキの交換・補充を行うことになります。
 
写真4は、鉢植えのエノキ上にいる今日のオオムラサキの終齢幼虫です。

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写真4
 
写真5は水差しのエノキにいる今日のゴマダラチョウの5齢幼虫です。ゴマダラチョウの飼育法も基本的にオオムラサキと同様ですが、起眠のタイミングが1週間から半月程度早くなります。
 
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写真5
 
オオムラサキは大気汚染に弱いので、エサとして供給するエノキは事前に十分に水洗します。でないと黒く変色して死ぬことがあります。あるいは突然エノキから落ちて地面での上で弱り死ぬこともあります。ゴマダラチョウは耐性があるようですが、水洗した葉を与えるのが無難です。
 
ちなみにキアゲハの場合は、市販のパセリを十分に水洗いして与えても死亡することが多いです。残留農薬の影響でしょう。
 
終齢まで育った幼虫については、蛹化のタイミングを見落とさないように注意深く観察する必要があります。すなわち、蛹になる場所を求めて盛んに移動するようになるので、気がつくと「エノキの上にいない!!」という結果になってしまいます。蛹化はオオムラサキだと5月下旬から6月、ゴマダラチョウだと5月から6月上旬になると思います。
 
私の場合は、植木鉢や水差しのエノキを丸ごと保護網(百円ショップで市販されている)で囲むことで対処しています。物理的な遮蔽があると幼虫は仕方なく自分がいた木の枝葉かすぐそばで蛹になります。
 
ハチなどに寄生されているかどうかは最後までわかりません。4齢、5齢、終齢、蛹のいずれの段階でも突然として体が壊れて中からハチがでてきます。落ち葉に移行する段階で寄生されているともうこれはどうしようもありません。これはとくにゴマダラチョウでより頻繁に見られるようで、オオムラサキでは私は1個体しか経験がありません。
 
写真6クスノキの低木です。赤っぽい新葉の上にはアオスジアゲハの卵や幼虫が乗っかっています。勝手に育っていくので観察しているだけでいいのですが、ときどき野鳥に食べられるのが難点です。
 
左の鉢植えは枯らしてしまったエノキの幼木です。
 
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写真6
 
写真7は、柑橘類の上で成長しているナミアゲハの5齢幼虫です。これもいつの間にか産卵していて孵化後の幼虫の成長をモニターしています。
 
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写真7