相変わらずの貧弱なPCR検査態勢
COVID-19パンデミックにおいて防疫対策の基本の一つにになるのが検査です。今はマルチプレックス TaqMan PCR(プローブRT-PCR)という非常に高精度、高感度の分子技法が、SARS-CoV-2を検出する標準検査法として世界的に用いられています。検査の意義は以前のブログ記事(→国が主導する検査抑制策)で示したとおりです。
残念ながら、日本では当初から厚生労働省や周辺の感染症コミュニティによるPCR検査抑制論があり、パンデミックが始まってから3年目に突入した現在の感染対策においてもそれが尾を引いています。日本の検査脆弱性の状況は数字にも現れていて、今日(4月14日)時点での累計感染者数では世界16位なのに、累計検査数になると23位に後退します。ちなみに100万人当たりの検査数で言えば世界132位です。
検査の充実度は検査陽性率に現れます。G7諸国の中で、日本はいま人口比で5番目の新規陽性者数ですが、検査陽性率になると2番目になってしまい、高い陽性率を維持したままです(図1)。いかに検査をしていないかがうかがわれます。
図1. G7諸国における検査陽性率(Our World in Dataより転載).
日本は積極的に検査拡充をしてこなかったことが祟って、オミクロン変異体による第6波流行では、ついに検査リソースと労力不足を招き、国が率先して検査抑制の号令を全国にかける羽目になりました(→国が主導する検査抑制策)。その結果、検査陽性率の上昇に見られるように、まったく検査が追いつかない統計崩壊の状態になり、流行を正しく把握できなくなったと言えます(→統計崩壊で起こった第6波流行ピークのバイアス)。
厚労省が全国に検査抑制の号令をかけたのが1月27日です。それ以来、PCR検査数は減り続け、すでに第7波が始まったというのに復活していません(図2)。
図2. PCR検査数の推移(実施機関別の推移:厚労省HPより転載).
なぜPCR検査が減り続けるのか、ひょっとして抗原定性検査でそれを補っているのかと思って、東京の検査状況をみてみましたが、抗原検査も増えてはおらず、どうやら検査全体で減り続けているようです(図3)。
図3. 東京都における検査数の推移(陽性者、陰性者、PCR検査、抗原検査別:都のポータルサイトより転載).
検査が減り続ける要因として、医療機関でのPCR検査の診療報酬点数の引き下げが影響しているという意見もあります。厚労省は、昨年末、COVID-19の検査に係る診療報酬点数の見直しについて通知を出しました [1]。すなわち、当時で1800点(1点10円)であったものを1350点に引き下げ、今年4月1日で700点に下げるというものです。
この結果、医療機関が民間検査会社に検査委託すればするほど赤字になるという状況が生まれたとも伝えられ [2]、それが検査数の減少につながっているのではないかと言われているわけです。
しかし、図2からわかるように、医療機関での検査が極端に減っている様子はありません。どうやら、いまのところ、民間の検査が減る以上に、行政検査としてのPCR検査が減り続けているというのが実情のようです。相変わらずの行政主導によるPCR検査抑制論に根ざす検査貧国ぶりを露呈しています。とはいえ、4月からの更なる診療報酬点数の引き下げが、これから検査数に影響してくるかもしれません。
テレビの情報番組が伝えるところによれば、厚労省は現在のPCR検査能力について41万件/日、抗原定性検査について8万件/日としているようですが(図4)、問題はどのように運用するかです。図2に示すように、第6波の検査ピーク時から減らし続けている状態は、何をか言わんやです。
図4. テレビが伝えた厚労省の検査に関する見解(2022.04.13. TV朝日「モーニングショー」より).
今日、東京都のスクリーニング検査によれば、BA.2系統のウイルスが76.7%を占めるという報道がありました。しかし、検査抑制の状況下では流行状況が正確に把握されているとは言えず、検査・隔離の基本に基づく防疫対策も機能しているとも言えないでしょう。もはや日本のPCR検査は、患者の確定診断のみに使われている状態であり、それを改善する意思もないようです。
加えて、元々感度が悪い迅速抗原検査はオミクロンに対してはさらに感度が低下していると考えられ、相当数感染者を見逃している可能性があります。PCR検査数の減少と抗原検査の感度の低下で、見かけ上感染者数が減っていることも考えられます。
SARS-CoV-2感染の恐ろしいところは、もちろん健康被害の重篤度(最悪致死に至る)にあるわけですが、他の感染症にみられない特質として long COVID(いわゆる後遺症)が挙げられます。重要なことは、long COVIDは無症状感染者でも起こることです。日本のように検査をしない中途半端なwithコロナ戦略の状態では、感染の自覚のない多数の感染者と long COVID 患者が生まれ、労働生産性に影響を及ぼししかねないという懸念があります(→未来を変え続けるCOVID-19とwithコロナ戦略)。
引用記事
[1] 厚生労働省医政局地域医療計画課等: 新型コロナウイルス感染症の検査に係る診療報酬点数の見直しについて(周知). 2021.12.28. https://www.city.tokyo-nakano.lg.jp/dept/475000/d030673_d/fil/R031228.pdf
[2] 藤亮平、田ノ上達也: 診療所「PCR検査するほど赤字」…国が報酬を大幅引き下げ、検査数減る懸念も. 読売新聞オンライン 2022.02.27. https://www.yomiuri.co.jp/national/20220225-OYT1T50062/
引用したブログ記事
2022年4月13日 未来を変え続けるCOVID-19とwithコロナ戦略
2022年2月24日 統計崩壊で起こった第6波流行ピークのバイアス
2022年2月14日 国が主導する検査抑制策
カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)