Dr. Tairaのブログ

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未来を変え続けるCOVID-19とwithコロナ戦略

日本はCOVID-19パンデミックの第7波流行に突入しています。一方で、このところ、テレビなどからきわめて楽観的な声も聞こえてきます。海外では全て規制解除しているとか、米国では誰もマスクをつけていないとか、withコロナの出口戦略をどうするとか、もう風邪みたいなものだから普通に社会経済を回そう、とかいう意見です。

しかし、パンデミックは終わっておらず、それどころかウイルスは変異を続けながら人間社会に深く入り込み、ますます先が見えにくくなっています。皮肉なことに、ワクチンや新しい治療薬の使用が、安易なwithコロナ戦略の導入を許し、混乱に拍車をかけている感もあります。私が個人的に恐れているのは、社会システムや集団的健康レベルがコロナ以前の状態にはもう戻れないとのでは?ということです。

現在、SARS-CoV-2に感染者は世界で5億人に至っています。ワクチンや新しい治療薬も登場しているとは言え、withコロナ戦略という名の下で規制緩和をしていく限り、感染者数はなかなか減っていかないでしょう。感染者数は重要ではなく、重症者や死亡を重視すべきだという意見がありますが、そこに大きな落とし穴があります。それは上述した世界における集団レベルでの健康悪化への懸念です。

COVID-19の特徴は、多くの患者においてウイルスが消失した後も何らかの症状が継続するという後遺症(long COVID)があることです。たとえ無症状感染者だったとしても、1/3にlong COVIDが見られると報告されています [1, 2]。COVID-19に罹患した際はもちろんのこと、long COVIDの状態になってしまえば、通常の状態で働くということが難しくなってきます。その結果、労働のリソースが至るところで不足するという事態になりはしないかという懸念があります。

Long COVIDは罹患した場合のみならず、類似の症状はワクチン接種後でも起こりえます。ワクチン後遺症に悩む人は少なくありません。さらにmRNAワクチン自己免疫疾患や免疫不全につながる副作用への懸念もあり、未知のリスクもあるでしょう。この先、数年の間に思わぬ健康問題に発展するかもしれません。

要するに、人類はコロナに自然感染することとワクチンで人為的感染することの両面において、大きな健康問題につながるリスクを抱えており、それがこの先社会システムに大きな影響を与えかねないのです。

このようななか、「大きくなり続ける"long COVID"の問題が労働力不足に拍車をかける」という記事が、Financial Times(FT)に掲載されていました [3]。この記事は、これからの社会の未来を暗示しているような内容になっています。

FT記事で指摘しているのは、健康問題に由来する労働力不足によって起こる社会経済の混乱です。特に英国では航空業界に特に大きな打撃を与えているようで、2年ぶりに活気は戻っているとしながらも、何万人ものスタッフが解雇されたパンデミックどん底から依然として立ち直る機会が制限されているとしています。

労働力不足の結果、ブリティッシュ・エアウェイズイージージェットは、先週、数十便のフライトをキャンセルしなければなりませんでした。ヒースロー空港は12,000人の新規雇用を計画していますが、それまでの間、春から夏にかけての旅行者の混乱が予想されるだろうと警告が出されています。

COVID-19による労働者の欠勤は、公共部門でも問題を悪化させ続けていると、FT記事は指摘しています。今週末、COVID-19で入院する人の数が急増し、NHSスタッフの病欠が増え続けています。そのため、NHSのリーダーたちは、英国政府の「withコロナ」戦略を非難しているようです。

労働力不足は、英国の食品産業が永久に縮小する可能性もあるとする英国議会の報告書もFT記事は伝えています。米国では、小売業から保養所まで、過去40年間で最速のインフレが進行する中、新規採用者を惹きつけるために初任給を引き上げ、既存スタッフの賃金を引き上げているようです。

そして、ビジネス界で問題が大きくなっているのが、long COVIDの影響です。FT記事によれば、世界中で推定1億人がこのこの後遺症に苦しんでおり、多くの人が以前のような労働生活に戻ることができないでいるのです。この病気は新しいものであり、各国政府はこの症状を障害として扱うべきか、職業病として扱うべきかをまだ明確にしていません。しかし、確かなことは、その数が増え続けているということです。

COVID-19で入院した患者の5人に1人は、5ヵ月後も仕事をしておらず、同様の割合で健康上の問題から仕事を変えなければならなかったことが、英国の調査で明らかになったとFT記事は伝えています。他のデータでは、長期にわたる体調不良を理由に仕事をしていない人、あるいは職を探している人の数が20万人も急増しており、英国企業の4分の1が長期にわたるCOVID-19を欠勤の主な原因の1つであるとしています。

米国では、1,060万人の雇用空席のうち、15%以上が long COVID である可能性があるとの調査結果もあるとFT記事は伝えています。

一方で、日本のビジネス界や公共部門における労働状況はどうでしょうか。厚生労働省はきちんとした調査を行っているのでしょうか。感染者が増え続ける限り、この問題はますます大きくなっていくと思われます。労働者不足のみならず生産性に大きく影響する可能性があります、

最近、中国で感染拡大が続いていますが、網羅的検査を行なっている中国では9割以上が無症状感染者であることが伝えられています。これは恐ろしい現実を私たちに突きつけます。つまり、日本で新規陽性者数として伝えられている実際の人数よりもはるかに多くの人たちが無自覚のままに感染している可能性があり、そしてわけもわからずに倦怠感やブレイン・フォグなどに襲われ、仕事に支障を来している可能性があるのです。

新規陽性者数の数字は、流行の先行指標として意義がありますが、long COVIDや労働力への影響という意味でもきわめて重要なのです。そして重症化や致死に至らないことはもちろんのこと、まずは罹らないことが一番なのです。

政府はこの問題をきちんと踏まえた上で、withコロナ戦略を練り直し、ニュー・ノーマル路線のレールをきちんと敷いていくべきではないかと考えます。

引用記事

[1] 日本経済新聞: 無症状者でも3割がコロナ後遺症 世田谷区調査. 2021/11/18. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC177SN0X11C21A1000000/
[2] NHL NEWS WEB: 新型コロナ 無症状でも3割に後遺症 東京・世田谷区調査. 2022.04.10. https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20220410/1000078824.html

[3] Dodd, D: Labour shortages exacerbated by growing problem of long Covid. Financial Times April 11, 2022. https://www.ft.com/content/836dd175-f923-478b-80cb-f83e287419f5

                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

カテゴリー:社会・時事問題