Dr. Tairaのブログ

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学会の検査の捉え方と1日20万件の検査の不思議

はじめに

安倍総理大臣は、2020年8月28日、辞意表明を行うとともに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のパッケージの中身の一つとして1日20万件の検査を行なうことを発表しました。現在の検査能力と比べると、20万件/日という検査数はかなり増えるように思えますが、実はこれはPCR検査ではなく、簡易(迅速)抗原検査のことのようです。

簡易抗原検査は、ウイルスを抗原とする酵素免疫反応とイムノクロマトグラフィーを利用して、陽性の場合に現れる発色を目視で定性的に判定できるようにしたものです。本検査はPCR検査に比べると迅速に診断できるというメリットがありますが、一方で感度(おそらく特異度も)が低いことが知られています。

つまり、偽陰性偽陽性を頻繁に発生させる可能性があるということなのですが、大量に導入されようとしています。そして、PCR検査の偽陰性偽陽性を挙げながらその拡充の不合理性を唱えている感染症コミュニティの人たちは、この簡易抗原検査の大量導入に対してはなぜか口をつぐんでいます。

ここでは、関連学会の検査に対する捉え方を確認しながら、SARS-CoV-2検査における偽陰性偽陽性の問題をあらためて考えてみたいと思います。そして、20万件の簡易抗原検査が導入される背景と理由について考えてみたいと思います。

1. 日本臨床検査医学会の見解

SARS-CoV-2検査の学術的・運用面の中心的立場にあるのが、日本臨床検査医学会です。当学会のホームページには「新型コロナウイルスに関するアドホック委員会[1] による「新型コロナウイルス感染症検査の使い分けの考え方」(8月27日) という文書が掲載されており、COVID-19診断に関連する検査として、核酸検査抗原検査抗体検査が挙げられています。これらの中で、ウイルスの存在を検査するものとしては前二者です。

ここで、核酸検査(PCRLAMPなど)は、最も検出感度が高く、パンデミックの当初から国際的にも標準的な検査方法として広く利用されていると紹介されています。一般的に核酸検査は抗原検査よりも少ないウイルスを検出できる一方、抗原検査と比較して結果の判明までに時間がかかると述べられています。

抗原検査には、簡易キットによる定性検査と化学発光酵素免疫測定法による定量検査があり、後者は専用の測定機器を用いて測定すると紹介されています。そして、簡易キットによる抗原定性検査は、ある程度のウイルス量がないと検出できず、疑い症例で判定が陰性であった場合には、核酸検査による確認が必要であると述べられています。

検査が適用される場面については、図1のような見解を示しています。すなわち、有症状者を対象としたCOVID-19診断、無症状者を対象としたスクリーニング、濃厚接触者のスクリーニング、渡航時やビジネス上の社会的ニーズの四つの場合を挙げています。

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図1. COVID-19の検査の利用場面について(文献 [1]より転載したものに赤線加筆).

図1の見解の上で当委員会では、有症状者と無症状者とに分けて検査の適用法を考えています。有症状者でCOVID-19の診断を目的とする場合は、鼻咽頭ぬぐい液を材料として核酸検査を行うことが最も検出感度の面で優れるとしながらも、検査体制が十分でないことで、対応の遅れに繋がる懸念に触れています。

その面で迅速に活用できるのが抗原検査です。治療や感染制御上の対応などを早期に開始するためには、迅速性に優れる簡易抗原検査の優先的使用が有用であり、抗原検査が陰性の場合でも、疑いが拭いきれない場合は必要に応じて核酸検査を実施し、総合的に診断を行うことを推奨しています。

無症状者でより確実にCOVID-19と診断することが求められる場合は、鼻咽頭ぬぐい液が最適としていますが、無症状者を対象に検査する場面では、対象数の多さと負担軽減の面から、唾液を検体とすることも想定しています。その場合、比較的ウイルス量が少ないと想定されることから、唾液と鼻咽頭検体との間で、または核酸検査と抗原定量検査の間で結果に乖離が出る可能性があることにも言及しています。

濃厚接触者のスクリーニングなど、偽陰性を減らすことが優先される場合には、鼻咽頭ぬぐい液を検体とする核酸検査を行うことが推奨されるとしています。無症状者を対象としては簡易キットによる抗原定性検査は推奨しないと記されています

2. 臨床検査の偽陽性偽陰性について

2-1. 日本臨床検査医学会の解説記事

上述したように、日本臨床検査医学会アドホック委員会では、簡易抗原検査で発生する偽陰性の可能性について触れています。しかし、簡易抗原検査の感度や特異度については具体的に記されていません。これはPCR検査についても同様です。

同学会のホームページでは、三宅⼀徳氏(順天堂⼤学医学部附属浦安病院臨床検査医学科) による「臨床検査の偽陽性偽陰性について」 という解説 [2] が掲載されています(図2)。これは一般向けの解説記事であり、偽陰性偽陽性、的中率がわかりやすく説明されています。

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図2. 検査における偽陰性偽陽性、的中率(文献 [2]から転載) 

この解説記事には、事前確率に依存した陽性的中率についても説明されています。この解説に基づいて作成したのが図3です。ここではある疾患について、1万人の人を対象として感度99%、特異度99%の検査をしたときの陽性的中率を示しています。図2上は、実際に50%の人が罹患していた場合、図2下は1%の人が罹患していた場合を示しており、罹患率で陽性的中率が異なる(それぞれ99%、50%)ことを示しています。

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図3. ある疾患の罹患率が異なる集団について感度99%、特異度99%の検査を実施した場合の陽性的中率.

つまり、罹患率が高い集団に検査をしたときには陽性的中率は高くなりますが、罹患率が低い集団では、疾患なしの人たちの多くに偽陽性を生じてしまい、陽性的中率が下がってしまうということです。

この教科書的な理論は、従来の臨床検査一般に当てはめることができますが、問題は多くの医者やメディアの人たちが、PCR検査にも当てはめて誤用してきたことです。図2の確率論は、あくまでも一定の非特異的反応(交差反応)を発生し、一定の感度や特異度が決まっている検査については述べることができますが、非特異的反応もほとんど起こらず、特異度も決まっていない(ほぼ100%の)PCR検査については当てはめることはできないのです。

PCR検査の偽陽性は滅多に起こるものではありませんが、発生するとしたら非特異的反応ではなく、検体のクロスコンタミなどのヒューマンエラーやウイルスの残骸などによるものです。つまり、実際に罹患した人が集団内にいない(事前確率が低い)と偽陽性は起こりにくいのです。

たとえば、岩手県では感染者がほとんどいないという状況であったため、2020年7月まで1428人をPCR検査して全員陰性という結果になり、偽陽性は起こりませんでした。中国武漢では市民全員の990万人をPCR検査して、陽性者はたったの300人(全員無症状)でした。仮にこの300人全員が偽陽性だとしても、偽陽性率はたったの0.003%(特異度99.997%)になります。

このように、感染者がきわめて少ない地域では、無症状者に対してPCR検査しても偽陽性はほとんど起こらないことは、分析原理上はもとより、実例上も証明されているのです。PCR検査について、単に図2の確率論に基づいて陽性的中率について論じることは、ただの数字のトリックと誤謬になってしまいます。

一方で、簡易抗原検査も特異度が高いと言われていますが、非特異的反応が起こる可能性があります。偽陽性と陽性的中率についてもっと述べられるべきものですが、当該学会のHPにおいては言及がありません。

2-2. 日本疫学会の検査の精度に関する見解

日本疫学会も検査の精度について述べています。本学会のホームページにも新型コロナウイルス関連情報という特設ページがあり、その中に新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&Aコーナーが設けられています [3]

Q1の「新型コロナウイルス検査は、どのくらい正確なのですか?」という問いについては、Radiologyに出版されている原著論文も引用しながら、「PCR検査は、ある程度のウイルス量があれば、ほぼ正確に診断できると言えますが、検体の取り方や場所、感染からの経過日数などによってその正確さは変わります」と結論が述べられています。一方で抗原検査については言及がありません。

Q1の追加説明についてという部分では、PCR検査についてのより詳細な記述があります。原著論文を引用しながら丁寧な説明がしてありますが、以下のようにPCR検査自体の精度の問題ではないこと、感度については決められないことが述べられています。

                

検体の採取部位・種類、さらには、感染あるいは発症からの経過時間によりPCR検査の結果が異なること、それはPCR検査自体の問題ではなく、検体採取部位におけるウイルス量(RNAコピー数)の問題であることを説明してきました。
PCR検査の感度は?についての結論ですが、PCR検査の感度については、PCR検査自体以外の要因の影響が大きいこともあり、一概に感度は何パーセントであると言い切れないのが実情です。

                

敢えて挙げればとして、Kucirka et al. [4] の論文を引用しながら「感度として一番よい値になるのが、感染から8日目(症状発現の3日後)の80%(95%信頼区間:70%-88%)となります」と述べられています。しかし、Kucirka論文で示されているのはベイズ階層モデリングによる確率論であり、実際の感度とは区別されるべきであることは先のブログ(→PCR検査の精度と意義PCR検査の偽陰性率を推定したKucirka論文の見方)で示したとおりです。

「検査の正確さの指標」で臨床検査医学会と同様な感度、特異度、的中率に関する説明があります。

3. 日本感染症学会の見解

上記のように、日本臨床検査医学会では、COVID-19の検査の利用場面と精度に関して、PCRと抗原検査のそれぞれについて見解を示しています。それでは医療の立場から日本感染症学会は検査をどのように考えているのでしょうか。当該学会から出されている「"今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて”の提言に際して」という文書 [5] を見れば、その考え方が理解できます。

この秋冬はインフルエンザとCOVID-19の両方が流行ることが懸念されています。両者は症状から見分けがつきにくいので、診断上で頼りになるのは検査です。そこで日本感染症学会は両方が流行した場合、両方の検査が望ましいとの指針を出しています。

図4に示すように、インフルエンザを疑う場合、COVID-19を疑う場合、および鑑別が困難な場合の3つに分けて、検査と外来診断のやり方のフローが提案されています。これは、COVID-19に対する検査キットについては供給量が十分ではないことから、臨床現場の実情にあった、医療の混乱を防ぐ診療の在り方ということを念頭において、提案されているものです。

インフルエンザの場合は従来から簡易抗原検査が使われていますが、COVID-19の場合も簡易抗原検査が適用できることが全面的に打ち出されています。むしろPCR検査よりも簡易抗原検査を推奨しているようにも見えます。 

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図4. インフルエンザおよびCOVID-19を疑う患者の外来診断のフローチャート(文献[5]より転載).

この提案書には、国内での抗原検査キットとして富士レビオ株式会社のエスプラインSARS-CoV-2が認可されていることが紹介されています。そして、本キットで陽性の場合は確定診断とできること、陰性の場合は発症後 2-9⽇⽬以内であれば、追加のPCR検査は必須ではないことが示されています。陰性の場合にPCR検査で確かめなくてよいのか心配になりますが、これは後述のように厚生労働省ガイドラインに沿ったものです。

一方で、簡易抗原検査は、PCR検査に比べて、検出に⼀定以上のウイルス量が必要であり、無症状者では検査前確率が低いと想定されることより、無症状者に対してやスクリーニング⽬的での使⽤は推奨しないと書かれています。さらに簡易抗原検査の検体として用いることができるのは鼻咽頭ぬぐい液のみであること、唾液検体が使⽤できるのは、PCR検査、LAMP検査、抗原定量検査であることも記されています。

4. 確定診断法としての簡易抗原検査と精度

4-1. 厚生省のガイドライン

それでは、厚生労働省から出された「SARS-CoV-2抗原検出用キットの活用に関するガイドライン」(2020年5月16日、6月16日改訂)[6] を見てみましょう。このガイドラインでは、富士レビオ株式会社のエスプライン SARS-CoV-2を使用することを前提として書かれています。現時点ではこのキットに加えて、デンカ株式会社の「クイックナビ-COVID19 Agが保険適用とし認可されています [7]

図5に示すように、簡易抗原検査キットについては次のことが記載されています。すなわち、1) 検体は鼻咽頭ぬぐい液のみを対象とする注1)、2) 本キットで陽性となった場合は確定診断とすることができる注2)、3) 発症後2日目以降から9日目以内の者については、 陰性となった場合は追加の PCR検査等を必須とはしない注3)、4) 無症状者に対する使用は適さない注4)となっています。

さらに、医師がCOVID-19を疑う症状があると判断した者に対して、必要性を認めた時に使用することも示されています。

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図5.  抗原検査キット(富士レビオ製エスプライン SARS-CoV-2)の特徴と使用法(文献[6]からの転載図に加筆).

この厚労省ガイドラインでちょっとびっくりするのは、上述したように、発症後2–9日間の患者で陰性と出た場合でも確定診断としてよいとしているところです。つまりRT-PCRによる再検査は必要ないということです。

前述したように、日本臨床検査医学会では「抗原検査で陰性の場合、疑いが拭いきれない場合は必要に応じて核酸検査を実施し、総合的に診断を行うこと」を推奨しています。この学会見解とは、厚労省ガイドラインは異なっています。

また、後述するようにRT-PCRと比較した迅速抗原検査の感度の低さはよく知られており、これでは偽陰性が頻出するのではないかと危惧されます。抗原検査で陰性と出た場合にRT-PCRで再検査で陽性と出れば偽陰性であったことがわかりますが、再検査がなければ陰性として判断されてしまい、院内感染を含めて二次感染を広げる危険性があります。

では厚労省ガイドラインでは、迅速抗原検査の精度はどのように記載されているのでしょうか。メーカーが実施した国内臨床検体、行政検査検体を用いた結果、および川崎健康安全研究所、東邦大学医療センター(15例)、国立国際医療センター(10例)が実施した試験結果が示されています。

まずはメーカーが実施したエスプラインSARS-CoV-2の試験では、国内臨床検体を用いてRT-PCRと比較した場合、陽性一致率は37%(44/45例)、陰性一致率は98%(10/27例)と示されています。行政検査検体を用いた場合では、陽性一致率66.7%(16/24例)、陰性一致率100%(100/100例)とされています。

東邦大学国立国際医療センターの結果では67-88%の一致率が記載されていますが、検体数が少なすぎます。さらには川崎の試験では、RNA1600コピー以上の検体での一致率は100%、100コピー以上での検体での一致率は83%としていますが、後者は1600コピー以下の結果について述べるべきでしょう。

一方、「クイックナビ-COVID19 Ag」の試験では、国内の131検体を用いたRT-PCR 法との比較では、陽性一致率が53%(55/103)、陰性一致率が96%(27/28)とされています。また、発症後2日目以降9日目以内かつ初回採取された検体についての陽性一致率については、RNA1,600コピー/テスト以上の検体に対し96%(24/25)、400コピー/テスト以上の検体に対して92%(24/26)であったとされています [7]

いずれにしても結果の触れ幅が大きく、評価がむずかしいですが、少なくともRT-PCRに比べてかなり感度が低く、ウイルス量が少ない検体では適用がむずかしいということは言えるでしょう。またメーカーの違いによる精度の差は、少なくとも富士レビオとデンカの間では、小さいように思われます。

4-2. 海外での評価

迅速抗原検査の精度は、海外の研究チームの論文でも報告されています。香港の研究チームは、鼻咽頭ぬぐい液を検体として迅速抗原検査キットBIOCREDIT COVID-19 Ag(BioVendor)の精度をRT-PCRと比較しました [8]。その結果、迅速抗原検査の分析感度はRT-PCRの10万倍鈍く診断上の感度は11.1–45.7%となりました。結論として、迅速抗原検査は単独で診断には推奨しないとしています。

ベルギーの研究チームは同様にBIOCREDIT COVID-19 Agを使って性能を評価しました [9]。その結果、RT-PCRと比べた診断上の感度は30.2%となり、やはり単独での使用は推奨しないとしています。ウイルスが高濃度に存在する場合にのみ有効という、香港のチームと同じ見解を示しています。

これらの海外の研究結果と比べると、国内のキットは査読前論文の結果 [10] も含めて同等かやや高い感度を示しているように見えます。しかし、これらはあくまでも予備的試験の結果という性格が強く、今後多くの検体での検証が必要でしょう。

PCR検査はリファインされた技法なのでキットによって精度に大きな違いはないと思われます。一方、ラテラル・フロー・イムノアッセイ(Lateral Flow Immunoassay)を利用している抗原検査キットは、国内外のメーカーによって多少なりとも精度に違いがあることが考えられます。それを考慮したとしても、現時点での迅速抗原検査の使用は、ウイルスのコピー数が高い検体に限られるというところではないでしょうか。

米国CDCは、簡易抗原検査についてもっと高い感度(>80%)とPCR並みの特異度(100%)を記しているようですが、これについては日をあらためてまた述べます。

4-3. 唾液検体での感度

厚労省ガイドラインで迅速抗原検査の検体を鼻咽頭ぬぐい液に限定しているのは、唾液検体ではPCR検査との陽性一致率が低いという結果 [10] があるためと思われます。唾液についての研究結果は日本の研究チームによる報告があります [11]表1、図6)。

表1. 唾液検体を対象とした場合の、種々のRT-PCR検査、自動検査、および簡易抗原検査の成績(文献[11]からの転載)

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表1に示すように、発症から9日目までのサンプルについて簡易抗原検査はRT-PCRに比べて半分から1/3以下の感度しかないことが示されています。また図6右に示すように、簡易抗原検査は陽性となる検体は、Cobas(自動検査)のRT-PCRでCt値=25前後のRNAコピー数を含むものであり、それ以上のCt値になると陰性になることが示されています。

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図6. 検出感度に関するLAMPとCobasとの関係(A)およびCobasと簡易抗原検査との関係(文献[11]からの転載).

結論として、この論文では、簡易抗原検査は唾液の検体には推奨しないとしています。この結果が根拠になって、厚生省のガイドラインでは、簡易抗原検査の適用は鼻咽頭ぬぐい液に限定するとなったものと考えられます。

5. 抗原検査拡充での不可解

厚生省のガイドラインや日本感染症学会の方針を見ていると、COVID-19対策として簡易抗原検査にずいぶんシフトしているような印象を受けます。この検査のメリットは何と言っても迅速性にあるわけですが、一方でPCR検査に比べて感度が落ちるということは厳然たる事実であり、その分誤判定や誤診断に繋がりやすいと考えらます。この問題はPCR検査の比ではないと思われます。にもかかわらず、簡易抗原検査の精度に関する批判は専門家からほとんど聞こえて来ないように思うのですが、どういうわけでしょうか。

これまでも散々このブログでも取りあげてきましたが、"感染症コミュニティ"の専門家を中心にPCR検査の感度70%、特異度99%に基づいた偽陰性偽陽性の発生の詭弁が展開されてきました(→コロナ禍で氾濫するPCR検査に関する詭弁)。これらの詭弁のベースにはPCR検査を医療行為としてのみ捉える思想があります。PCR検査の無症状者やスクリーニングへの適用を否定するために、このような詭弁が使われてきたと推察されます。

ところが感染症コミュニティを含めて、PCR検査の精度をあれほど問題にしてきた感染症の専門家や医師は、まったくと言っていいほど簡易抗原検査のそれについては口をつぐんだままです。なぜでしょう? 医療行為としてのみ使えば簡易抗原検査は問題ないというのでしょうか。

そうではないでしょう。なぜなら、上述したように、厚生省のガイドラインや日本感染症学会の検査方針に問題があるように思えるからです。つまり、「発症後2日目以降から9日目以内の者については、 陰性となった場合は追加のPCR検査等を必須とはしない」という方針は、偽陰性の発生を危険性を高めるものです。偽陰性を疑うことができればよいですが、陰性判定されたまま(実際は偽陰性)だと、院内感染にも繋がる恐れがあります。

そして簡易抗原検査については、非特異的反応(交差反応)による偽陽性についてほとんど検討されていないように思われます。たとえば季節性コロナウイルスに対しては非特異的反応は起こらないのか、十分に検討されていないように思われます。

山形県衛生研究所は4種の季節性コロナウイルス(風邪)の流行について興味深い研究報告をしています [12]図7に示すように、過去10年間におけるコロナウイルスの陽性者は2月をピークとして冬場に多く、9月を最低に夏場に減ることが示されています。

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図7. 過去10年間における4種の季節性コロナウイルスの陽性者数の周年変化(文献[12]からの転載図).

つまり、冬場はコロナウイルスによる風邪が多く、インフルエンザやCOVID-19とともに注意を払う必要があることを示すものです。

もし図4の診断方針において、コロナウイルスによる風邪が混じってきたらどうなるでしょう。偽陰性偽陽性が頻繁に発生し、大混乱になるのではないでしょうか。

おわりに

おそらく次の政権では、安倍総理の検査20万件体制方針が継承されるでしょう。下馬評で確率が高い菅政権となればなおさらです。PCR検査ではなく、簡易抗原検査の20万件拡充を進めようと言う政府の意図は、その利便性(迅速性)のメリットだけではないように思えます。

繰り返しますが、厚労省の簡易抗原検査ガイドラインでは、PCR検査を排除し、誤判定を生むような指針になっています。わざわざ富士レビオのエスプラインSARS-CoV-2がガイドラインに示されていることも気になるところです。

専門家からPCR検査よりはるかに低い簡易抗原検査の精度について、依然として声が上がらないことも不可解なことです。簡易抗原検査キットの導入については、これからの動きに注視する必要があるでしょう。

引用文献・記事

[1] 日本臨床検査医学会:  新型コロナウイルスに関するアドホック委員会. https://www.jslm.org/committees/COVID-19/index.html

[2] 三宅一徳: 臨床検査の偽陽性偽陰性について. 日本臨床検査学会 2020.04.27. https://www.jslm.org/committees/COVID-19/20200427.pdf

[3] 日本疫学会: 新型コロナウイルス感染予防対策についてのQ&A. https://jeaweb.jp/covid/qa/index.html

[4] Kucirka, L. M. et al.: Variation in false-negative rate of reverse transcriptase polymerase chain reaction–based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure. Annal. Int. Med. 2020. https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-1495

[5] 日本感染症学会: “今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて”の提言に際して. 2020.08.03. http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/2008_teigen_influenza_covid19.pdf

[6] 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部: SARS-CoV-2 抗原検出用キットの活用に関するガイドライン. 2020年5月13日(6月16日改訂).https://www.mhlw.go.jp/content/000640554.pdf

[7] 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部: 新たに薬事承認・保険収載された新型コロナウイルス感染症に係る抗原検査の取り扱いについて(周知). 2020.08.11. https://www.mhlw.go.jp/content/000658371.pdf

[8] Mak, G.C.K. et al.: Evaluation of rapid antigen test for detection of SARS-CoV-2 virus. J. Clin. Virol. 129, August 2020. 104500. https://doi.org/10.1016/j.jcv.2020.104500

[9] Scohy, A. et al.: Low performance of rapid antigen detection test as frontline testing for COVID-19 diagnosis. J. Clin. Virol. 129, August 2020, 104455. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1386653220301979#!

[10] Takeda, Y. et al.: SARS-CoV-2 qRT-PCR Ct value distribution in Japan and possible utility of rapid antigen testing kit. medRxiv Posted June 19, 2020. https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.06.16.20131243v1

[11] Nagura-Ikeda, M. et al.; Clinical evaluation of self-collected saliva by quantitative reverse transcription-PCR (RT-qPCR), direct RT-qPCR, reverse transcription–loop-mediated isothermal amplification, and a rapid antigen test to diagnose COVID-19. J. Clin. Microbiol. 58, e01438-20 (2020). https://jcm.asm.org/content/58/9/e01438-20.

[12] Komabayashi, K. et al.: Seasonality of human coronavirus OC43, NL63, HKU1, and 229E infection in Yamagata, Japan, 2010–2019. Jpn. J. Infect. Dis. Published online Aug. 1, 2020. https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.525

引用拙著ブログ記事

2020年8月26日 コロナ禍で氾濫するPCR検査に関する詭弁

2020年8月19日 PCR検査の偽陰性率を推定したKucirka論文の見方

2020年6月1日 PCR検査の精度と意義

                

カテゴリー:感染症とCOVID-19