Dr. Tairaのブログ

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昆虫食を巡る騒動ータンパク質危機はあるのか?

カテゴリー:食と環境

はじめに

メディアやSNS上で昆虫食が話題になっています。それも日本では圧倒的に「昆虫を食べる」ことへの拒否感という形で現れているようです。インターネット番組「ABEMAヒルズ」では、実に約9割の人が昆虫食に抵抗感もつことが紹介されました [1]SNS上では昆虫食の危険性や政治的思惑を指摘するコメントも散見されます。

ここにいまの日本人の特質が出ているように思います。つまり、未知なるものへの慎重さ・警戒という感情に加えて、昆虫への偏見(気持ち悪い)と「食べるものではない」という固定観念が合わさった感覚が反映されているのではないでしょうか。実は、アフリカ、中南米、アジアを中心にすでに20億の人々が昆虫を食しています [2] が、この事実を知らないと拒否に繋がりやすいでしょう。忌避感を持つ人は、もちろん食べたこともないと思われます。

海外に目を向けなくとも、日本でもイナゴ類や蜂の子を食する伝統昆虫食文化があります。私が子どもの頃、祖父からよく「バッタを穫ってこい」と言われて、集めてきてはそれを佃煮にしてもらって食べていました。祖父はトノサマバッタを見ると「佃煮にするのはもったいない」と言って別に取り出し、素揚げにして食べさせてくれたほどです。

70代以上の方で田舎育ちの人は、必ずしも多くはないとしても、このような経験もあるでしょう。いまはごく当たり前の肉食は私の子どもの頃の庶民の食卓にはなく、肉と言えば鯨肉でした。ちなみに小学校の給食で肉が出たという記憶はありません。ミルクも脱脂粉乳でした。一方で、肉類が食卓を飾ることが子どもの頃からの常識である今の現役世代の人たちにとっては、「何で昆虫食なんだ?」という思いは強いのではないでしょうか。

日本人の昆虫への拒否感は、私がツイッターで昆虫食擁護の立場からコメントしたところ、一気にフォローワーが減ったことでもわかります。私の専門領域は生命科学微生物学、環境科学ですが、以前、複数の民間会社で食品開発や飼料開発に携わった経験もあって、大学では「食の安全」や「食と環境」という講義も担当してきました。ここで「なぜ昆虫食なのか」について解説してみたいと思います。

結論として、いま日本にいる私たちは昆虫を食べる必要はありませんが、将来的にはそうならざるを得ない可能性があるということ、そしてその可能性に対する準備を怠ると、一気にタンパク源不足になる可能性があるということです。いま主要なタンパク源である肉や魚をいつまでも食べられるという思考は、修正する必要があるでしょう。昆虫に限らず代替タンパク源を求めていくことは必須なのです。

1. 昆虫食への流れ

まず、言っておきたいこととして、いまのコオロギ食を巡るSNS上での否定的なコメントには、文献を挙げて安全性の問題に触れているものがありますが、事実誤認があるので、ここで指摘しておきたいと思います。私が知る限り、世界各国の担当公的機関は全て昆虫食を推進する立場を示しています。

たとえば、内閣府食品安全委員会は、2018年に出版されたヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)食品の潜在的リスクに関する欧州食品安全機関(EFSA)の論文を要約した記事 [3] を掲載しましたが、この記事を引用しながら「コオロギ食は危険」とするインターネット、SNS上のコメントが散見されます。しかし、このEFSA論文は、昆虫食品を市場化する場合の潜在的リスクを挙げて、それらに留意しなければならないという「昆虫食推進」の立場から述べたものです。その後、2022年に出版されたEFSA論文では、コオロギ粉末食品の安全性に関する科学的見解をまとめており [4]内閣府食品安全委員会の要約記事 [5] も出ています。

このブログ記事では、すでに世界で20億人が昆虫を食べているいる事実を踏まえた上で、昆虫食を押し進める世界の流れとその理由という観点から解説したいと思います。

いまにわかに流布してきた日本の昆虫食の情報については、フードテック官民協議会が主な発信源の一つではないかと思われます [6]。これは農林水産省をコアとする産学官のステークホルダ間の組織(2020年10月設立)で、300以上の賛同団体や企業が名を連ねています。食に関する新技術開発、食料安全保障の強化、新市場の開拓推進などを目的とし、ロードマップとして「植物由来の代替タンパク質源」「昆虫食・昆虫飼料」「スマート育種のうちゲノム編集」「細胞性食品」「食品産業の自動化・省力化」「情報技術による人の健康実現」の6つを掲げています [6]

昆虫食への流れは、世界の食料需要の増大に対応した持続可能な食料供給を実現する試みの一つであるわけですが、当協議会を含めた昆虫食推進派による進め方は、昆虫食品に関する「マーケットの創出」の意識が強く出ているように感じられます。平たく言えば、このままだと拒否感の強い昆虫食は広がりにくいので、いかにしてそれを商業ベースに乗せるかというキャンペーンの展開であり、いささか政治的後押しの気配も感じられます。

もちろん商業として成り立たなければ、昆虫食も定着しないわけですが、新しいビジネスとしての昆虫食が前のめりに押し出されている印象は否めません。一方で、海外ではもっと新しいタンパク食品として「いかに拒否感をなくすか」という点からの論調・進め方が多い感じです。海外では日本ほどの拒否感はないようですが、それでも新しい食品、未知なるものへの、いささかのためらい感はあるようです。米国科学アカデミー紀要(PNAS)には、この点から解説した論文が掲載されています [7]

この論文でも指摘されていますが、食べたことのない食品については、人々は当然抵抗感をもちますが(いわゆる食べず嫌い)、慣れがそれなくしていくことはよくあることです。例として、生魚を食べる習慣のなかった欧米では、寿司や刺身に対して当初拒否感があったにも関わらず、その後すっかり定着したことが述べられています。

そして、「一度、地上の昆虫を食べたら、次は虫全体を食べようと思う人が多い」というジョセフ・ユンの話が紹介されています。彼はシェフであり、食用昆虫への理解を深めるための組織「Brooklyn Bugs」の創設者です。

2. タンパク質の危機?

ところで、昆虫食を導入する理由の一つとして、タンパク質の不足を唱ういわゆる「タンパク危機」があると言われていますが、本当でしょうか。結論から言うと、現状でタンパク質が不足していることは全くありません。むしろ過剰気味です。

世界人口を約78億人として、1人に必要なタンパク質摂取量を 60 g/日 [8] とすると、全世界で必要なタンパク量は年間1.7億トンとなります。この必要量に対するタンパク供給は現在ほぼ充足されており(〜2億トン/年)、世界人口の1人当たりでみれば不足しているとは言えません。むしろ、世界の国の90%においては、平均的タンパク消費量は栄養としての必要量よりも多いと言われています [8, 9]。これには、先進諸国を中心として肉類の飽食化があり、加えていわゆる「食品ロス」があるためです。

問題は、国・地域によって著しいタンパク質消費の偏りがあることと、それ(肉類生産)を維持するために大量の飼料生産が行なわれていること、そしてこれが持続可能か?ということです。

穀物および大豆の生産量は技術革新によって飛躍的に増加してますが、両者でその増加率を比べると、歪であることがわかります。すなわち、1960年代半ばからの統計でみると、人の主食である小麦や米は約3倍の増加量ですが、トウモロコシでは約5倍の増加大豆では実に約11倍の生産量増加になっています [10]

人が1日に必要なカロリーやタンパク質量は基本的に変わらないはずなのに、なぜこのような生産増加量の違いを生じるのでしょうか。それは、人口増加以上にGDP上昇が著しい新興国も含めた食生活の向上(肉食化)があり、飼料用途の作物生産により大きな影響を与えていると考えられるためです。現在、世界のトウモロコシの生産量の3割、大豆の生産量の7割が、畜産牛の飼育に使われています

つまり、先進国、新興国の食の向上・飽食化の要求を満たすために、トウモロコシや大豆の増産が行なわれてきたということであり、その上で成立している食の商業・経済システム(食の質と利便性、効率性)を維持する過程で、自ずから食品ロスを生じるということになったということです。儲けるためには捨ててまで生産する現在の歪な姿があるわけですが、これを是正するためには現ビジネルモデルの大変換が要求されますので、容易には行きません。

今後、人口増加と新興国の食生活の向上化によって肉を中心とするタンパク需要はますます高まっていきますが、そのしわ寄せとして先進国の肉消費に大きな影響を与えるでしょう。すなわち、先進国と新興国との間で肉の取り合いになり、現在の需要・供給のバランスが崩れることが予想されます。

一方で、タンパク質供給の著しい偏在もあります。WFP(国連食糧計画)が2022年9月に発表したところによれば、79カ国において、過去最高となる3億4900万人が深刻な飢餓(急性の食料不安)に苦しんでいます。この数は、COVID-19パンデミック以前の、2019年時点の1億3,500万人の約2.5倍に数字になります [11]

もし、これらの飢餓状態の是正と新興国の食の向上化のためにタンパク質供給を平準化しようとすると、現在の先進国での食生活と商業形態は維持できなくなります。この需要・供給のバランスの崩れ(需要が供給を上回ること)がいわゆる「タンパク質危機」と呼ばれているものの正体です。いずれにせよ、世界人口の増加、途上国の生活水準の向上による食肉需要の増加、その飼料である穀物への需要の増加という流れは止められません。需要に供給が追いつかなければ、当然価格高騰を招き、手に入りにくくなります。

この長期トレンドのなかで、いまはウクライナでの戦争という要素が加わり、価格高騰という流れはさらに加速化しています。この状況のなかで、なお先進国の食の要求を満たそうとすると、飼料用トウモロコシと大豆の生産面積と広げていくしかないわけですが、そこには物理的限界と環境問題が立ちはだかります(後述)。

3. 現在のタンパク源は大豆と魚粉

現在、人類が消費している年間2億トン近いタンパク質は、動物性(肉、魚、卵、およびその加工品など)および植物性(大豆およびその加工品など)のタンパク質です。しかし、肉を生産するためには、上記のように家畜飼育のための飼料が必要であり、それは結局植物性タンパク質(大豆)に行きつきます。私たちは肉からタンパク質を摂っているように思いがちですが、肉を大量に消費することは、大豆を大量に生産・消費することと同じことなのです。

たとえば肉牛を飼育する場合、粗飼料(いわゆる草)に加えて、その数倍から十倍の配合飼料が必要です。配合飼料はトウモロコシや大豆が中心で、つまるところ大豆タンパク質を牛肉タンパク質に変換していることになります。そして、日本の畜産の場合、配合飼料はほぼ輸入であって、価格と供給量の面で海外依存という構造的問題があります。

新興国の肉食拡大の長期トレンドのなかでは、いかに大豆の生産量を増加させるか(生産面積を広げるか)ということになりますが、これはもはや限界に来ています。飼料用途のトウモロコシや大豆生産は、後述するように、環境破壊と地球温暖化の元凶にもなっている現状があり、これ以上広げられないところまで来ているのです。

農林水産省によれば、牛肉 1 kgを生産するのに必要な穀物はトウモロコシ換算で11 kgです。これと比べると、豚肉および鶏肉の生産に必要な穀物量(それぞれ6 kg/kg、4 kg/kg)は、1/2〜1/3量になります。さらに、昆虫(ミールワーム)になると、牛肉の1/12倍の穀物量で済みます。

これを生産面積でみた場合どうなるでしょうか。たとえば、世界全体をインドの食生活のレベルで想定した場合に、生産面積削減の効果が最も高かったことが報告されています [12]。肉食に代わるタンパク源の消費では、50%を豆腐に切り替えた場合35%、昆虫タンパクにした場合34%、人工肉にした場合29%の生産面積削減効果があるとされ、肉食の50%を魚に切り替えた場合でも22%の削減効果があると報告されています。

やがてやってくるタンパク質の需要と供給のアンバランスと価格高騰に対処するためには、生産面積から考えて、肉食から代替タンパク質摂食への転換を図るべきなのですが、一度味を覚えた人類の肉食文化を変えることはなかなか難しいです。結局大豆などの植物性タンパク質を直接食べるという方向には大きく向かわず、部分的に人工肉生産の原料となることで、依然として大豆の生産面積を確保しなければならないということになるでしょう。その意味で、昆虫タンパク質、大豆に依存しないその他の代替タンパク質がどの程度食い込めるかが、鍵となると言えます。

一方、魚は天然魚介類の直接漁獲もありますが、近年は養殖魚が増加しています。国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界の魚介類需要量は2013–2015年平均で1.5億トンであり、2025年には1.8億トン近くに達すると予測されています [13]。このうち天然の魚介類は年9,000万トン程度で、ほぼ横ばいで推移すると予測され、今後の魚介類需要を満たせるかは水産養殖の増加にかかっていると言えるでしょう。

では、養殖のエサは何かと言えば、基本は魚粉です。魚の養殖に使われるエサは、生エサ(生魚)、モイストペレット(魚粉、魚油、生魚などの混合物)、ドライペレット(魚粉、大豆油カス、小麦粉などの混合物)があります。最も多く使われているのは、モイストペレット(いわゆる練り餌)で、主成分である魚粉の供給が鍵になっています。海外の場合は、トウモロコシ、大豆、小麦の配合飼料が使われています。

魚粉と言っても元々は海から穫れたカタクチイワシが原料です。イワシが穫れなければ話にならないことは当然ですが、イワシを含めて魚介類がいままでどおりに穫れるという保証はありません。なぜなら、この先、地球温暖化に伴う海水温の上昇と海洋酸性化という二重の環境変化が海の生態系に深刻な影響を与え、海産物が確保できなくなる可能性があるのです(→海洋の温暖化と酸性化)。

地球温暖化による海水温上昇は、現在の魚種の分布を大きく変えてしまいます。漁業の対象になっている表層魚は、高い海水温に耐えきれずに、北上化するかより深く潜っていくことになるでしょう。つまり、今の主要魚種は、今の漁場から急激に穫れなくなっていきます。住処を移動した魚種はやがて環境変化、エサの変化に耐えきれなくなり、それに酸性化も加わり、絶滅していく運命にあります。イワシが穫れなくなれば、魚粉も調達できなくなり、養殖もできなくなります。

4. 農業と環境問題

脱炭素が叫ばれる今日ですが、実は農業(林業、畜産、土地利用を含む)は温室効果ガスの主要発生源であり、全体の18%を占めます(図1)。世界の農業による温室効果ガスの発生を地域別にみると、アジアが最も多く44%を占めています(図2[14]。そして温室効果ガスの発生は年々増加し続けています。その年増加率は全世界で8%になり、アフリカでの増加(1.6%)が大きくなっています。

図1. 温室効果ガス発生の発生源(Our World in Dataより転載、農業および耕地からの発生は緑色の部分).

図2. 農業による温室効果ガス発生の大陸別の割合(文献 [14] より転載).

農業部門での発生源(炭素換算)の割合をみると、牛のげっぷが最大で40%を占めます。次いで、放牧地に放置された糞尿(16%)、化学肥料(12%)、水田(10%)と続きます(図3)。

牛のげっぷや水田から排出される温室効果ガスはメタン(CH4です。二酸化炭素の約28倍(IPCC第5次報告書)の温暖化係数をもつので、少量でも排出の影響は大です。

発生させるのはメタン生成アーキアという微生物であり、一方で、発生したメタンを酸化分解するメタン酸化細菌もいます。本来の生物地球化学的循環(biogeochemical cycle)のなかでは、生物学的メタン発生とメタン分解は釣り合っていてメタンが大気中に増えることはありません。しかし、人類が化石エネルギーを投入して化学肥料をつくり、過剰な作物生産と畜産を行なった分、分解が間に合わないメタンが排出され、大気中に溜まり続けているわけです。

化学肥料(窒素肥料)は二重の意味で環境に負荷をかけています。まず、この生産に用いられるハーバーボッシュは高温、高圧を要するために大量の化石燃料が投入されます。生産段階で大量のCO2を発生させるわけです。そして実際に畑には生産を効率的にするために過剰に投入されます。過剰分の窒素化合物は酸化と還元のプロセスを経て最終的に脱窒されますが、一般に還元力が不足気味で、中間代謝物の亜酸化窒素(N2O)を発生させます。これはCO2の265倍(IPCC第5次報告書)の温暖化係数をもちます。

図3. 農業における温室効果ガスの発生源(文献 [14] より転載).

このように農業や関連する土地利用は温室効果ガスの主要発生源の一つであるわけですが、地球環境破壊の元凶にもなっています。

ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)は、2019年だけでアマゾン熱帯雨林は1万1088平方キロが消失したことを報告しましたが [15]、この消失は放牧や飼料生産を目的とする大豆畑への転換が主な原因です [10]。アマゾンの熱帯雨林は地球規模での気候の緩衝地帯として機能しているため、その減少は周辺国への影響にとどまらず、世界的な気候変動と農業生産の低下をもたらす可能性があります。

エコロジカル・フットポイント(=非生物学的循環の温室効果ガスの吸収、人造物占有、食料生産、紙・木材等の生産に必要な合計土地面積)は、2014年時点で地球1.7個分になっており [16]、需要増加に対するこれ以上の供給空間拡大は避ける必要があります。でないと温室効果ガスの排出を促進するだけになるからです。

ちなみに、人間1人が必要とする生産可能な土地面積は、世界平均1.8 haに対して、米国で5.1 ha、日本で2.3 haであり、先進国の資源の過剰消費の実態を示しています。すなわち、高タンパクの飽食を続けてまでも、大量の食品ロスを生んでまでも、消費のための生産空間拡大を続け、そのための商業・経済モデルを維持し、それが環境破壊と気候変動をもたらしている実態があるわけです。

最も危惧されることは、大規模な気候変動と地球温暖化によって、農業に作付け面積だけは計算できない大きな影響が出ることです(つまり作物自体が穫れなくなる)。地下水の枯渇の問題もあります。牛肉1 kgをつくるのに、その元である作物生産に膨大な量の水(約1万5千L)が必要ですが、いまその供給源である地下水の30年後の利用可能量の激減が予測されているのです [17]

それでも人類はゲノム編集や最新テクノロジーなどを駆使して対応しようとするでしょうが、所詮生物地球化学的循環からはみ出した営みは悪循環に陥るだけでしょう。

海はこのままだとどうにもならなくなる可能性があります。海水温の上昇と海洋酸性化にいつまで漁業は耐えられるでしょうか。

おわりに

昆虫食を巡るいまの日本における論争は、少し矮小化されているきらいがあります。本質は、昆虫食はビジネス化できるか?とか、昆虫食は嫌だとか、という問題ではなく、新興国を中心に世界のタンパク質需要が増加していく長期トレンドの中で、その需要と供給のバランスと持続可能性をどのように考えるかということなのです。

私たちがいま贅沢に食している肉や魚は、将来今のような形態では食べられなくなることを想像しなければなりません。上述したとおり、食料不足と価格高騰(タンパク質源の取り合い)、地球環境破壊、気候変動の観点から「代替タンパク質」の市場拡大が予測・期待されているわけです。その一つの選択が昆虫食なのです。

昆虫食でさえ、そのエサとなるものは一次生産物(植物)であり、気候変動に大きな影響を受けます。個人的に言えば、究極的には、無尽蔵の大気中成分(気体種であるCO2、CH4、N2)からタンパク質を賄う技術が必要だろうと思います。この技術を可能とするメディエーターは微生物です。つまり微生物タンパク(single-cell protein)の生産です。

すでに、世界的には、自然再生エネルギーによる水の電気分解で得られるH2とO2を利用した炭素固定を行なう試み、地中から、あるいは廃液処理で出るメタンを微生物タンパクに変換し、魚の飼料にする試み、光合成機能と細胞外電子伝達を利用した微生物タンパク生産の試み、などが行なわれています。残念ながら、日本はこの点で遅れています。

引用文献・記事

[1] ABEMAヒルズ: 約9割が「昆虫食」に抵抗感 専門家は「特に驚きはない」 必要なのは酒やたばこのような「嗜好品」としての認知? ABEMA TIMES 2023.02.28. https://times.abema.tv/articles/-/10069201

[2] A. M. Liceaga, J. E. et al.: Hernández-Mendoza, Insects as an alternative protein source. Annu. Rev. Food Sci. Technol. 13, 2.1–2.16 (2022). https://doi.org/10.1146/annurev-food-052720-112443

[3] 食品安全委員会: 欧州食品安全機関(EFSA)、新食品としてのヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)についてリスクプロファイルを公表. 2018.09.21. https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05010960149

[4] EFSA Panel on Nutrition, Novel Foods and Food Allergens (NDA): Safety of partially defatted house cricket (Acheta domesticus) powder as a novel food pursuant to Regulation (EU) 2015/2283. efsa J. May 13, 2022. https://doi.org/10.2903/j.efsa.2022.7258

[5] 食品安全委員会: 欧州食品安全機関(EFSA)、新食品としてのヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)の部分脱脂粉末の安全性に関する科学的意見書を公表. 2022.05.13. https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu05830690149

[6] CNET Japan: フードテック官民協議会、推進ビジョンとロードマップ案を発表--概要レポート. Yahoo Japanニュース. 2023.03.02. https://news.yahoo.co.jp/articles/90b1f92feaafb1f33bab8ec01046fcc32a23b4b9?page=1

[7] Beans, C.: How to convince people to eat insects. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 119, e2217537119 (2022). https://doi.org/10.1073/pnas.2217537119

[8] Joint FAO/WHO/UNU Expert Consultation on Protein and Amino Acid Requirements in Human Nutrition (2002 : Geneva, Switzerland), Food and Agriculture Organization of the United Nations, World Health Organization & United Nations University. (2007). Protein and amino acid requirements in human nutrition : report of a joint FAO/WHO/UNU expert consultation. World Health Organization. https://apps.who.int/iris/handle/10665/43411.

[9] Forum for the Future: Protein Challenge 2040. https://www.forumforthefuture.org/protein-challenge

[10] WWF世界自然保護基金): 拡大する大豆栽培−影響と解決策(邦訳).  2014. https://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20140707wwf_soy.pdf

[11] WFP (国連世界食糧計画): 世界的な食料危機. https://ja.wfp.org/global-hunger-crisis 

[12] Alexander, P. et al.: Could consumption of insects, cultured meat or imitation meat reduce global agricultural land use? Global Food Secur. 15, 22–32 (2017). https://doi.org/10.1016/j.gfs.2017.04.001

[13] Food and Agriculture Organization of the United Nations: The State of Food Security and Nutrition in the World 2019. https://www.fao.org/3/ca5162en/ca5162en.pdf

[14] Food and Agriculture Organization of the United Nations:: Greenhousegas Emissions from Agriculture, Forestry and Other Land Use. https://www.fao.org/3/i6340e/i6340e.pdf

[15] Butler, R. A.: Brazil revises deforestation data: Amazon rainforest loss topped 10,000 sq km in 2019. MONGABAY June 10, 2020. https://news.mongabay.com/2020/06/brazil-revises-deforestation-data-amazon-rainforest-loss-topped-10000-sq-km-in-2019/

[16] Global Footprint Networks: Ecological footprint. https://www.footprintnetwork.org/our-work/ecological-footprint/

[17] De Graaf, I. E. M. et al.: Environmental flow limits to global groundwater pumping. Nature 574, 90–94 (2019). https://www.nature.com/articles/s41586-019-1594-4

引用したブログ記事

2018年4月5日 海洋の温暖化と酸性化

              

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