Dr. Tairaのブログ

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納豆

今夜(2018年5月28日)、TV東京「世界!ニッポン行きたい人応援団」を観ていたら、納豆作りを38年間続けている米国人夫婦が出ていて、日本へ招待されていました。私も納豆が好きでよく食べますが、今日TVで紹介されていた製法は、炭火(七輪)を使った保温で発酵させるというもので、抜群の旨味の納豆ができるということでした(図1)。
 
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図1. 炭火製法で生産された旨味抜群の納豆(2018.5.28 TV東京「世界!ニッポン行きたい人応援団」より)
 
納豆の原料はもちろん大豆です(図2上)。製造ではまず、乾燥した大豆を丸一日水に浸します(図2下)。
 
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図2. 納豆の原料となる大豆と前処理(2018.5.28 TV東京「世界!ニッポン行きたい人応援団」より)
 
その後、大豆を加熱します。加熱処理した大豆に熱いうちに納豆菌を噴霧します(図3上)。そして、40℃で発酵させます(図4下)。温度管理は納豆の粘りを出すために非常に重要です。
 
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図3. 加熱処理した大豆への納豆菌の植種と保温発酵(2018.5.28 TV東京「世界!ニッポン行きたい人応援団」より)
 
納豆菌は学名をBacillus subtilis、正式な和名を枯草菌という細菌です(図4)。芽胞をつくり(図4左)、タンパク質を強力に分解する性質があります。ワラなどの枯れ草に多くいる細菌なのでこのような名称がついています。蒸し大豆を枯れ草で包んで温かいところで放置しておくと、納豆ができるのはこのためです。
 
ただし、枯草菌の中でもいわゆるネバネバを伴う納豆を作る能力をもつものとそうでないものがあります。また、ネバネバを作る能力は枯草菌だけに限定されるわけではなく、Bacillus属のほかの菌種やBacillus属以外の菌種にも見られます。
 
枯草菌は耐熱性や耐乾性がある芽胞をつくるので生存能力がきわめて高く、この性質が加熱処理した大豆をワラで包んだときに、他の雑菌が熱で死滅する中、生き残って大豆タンパクを分解するということに役立ちます。
 
枯草菌はもともとは土壌細菌で、生ゴミ処理過程でも活躍する細菌です。また、生活環境にも多く見られ、チリやホコリに混じって空中を浮遊したりしています。
 
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図4. 枯草菌の位相差顕微鏡画像(左、細胞中に光沢のある粒子が芽胞)と同じ画面のSYBR Green染色(DNA染色)蛍光顕微鏡画像(左)(by Taira)
 
枯草菌の納豆生産能力は菌株によって異なります。各納豆メーカーは、枯草菌の中でとくに風味やネバネバも含めて納豆生産に優れたものを選んで、各社独自の納豆菌として大切に保管・利用しています。
 
納豆のネバネバの正体は、番組ではグルタミン酸と紹介していましたが、正確にはアミノ酸の一種であるグルタミン酸がつながったポリグルタミン酸と、果糖がつながったレバンという多糖が混ざったものです。
 
すなわち、アミノ酸の重合体と糖の重合体からできているので、混ぜれば混ぜるほどその重合体が絡まって糸を引くようになります。ネバネバはポリグルタミン酸の量が多いほど強くなり、レバンはそれを安定させる役割があると言われています。
 
納豆を混ぜると旨味成分であるグルタミン酸ができておいしくなるとテレビで言っている人がいましたが、それはウソです。混ぜることの効果は、空気がネバネバの中にトラップされることであの特有のふわふわとした食感が生まれることです。それがおいしさとなるわけです。
 
私たちは、このネバネバを食感として楽しみながら納豆を食べているわけですが、納豆菌自身はこのネバネバを彼らの非常食として作っています。すなわち、エサがある間は余ったエネルギーでこのネバネバ成分を生産し、貯蔵しておきます。そして、いざエサがなくなると、このネバネバ成分を分解して自分のエサとするのです。
 
このネバネバ成分は私たち人間は分解できませんが、納豆菌はもとより腸内細菌の一部は分解できますので、私たち自身もそれを栄養源として利用できます。
 
番組では経木(きょうぎ)で納豆を包むことでより美味しくなると紹介していました(図5)。経木には旨味のもとであるグルタミン酸が含まれているということです。
 
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図5. 経木で納豆を包むことによる美味しさの相乗効果(2018.5.28 TV東京「世界!ニッポン行きたい人応援団」より)
 
経木はスギやヒノキを薄いシート状に切ったもので包装用に使われています。昔はお弁当の包装に使ったり、お店に行くと肉、魚を経木で包んでくれたりしていました。抗菌効果があることが知られています。
 
番組で経木にグルタミン酸が含まれていると聞いて、「えっ、初めて聞いたが?」と思いましたが、上記の炭火(七輪)法で納豆を作っているメーカーでは、アカマツの経木を使っていると言っていたので納得しました。
 
アカマツはマッタケが特異的に生える木で、松葉および松根抽出液中には糖やアミノ酸が豊富に含まれると大学の講義で習ったことを思い出しました。
 
なお、市販の納豆中にはたくさんの納豆菌が含まれていますが(ほとんどが芽胞の状態)、それを食べた時に腸内で生き続けることができるかというと否です。急速に消化管内で死んで行きます。
 
また、納豆中にはナットウキナーゼ(実際はブロテアーゼ)という血液をサラサラにする酵素が含まれています。実際にナットウキナーゼは試験管内では血栓を溶かす作用がありますが、実際にそれが体内で入った時にはたらくかというと、それは懐疑的です。