Dr. Tairaのブログ

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マスクをやめる、もちろん検査もしない?

日本では、ここにきて、にわかに脱マスク論が盛んになってきました。脱マスクに「メリハリをつけて」という言葉も添えられています。海外のように、マスク着用を義務化、時間が経ったら義務化を解除、というならメリハリのあるわかりやすい話ですが、日本は推奨はされてはいても、元々義務化されてはいませんので、メリハリも何もないでしょう。みなさん、自主的に着用しているわけです。

専門家の説明も、対人距離が十分にとれる場合や会話が少なければマスクをしなくともよいという、いずれも定性的な曖昧な表現です。もっと定量的で具体的な説明にしてほしいところです。

なぜ、このタイミングで脱マスクなのか、はっきり言ってよく分かりません。ワクチン接種が進んだとは言え、感染状況をみても、オミクロン流行で過去最多の感染者数と死者数を記録し、今なお3万人前後の新規陽性者数と数十人の死亡者を毎日出しています。この感染者の統計情報もはっきり言って信頼性がありません。行政検査は減り続け、PCR検査の診療点数の引き下げの影響を受けて民間検査も減り、元々感度の悪い迅速抗原検査はオミクロンに対してはさらに感度が低下し、その上で検査陽性率は今なお30%前後と高いからです。

今日テレビでは、東北大学大学院教授小坂健氏が、現在の感染状況やオミクロンが重症化しないことなどを鑑みて脱マスクに踏み切ったということを述べていましたが、上記のように、被害は過去の波と比べても顕著な状況であり、今ひとつ説得力がありません。私は以下のようにツイートしました。

メディアも「ワクチン接種」や「重症化リスク」などを挙げながら、脱マスク論を展開しています。たとえば、産經新聞 [1] は以下のように伝えています。

ワクチン接種が進み、コロナ感染による重症化リスクは低くなっている。それでも、日本人が屋外ですらマスクを着け続けるのは「みんながそうしているから」という同調圧力があるからだ。

ここでは同調圧力という言葉も出てきていますが、マスク着用の「同調圧力」はあるとしても、国民はまず自主的に着用しているところが大きいのではないでしょうか。逆に学校におけるマスク着用については、「脱マスクをしなければ」という同調圧力さえ感じられます。

このような日本における脱マスク論を聞いていると、マスク一辺倒の話になっていて、感染対策全体のバランスが置き去りにされていることに気づきます。特に検査というツールがすっぽり抜けていることがわかります。日本は当初からPCR検査抑制論が幅を利かしてきた経緯がありますが、もちろん「検査もしない」が、最後の砦である「マスクもしない」という状況になりつつあります。

脱マスクでは欧米が先行しているイメージがありますが、米国ではマスク着用を復活させることも出てきたり、当局(米国疾病管理予防センター、CDC)が検査をはじめとするしっかりとした感染対策の指針を出しているところは注視すべきでしょう。学校における検査の指針もその一つです [2]下図)。

日本では、このような学校に対する指針はありません。それこそ、脱マスク一辺倒の話になっていて、検査など望郷の彼方という感じです。

ここで、CDCの"School Testing for COVID-19"にある概要を翻訳して、以下に示します。

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幼稚園から高校までを通じて、学校を休むことなく、生徒と教職員がCOVID-19から健康で安全に過ごせるように安全対策をとることが非常に重要である。重要な対策の1つは、学校での定期的なCOVID-19検査である。

ワクチン接種、物理的な距離、および適切なマスクの着用と併用することで、学校での定期的なCOVID-19検査は以下のことを可能にする。

 ●COVID-19の地域的な広がりを抑え、学校を開いて生徒を教室にとどめ、生徒と教職員を保護するのに役立つこと

●学校がCOVID-19の症例を早期に発見し、発生を未然に防ぐための早期の警告

●COVID-19検査を受けることができない家族に、検査を受ける機会の提供

●対面学習やその他の活動を継続することで、生徒、保護者、学校スタッフの信頼を増すこと

CDCは、地区内の学校でCOVID-19検査プログラムを実施し、保護者や職員のプログラムへの参加を支援・奨励するよう要請する。

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以上が翻訳文です。

米国では対面授業を可能とするために、定期的な検査を行なってきました。日本ではこのようなことはありません。かと言って、学校における空気感染対策としての換気装置、空気清浄機の設置の取り組みも程遠いです。そして今度をマスクを外そうという運動です。その言い訳として顔が見えず、コミュニケーションがとりづらく、子どもの発達に悪影響を及ぼすなどの根拠のない意見も出てきています。マスクを外すための代替の感染対策を何も考えることなく、ただマスクを外そうというキャンペーンは理解に苦しみます。

以上、日本における昨今の脱マスク論議について、個人的所感を述べました。マスクを外す代わりとして、定期検査や全校空気清浄機の設置に言及した専門家はこれまで皆無です。パンデミックは、もちろんまだ終わっていませんし、コロナ長期症状(long COVID)はもとより、最近では原因不明の小児肝炎やサル痘もあります。脱マスク論も含めて、国や専門家にはより慎重な感染対策の議論を望みたいものです。

引用文献・記事

[1] 五十嵐一:脱マスクはなぜ必要?子供へのリスク直視を 大阪大特任教授・大竹文雄氏. 産經新聞ニュース. 2022.05.19. https://www.sankei.com/article/20220519-P77GN7P5O5PSDG54ENOZIJJFTQ/

[2] CDC-Centers for Disease Control and Prevention: School Testing for COVID-19. Updated Mar. 24, 2022. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/community/schools-childcare/school-testing.html

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)