Dr. Tairaのブログ

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ピークアウト後は富士山型?

新型コロナウイルス感染症の第6波流行は、昨日(2月8日)新規死亡者数159名を記録しました。過去最多数としては昨年5月18日に216人を記録していますが、これは当該日より以前の未報告分が加算された数字であり、実質今回が最多数だと思われます。実際、昨年216人も簡単に超えそうな勢いです(図1下)。残念ながら、感染者数(図1上)はもとより死亡者数も合わせて、これまでの波で最大の被害となることが予則されます。

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図1. 日本における新型コロナ感染症の新規陽性者数(上)と死者数(下)の推移(7日間移動平均、Our World in Dataからの転載図).

第6波感染流行のピークが見えないなか、政府は、まん延防止等重点措置を、13都県で、3週間を軸に延長する方向で検討しているようです。一方で、官邸内には、経済活動への影響を考えて、できるだけ短くしたいという意見も出ています。

一方で、先般、山際大臣から「緊急事態宣言発出のレベルにまで悪くならないようにしなければならない」との主旨発言がありましたが、おかしな発言です。緊急事態宣言は事態が悪くならないように発出するものであって、ぎりぎりに悪くなってから発出というのは本末転倒です。同様に、政府の弱いまん延防止から始めて強い緊急宣言に移るというやり方も感染症対策の基本を無視しているというか、理解していないのではないかと思います。基本は早めに一気に強い対策を打ち、効果が出てきたら徐々に弱めるというものです。

先の国会における、感染状況の見通しに関する、立憲民主党山井衆議院議員と政府分科会の尾見茂会長のやりとりは、聴いていてまったく腰が抜ける内容でした。ウェブニュース [1] でやりとりが報道されていますので、そのまま当該部分を以下に示します。

山井議員:「ピークアウトの後(感染者数が)ストンと落ちるのか、ダラダラと高止まりしていくのか。ストンと落ちるのを“マッターホルン型”といわれておりまして、だらだらとちょっと長引いていくの“富士山型”といわれるそうですけれど」

尾身会長:「先生の言うピークアウトというのは可能だと思います。しかしその後、富士山かマッターホルンかという話ですけれど、残念ながら今の状況は、若い人からの感染が始まって、高齢者施設の感染、大きなクラスターが始まっているから、可能性としては、すぐにマッターホルンのようにはいかない。どちらかといえば、マッターホルンよりも富士山型、あるいは、もう少しさらに(上がる)ということを考えていく必要がある」

このやりとりについて、私は感想を以下のようにツイートしました。

今、日本は感染者の急増に対して、検査が全く追いついておらず、むしろ検査数を減らしています(図2)。にもかかわらず、図1上に示すような陽性者の増加が依然として見られているわけです。その結果、2月7日の神奈川県黒岩知事のツイートで、検査陽性率85.13%という驚くような数字も出てくる始末です。

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図2. 日本における日当りのPCR検査実施件数の推移(NHK特設サイト「新型コロナウイルス感染症」からの転載図).

このように、現在検査は患者確定にしか使われておらず(それさえも満足にできず「みなし陽性」というなし崩し的措置が出現)、感染流行の追跡がボロボロの状況で、土台ピークがどうこうという話はできないのです。

上記の、山井議員と尾見会長のやりとりで出てくる「マッターホルン型」とか「富士山型」とかいう議論は全く意味がなく、尾見会長が「ピークアウト後は富士山型」と話す根拠もありません。もし言うなら、「検査が全く足りていないので、陽性者数の飽和が続き、富士山型になるでしょう」とすべきです。もっと言うなら、1月27日付で、政府が検査抑制の指示を全国に出していることを補足すべきでしょう(これについては後日触れます)。さらに、検査不足に加えて、BA.2の感染者数が"ステルス的"に増えていると思われるので、ピークの減少は緩やかになることも考えられわけです(→ステルスオミクロン)。

このような状況化で、実効再生産数(Rt)など正確に出せるはずもなく、テレビで「Rtが減少傾向にある」と発言していた専門家がいたのにはビックリしました。

上記のウェブ記事 [1] は、「ピークアウトが緩やかに進むとすれば、経済への影響は、まだまだ続くことになります」と書いています。私はこの「ピークアウト」という和製英語の疫学上の意味がよくわからず、理解するのに苦労しています。山井議員の発言を見れば、感染ピークと言うニュアンスですし、尾見会長の「ピークアウトというのは可能」という発言は、意味がよくわかりません。ウェブ記事が使っているピークアウトは、ピークを過ぎて下り坂になっているという意味にとれます。日本では用語がきわめてあいまいに使われていると言うのがコロナ禍でわかった事実です。

もとより、厚生労働省と周辺感染症コミュニティ主導の検査抑制論に始まった検査貧国の日本ですから、感染流行を把握することも制御することもできないわけで、その状態で目の前の数字についてあれこれ議論しても空回りであり、結果として甚大な被害をもたらしているということになるでしょう。今回の「ピークアウト後は富士山型」の発言は、まさにそれを象徴しています。

オミクロン変異体はこれまでのSARS-CoV-2とパンデミックの常識を変えるウイルスであるということは、昨年12月のブログで書いたとおりです(→オミクロン変異体が意味するもの)。その時点から日本で第6波が始まっていることも明らかでした(→2022年を迎えて−パンデミック考)。そして第6波は、高齢者や基礎疾患を抱える脆弱者が主標的であるというコロナの本質が改めて露呈する流行であるとともに、感染絶対数の爆発的増加がもたらす相対的被害の拡大が焦点であることも明白でした(→「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態オミクロンは軽症なのになぜ病院をひっ迫させるのか?)。

オミクロンは軽症という物語に踊らされた日本は、ただ被害を拡大させることしかできなかった、それが続行中という印象です。

引用記事

[1] テレ朝news: 政府分科会「ピークアウト後は”富士山型”」感染者”高止まり”続く可能性. 2022.02.08. https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000244253.html

引用したブログ記事

2022年2月1日 オミクロンは軽症なのになぜ病院をひっ迫させるのか?

2022年1月30日 「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態

2022年1月2日 2022年を迎えて−パンデミック考

2021年12月11日 オミクロン変異体が意味するもの

                     

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年〜)