Dr. Tairaのブログ

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納豆の日ー食べ方常識の検証

7月10日は納豆の日です。これは昔からある習慣ではなく、1981年に関西限定の記念日として業者が決めていたものが、1992年に全国版として広がったものです。今日、テレビでも取り上げていましたし、スーパーの納豆売り場に行ったらしっかりと宣伝がありました(写真1)。
 
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図1. 7月10日は納豆の日の宣伝
 
世界的に見ても納豆流行りであり、テレビでもよく伝統的な発酵食品としてだけでなく、健康食品としても取り上げられています。私も以前に、このブログで納豆について書きました
 
とはいえ、納豆に食べ方に関するテレビやウェブ上で見られる諸説や半ば常識化した情報について、たくさんの誤解や間違いがあります。納豆の日を契機にそれをここで示し、解いていきたいと思います。
 
説1. 納豆をかき混ぜるとグルタミン酸が出てきておいしくなる 
これは間違いです。
 
納豆をかき混ぜると確かにおいしくなりますが、 これは納豆の粘り成分が集まり、その中に空気を含むことによってまろやかになり舌触りがよくなるためです。
 
納豆のネバネバはL-グルタミン酸D-グルタミン酸が繋がったポリグルタミン酸(D体とL体の量は納豆菌の菌株や培養条件で異なる)に由来しますが、かき混ぜたくらいではこの結合は切れません。グルタミン酸はうま味の成分として知られていますが、これが出てくることはありません。
 
説2. 納豆をかき混ぜる回数は〇〇回がよい 
これは一概に言えません。
 
上述したように、かき混ぜによっておいしくなるというのは舌触りの変化による部分が大きく、どの程度をよしとするかはあくまでも主観的判断です。欧米人の中には(もちろん日本人の中にも)、むしろ糸を引かない方が好きという人もいて、ネバネバのない納豆も開発されています。一概には言えないので、自分だけの好みの回数を見つけるのがよいと言えます。
 
〇〇回かき混ぜた場合に、「うま味成分が最大になった」等の情報がウェブ上で散見されますが、豆が壊れない限り物理的刺激でうま味成分が増えることはありません。
 
以前はいろいろとウンチクを並べていたメーカーもあったようですが、現在ではほとんどそのような情報は消え、ブランドメーカーにおいては、まっとうな情報の伝え方になっています [1]
 
説3. 納豆をかき混ぜると栄養価が高まる 
これも間違いです。
 
上述したとおりです。納豆の存在量も成分もかき混ぜる前と後では変わりませんので、栄養も変わりません。

説4. 納豆はタレをかける前にかき混ぜた方がよい 
一概に言えません。
 
納豆には、ポリグルタミン酸といっしょにレバンと呼ばれるフルクトースの重合体も含まれており、ネバネバを安定化するのに役立っています。タレをかけることでポリグルタミン酸の重合体への空気の入り込みが悪くなり、かつレバンがサラサラ化して不安定になります。
 
したがって、タレをあらかじめ入れることでかき混ぜによるネバネバの形成が若干悪くなりますが、上述したようにネバネバの程度は人の好みです。自分で判断すればよいことだと思います。
 
ちなみに私の場合、タレをさっさと入れてから混ぜるやり方ですが、後から入れるのとおいしさに違いは感じていません。
 
説5. 納豆に生卵を混ぜて食べない方がよい
気にしなくてよいです。

これは、納豆に含まれるビタミンの一種であるビオチンと、卵白に含まれるアビジン(本当はアヴィジンと書くのが正しいですが慣用的に使われているアビジンを使います)という糖タンパク質が強く結合して、そのビタミンの吸収ができなくなるために言われていることです。場合によっては、ビタミンBの吸収ができなくなるから生卵を混ぜない方がよいとも言われています。

確かにそうですが、もともと大豆のビオチンの含有量はとても小さいので(図1[2]、これはまったく気にしなくてもよいと思われます。

ビタミンBはB群と言われているようにいくつかのビタミンの総称で、ビオチンはビタミンB7に相当します。B群のなかでアビジンと結合するのはビオチンだけです。したがって、上記のように、「ビタミンBの吸収ができなくなるから」と言うのは適切ではありません。

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図1. 大豆(可食部)に含まれるビオチンを含めたビタミンB群の量(文献2より作図)

納豆に生卵をかけることを気にするなら、生卵かけご飯がもっと注意が必要です。卵黄には、大豆よりももっと多くのビオチンが含まれていますが、生卵をかき混ぜて食べれば卵白中のアビジンと結合してしまい、ビオチン吸収が悪くなる可能性があります。
 
どうしても気にするのなら、黄身と卵白を分け、先に卵白を熱々のご飯の中に混ぜ、ある程度タンパク質を熱変性させた後(白くなった後)に、醤油をかけ、黄身を垂らして食べれば少しマシになると思います。アビジンが変性するとビオチンに結合できなくなるからです。
 
とはいえ、ビオチンは腸内細菌によっても作られています。普通に食事をしていれば、生卵を食べたからと言って、ビオチン不足になるということはまずないので、生卵入り納豆も、生卵かけご飯も気にせずに食べるようにしたいものです。

参考文献
 
1. タカノフーズ:お客様相談室.
 
2. 文部科学省:食品成分データベース. 食品番号04046.