Dr. Tairaのブログ

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小児急性肝炎にSARS-CoV-2のスーパー抗原が関わる?

2022.05.16更新

先のブログで記事で、私は、いま世界的に注目されている原因不明の小児急性肝炎について新型コロナ感染(長期症状)との関係を考えるべきではないかという見解を示しました(→世界的な謎の小児肝炎はコロナ関連症状か)。以下のように、ツイッターでもその見解を示しました。

そうしたら、つい最近、「小児急性肝炎についてSARS-CoV-2スーパー抗原を検討すべき」という内容の論説(書簡)がランセット系雑誌の一つに掲載されているのを見つけました [1](下図)。スーパー抗原とは、抗原のなかでも免疫反応に過剰な刺激を与えて、免疫の主役となるT細胞を異常に増殖させ、多大な炎症をもたらすものを言います。スーパー抗原としては、ブドウ球菌の毒素(エンテロトキシン)が有名ですが、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質にもこのモチーフがあることが明らかにされています [2, 3]

当該ランセット論説 [1] は短い書簡なので、ここで翻訳して紹介したいと思います。以下、筆者による翻訳文です。適宜引用されている文献も示します。

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最近、英国、欧州、米国、イスラエル、日本において、重篤急性肝炎を発症した小児患者の報告がなされている。ほとんどの患者は消化器症状を呈し、その後黄疸に進行し、場合によっては急性肝不全に至る。これまでのところ、一般的な環境暴露は見つかっておらず、感染性媒体が最も有力な原因であろう。

これらの患者では肝炎ウイルスA、B、C、D、Eは見つかっていないが、英国で重症急性肝炎の検査を受けた小児の72%からアデノウイルスが検出され、英国でその亜型診断された18例のうち、すべてがアデノウイルス41Fと同定された。これは珍しいサブタイプではなく、主に幼児や免疫不全の患者が罹患する。しかし、私たちの知る限り、アデノウイルス41Fが重症急性肝炎を引き起こすことは、これまで報告されていない。

SARS-CoV-2は、英国で報告された症例の18%で確認されており、データがあるイングランドでの97例のうち11例(11%)が入院時にSARS-CoV-2陽性であり、さらに3例が入院前8週間以内に陽性となった。血清学的検査を継続することで、過去にSARS-CoV-2に感染した、あるいは現在感染している重症急性肝炎の小児がより多く見つかると思われる。イスラエルの患者12人のうち11人は、最近数ヶ月の間にCOVID-19に感染していたと報告されている [4]。また、報告された肝炎の症例のほとんどは、COVID-19ワクチンの接種対象にはならない幼い患者だった。

SARS-CoV-2に感染すると、ウイルスのリザーバーが形成される可能性がある [5]。このウイルスが消化管内に持続して存在すると、腸管上皮を通過してウイルスタンパク質が繰り返し放出され、免疫活性化を引き起こす可能性がある。このような免疫活性化の繰り返しは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の中にある、ブドウ球菌エンテロトキシンBに類似したスーパー抗原モチーフによって媒介されている可能性があり [2]、それは広範囲かつ非特異的にT細胞の活性化を誘発すると考えられる。このスーパー抗原を介した免疫細胞の活性化は、小児の多系統炎症症候群の原因メカニズムとして提唱されている [5, 6]

急性肝炎は多臓器不全症候群の小児において報告されているが、他のウイルスの共感染については調べられていない。最近報告された小児の重症急性肝炎の症例についての私たちの仮説は、過去にSARS-CoV-2に感染し、ウイルスリザーバーを保有する小児の腸管親和性によるアデノウイルス感染の結果ではないかということだ。

マウスでは、アデノウイルス感染により、その後のブドウ球菌エンテロトキシンBを介した毒性ショックが感作され、肝不全に至り死亡している [7]。この結果は、アデノウイルスによって誘発された1型免疫の偏りで説明された。すなわち、ブドウ球菌エンテロトキシンBに反応して、過剰なIFN-γ産生とIFN-γを介した肝細胞のアポトーシスを引き起こした結果による。

現在の状況に置き換えて考えれば、急性肝炎の小児について、ふん便中のSARS-CoV-2の残存、T細胞受容体の偏り、IFN-γのアップレギュレーションを調べることが求められる。それらは、アデノウイルス41Fに感作された宿主におけるSARS-CoV-2のスーパー抗原機構の証拠となり得るためだ。

もし、スーパー抗原による免疫活性化の証拠が見つかったら、重症急性肝炎の小児において免疫調節療法を検討すべきである。

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以上が翻訳文です。

筆者あとがき

いまだ原因不明とされる世界的な小児急性肝炎ですが、SARS-CoV-2感染とそのウイルスリザーバーの影響を示唆する見解が増えています。もし、それが証明されるようなことになると、これまで以上にSARS-CoV-2は厄介なウイルスという認識になるでしょう。Long COVID(コロナ長期症状)のリスクもあり、現段階での風土病的な風潮も払拭すべきだと思います(→Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう)。

20022.05.16更新

このブログ記事を書いた後に、米国の研究チームが、COVID-19に感染した小児の肝臓障害について、メドアーカイブプレプリント [8] として報告しているのを目にしました。アラニンアミノトランフェラーゼ(ALT)やアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)などをマーカーとして調べたものです。

私たちの健康診断の血液検査でもお目にかかる ALT(GPT)や AST(GOT)の酵素活性は、肝臓障害のマーカーとして使われています。健康な場合、血液中には少量しか含まれませんが、肝細胞が変性・壊死すると、AST、ALTが循環血液中に流れ出して高い活性が検出されます。

研究チームは、COVID-19に罹った小児は、他の呼吸器感染症に感染した小児と比較して、ALT または AST の上昇(ハザード比またはHR:2.52、95%信頼区間またはCI:2.03-3.12)および総ビリルビン(HR:3.35、95% CI:2.16-5.18 )で表されるリスクが大幅に上昇した、と報告しました。これらの結果は、小児患者におけるCOVID-19の急性および長期の肝障害を示唆するものです。

研究チームは、本研究で報告したCOVID-19関連後肝障害が、現在増加している原因不明の小児肝炎症例と関連している可能性を示唆しながらも、これを明らかにするためにはさらなる研究が必要であると述べています。

引用文献

[1] Brodin, P. and Arditi, M.: Severe acute hepatitis in children: investigate SARS-CoV-2 superantigens. Lancet Gastroenterol. Hepatol. published May 13, 2022. https://doi.org/10.1016/S2468-1253(22)00166-2

[2] Cheng, M. H. et al.: Superantigenic character of an insert unique to SARS-CoV-2 spike supported by skewed TCR repertoire in patients with hyperinflammation. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 117, 25254-25262 (2020). https://doi.org/10.1073/pnas.2010722117

[3] Brown, M. and Bhardwaj, N.: Super(antigen) target for SARS-CoV-2. Nat. Rev. Immunol. 21, 72 (2021). https://doi.org/10.1038/s41577-021-00502-5

[4] Efrati, I.: Israel examining 12 cases of kids' hepatitis after WHO warning. HAARETZ April 21, 2022. https://www.haaretz.com/israel-news/israel-examining-12-cases-of-kids-hepatitis-after-who-warning-1.10752779

[5] Brodin P.: SARS-CoV-2 infections in children: understanding diverse outcomes. Immunity 55, 201-209 (2022). https://doi.org/10.1016/j.immuni.2022.01.014

[6] Porritt, R. A. et al.: HLA class I-associated expansion of TRBV11-2 T cells in multisystem inflammatory syndrome in children. J. Clin. Invest. 131, e146614 (2021). https://doi.org/10.1172/JCI146614

[7] Yarovinsky, T. O. et al.: Increased sensitivity to staphylococcal enterotoxin B following adenoviral infection. Infect. Immun. 73, 3375-3384 (2005). https://doi.org/10.1128/IAI.73.6.3375-3384.2005

[8] Kendall, E. K.: Elevated liver enzymes and bilirubin following SARS-CoV-2 infection in children under 10. medExiv Posted May 14, 2022. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.05.10.22274866v1

引用したブログ記事

2022年5月14日 Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう

2022年5月5日 世界的な謎の小児肝炎はコロナ関連症状か

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)