Dr. Tairaのブログ

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オミクロン系統の新しい変異体

2022.04.05更新

COVID-19パンデミックは3年目に入りましたが、いまはオミクロン系統(関連ブログ記事→オミクロン変異体が意味するもの)のSARS-CoV-2変異体の流行が主体です。オミクロンは、日本で第4波流行をもたらしたアルファ変異体、第5波の原因であったデルタ変異体の系統とは系統樹上で深い分岐を示し、野生動物のなかで変異を起こして生まれたことも提唱されています [1](関連ブログ記事→スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染)。

いま日本では、オミクロン流行の主体としてBA.1系統からBA.2系統のウイルスに置き替わろうとしています。一方で、ヨーロッパではこれらとは異なるオミクロン系統変異体が発見されており、その感染拡大が懸念されています。その一つがオミクロンXEです。

オミクロンXEについては、最近、メドリヴァ(Medriva)社のCEOであるグルバクシ・チャハル(Gurbaksh Chahal)氏による解説記事が当社HPに掲載されています [2]。メドリヴァは彼によって設立された香港の会社で、体外診断用医薬品と注射・輸液の2つのラインを製品を製造・販売しています [3]。オミクロンXEに関する当該解説は、COVID-19パンデミックに対して、政府の緩和政策とともに私たちはどのように向き合うべきかについても示唆的な内容になっていますので、ここで紹介したいと思います。

解説記事のタイトルは、"What Is The Omicron XE Variant And Why Are Scientists Concerned About Its Rapid Transmission Rate?"「オミクロンXEとは何か、なぜ科学者たちはその速い伝播速度を懸念しているのか?」です。

COVID-19対策の規制が緩和されつつある今、新たなオミクロン系統の変異体が科学者たちの注目を浴びています。オミクロンXEと名付けられたこの変異体は、特に最初に発見されたヨーロッパで高い感染力と伝播力が見られています。記事は、「私たちは、この2年間、厳しい制限の中で家に閉じこもってきたが、この新しい変異体の登場が何を意味するのか、答えを出すのは簡単なことではない」と語り、そして、「オミクロンの猛威によって、雇用の喪失とともに経済の停滞が起こっているものの、健康は妥協できるものではない」とも述べています。とにかく、多くの国でオミクロンからの防御に失敗している状況において、起こりうる感染から身を守るためには、オミクロンXEについてもっと知ることであるということです。

●オミクロン亜変異体とは?

記事ではオミクロンの登場と経緯につして説明しています。

オリジナルのオミクロン・ウイルスが最初に検出されたとき、少なくとも臨床的にはその亜変異体は存在しませんでしたが、状況はすぐに変わりました。すなわち、ウイルスは変異を繰り返して人体に適応し、また検出をくぐり抜けることが起こり、世界中でBA.1とBA.2という2つの異なる亜型が発見されることになりました。BA.2はより感染力の強い亜型で、ヨーロッパで多発し、オミクロン関連の症例の中ではかなり目立つ存在になっています。

世界保健機関(WHO)は、オミクロンの原型であるBA.1のモニタリングを注意深く行なっていましたが、やがてBA.1型、BA.2型、BA.3型と名付けられた三つの変異型に注目することになります。 このうち、BA.2の遺伝子変異はそれまでのPCR検査で発見が難しく、ステルス・オミクロンと呼ばれることになりました(先のブログで紹介→ステルスオミクロン)。

オミクロンの親変異体は変異が多いSARS-CoV-2ですが、WHOと米国疾病対策予防センター(CDC)の両方で「懸念される変異体」(VOC)に分類されています。BA.2はそこからまた変異をもつウイルスですが、オミクロン系統であるため、引き続き注意が必要な変異体であることに変わりはありません。

BA.2型は、COVID-19の最初のきっかけとなった武漢SARS-CoV-よりも、はるかに急速に、かつ容易に拡散する能力を持っています。実際、過去のデルタ変異体やオリジナルのオミクロンなど、どの変異体よりも伝播力が強いのです。デンマークの科学者は、BA.2は、オミクロンのオリジナル型よりも1.5倍も感染力が強いと述べています。この分野のほかの専門家も、BA.2は英国だけでなく、米国など他の国々でも感染の波を広げる可能性があるとと警告しています。

●オミクロンのXD、XE、XF変異体

さらに、XD、XE、XF変異体について記事は述べています。

オミクロン・ウイルスの研究に携わっている各国の研究者は、最近になってオミクロンとデルタ型のハイブリッド型コロナウイルスをいくつか発見しています。 最初それが発見されたとき、精査した結果、それは誤報だとわかりました。しかし、安心する間もなく、英国ではオミクロンウイルスの亜系統である組換え変異体が、その親型よりも高い伝播力を示すということが後でわかるという醜態をさらしています。

英国健康安全局は、現在、XD、XE、XFという3種類の組換え亜系統オミクロンを認め、監視しています(図1)。

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図1. オミクロンの新しい亜系統XD、XE、XF. 英国健康安全局はXE型をはBA.1とBA.2という2つのオミクロン亜型の組み合わせであると発表している(記事 [2] より転載).

XDはBA.1とデルタ型のハイブリッドであり、デンマーク、フランス、ベルギーで多く確認されています。

一方、科学者や医師を最も不安にさせているのはXE変異体(BA.1とBA.2のハイブリッド)であり、それが、親ゲノム配列には存在しない3つの変異を有していることです。NSP3にあるC3241T、V1069I、そしてNSP12にあるC14599Tです。この変異体は、他のどのオミクロン系統ウイルスよりも感染力・伝播力が著しく強く、英国当局にとって重大な懸念材料となります。

3番目の亜系統はXFと呼ばれ、BA.1とデルタ型の組換え体で、英国でのみ検出されています。XEに比べれば比較的安全ですが、この変異体もいつ突然変異を起こし、はるかに深刻な脅威をもたらすか分からないということで懸念されます。

●XE変異体の伝播性

WHOによると、オミクロンウイルスのBA.2亜型は、ゲノム解読された全症例の86%がこれに起因するとされる、最も優勢なウイルス変異体です。またWHOは、XE変異体について、非常に伝播力が強く、これまで遭遇したCOVIDのどの変異体よりも伝播力が強い可能性があるとして警告しています。

XE組換え型は、2022年1月19日に英国で初めて報告・検出されました。3月22日までに、英国で確認された症例は637件でした。これらの症例は、ウイルスの地域的な広がりを示唆するように、英国内に地理的な分布が確認できました。英国で最も優勢なオミクロンBA.2のゲノムサンプルを比較したところ、XE亜型が最も感染力が強く、正確には9.8%多いことが判明しました。もし、この報告が事実であれば、XE亜型は現在最も伝播力の強い変異体という不名誉な称号を手にすることになります。

●結論

記事は以下のように結論を述べています。

英国では、またしてもCOVID-19が急増し、毎日多くのオミクロンが検出されています。これに、個人防護の甘さとCOVID-19対策の完全な緩和が重なると、時限爆弾を抱えるということになります。政府は、オミクロンの発生に関しては、同時に経済的な問題に取り組んでいるため、感染対策を緩和することで自分の道をなくそうとしているようです。

XE変異体は、これまでの症例のごく一部に見られるに過ぎませんが、高い伝播力を持っているため、近い将来、ダーウィン進化論的に、英国を皮切りに最も支配的なウイルス変異体となる可能性が高いと考えられます。

否定できないのは、英国ではオミクロンの感染の第二波が起きており、衰える気配がないことです。多くの国が行ったように、自由主義者の願望を満たすために、ウイルスのパンデミック規制緩和としてカーペットの下に押し込めるのは驚くべきことです。自己検査が無料で受けられるようになったため、人為的に感染者が減少したのかもしれませんが、オミクロン流行で経験しているように、入院や死亡は比例して減少していません。

私たちは皆、政府からの指示を必要としているのですが、政府は次から次へと問題に首を突っ込み、道を失っているようです。COVID-19の予防措置がすべて解除されたため、英国に住んでいる人は、自分で考え、油断しないようにする必要があるです。今後もCOVIDのガイドラインを責任を持って真摯に守っていくべきです。オミクロンのXE組み換えの脅威がある以上、ある程度の予防線と自己認識を持って防衛策を講じておきたいものです。

筆者あとがき

コロナの波がエンデミック(風土病)や風邪みたいものに変わるという科学的根拠はなく、私たちを次々と新しいSARS-CoV-2変異体が襲ってきます。今回の記事でも再認識できるように、オミクロン亜系統のXEはそのうちの一つです。そして記事では、経済優先したいために為政者が次々と規制緩和することに対して、道を失っていると批判し、私たちは自己防衛するしかないと主張しています。

英国を含めた海外で規制解除されているのは、確固たる科学的根拠があるわけではなく、経済活動を推進したい欲望がそうさせているだけであり、それをウィズコロナという名で、あたかも何かの科学ベースの方針があるかのように見せかけているだけのように思えます。そんな空虚な海外のCOVID-19対策緩和ですが、日本でもこれに続けとか出口戦略を考えるべきだという論調が見られます。

2022.04.05更新

このブログ記事を書いたあと、今日(2020年4月5日)、ブルームバーグがXE変異体について記事を配信しているのを目にしました。ここにそれを引用しておきます [4]

引用文献・記事

[1] Wei, C. et al.: Evidence for a mouse origin of the SARS-CoV-2 Omicron variant. J. Gen. Genomics 48, 1111–1121 (2021). https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1673852721003738

[2] Chahal, G.: What Is the Omicron XE variant and why are scientists concerned about its rapid transmission rate? Medriva April 2, 2022. https://medriva.com/what-is-the-omicron-xe-variant-and-why-are-scientists-concerned-about-their-rapid-transmission-rates-fueling-the-uk/#gs.vr9zrh

[3] Medriva: https://medriva.com/#gs.vrcj8r

[4] Lew, L. and Michelle Cortez, M.: China variants and omicron XE put fresh focus on Covid mutations. Bloomberg April 4, 2022. https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-04-04/china-variants-and-omicron-xe-put-fresh-focus-on-covid-mutations 日本語版: https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-04-04/R9TGKZT1UM0W01

引用したブログ記事

2022年3月9日 スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染

2022年1月24日 ステルスオミクロン

2021年12月11日 オミクロン変異体が意味するもの

                      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)