Dr. Tairaのブログ

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公園の中のエノキ

 
私は近隣公園以上の規模の公園を訪れるとまずエノキの姿を探します。理由はいくつかありますが、エノキの保全の仕方でその公園の管理者の意識を探ることができるからです。エノキは日本を含めた東アジアの代表木であり、日本古来一里塚として使われてきた経緯もあるなど歴史的に日本人にとってきわめて馴染みの深いものです。
 
エノキは食用にもなる甘い小さな実をつけますがこれは鳥が大好きです。エノキがあるところにはさまざまな鳥が集まります。またエノキは自ずと知れたオオムラサキゴマダラチョウ、ヒオドシチョウ、テングチョウなどの在来昆虫種の食草であり、老木ではタマムシが集まります。
 
また、このブログでも再三再四紹介していますが、エノキの根元の落ち葉の下はさまざまなクモ類やカメムシなどの昆虫の越冬の場所でもあります。その意味でエノキは日本における生物多様性を形成する基本となる木の一つです。
 
東京都区内の総合公園や近隣公園はエノキが割と豊富に見られます。昨日訪れた公園でもエノキが数え切れないくらいありました(写真1)。半分以上は根元に落ち葉が残っていませんでしたが、それでもゴマダラチョウの幼虫探索をとても1日では終えることができないくらいの数の大木がありました。

イメージ 1
写真1
 
ただ、少し残念だと思ったのでは長年下枝の剪定が進められてきたためと思いますが、ヒョロヒョロと上に伸びたような枝ぶりのエノキが多かったことです(写真2)。遠くから見るとちょっとエノキとは思えないような樹形です。
 
イメージ 2
写真2
 
三角測量で樹高を調べてみたら20 m以上の木が多く、最下部の枝の位置は10 mを越えるものがけっこうありました。本来エノキはくねくねと横に枝が張っていく特徴を持ち、その特徴に沿って夏になればゴマダラチョウなどの幼虫が葉上に水平にとどまっています。しかし、この園内のエノキはそれとは対照的な枝ぶりであり、エノキの個性をも殺しているという感じです。
 
枝打ちされたエノキではますます鉛筆のように垂直に伸びていき、先っぽだけに葉がついているという状態になります。全体の葉の量が減ると光合成の量も減り、実のつき方も悪くなります。木の上部だけに葉がついている状態では落葉する量も減り、落ち葉は遠くに拡散しやすくなり、根元に落ち葉が溜まりにくくなります
 
根元に落ち葉が少ない状況は、落ち葉にくっついて過ごすゴマダラチョウの越冬幼虫にとっては過酷です。落ち葉下の位置どりの選択が狭められ、気温の変化を余計に受けやすくなり、自然風などによる拡散の脅威も増大します。さらに下枝の位置が高くなると春や秋に幹を上り下りするゴマダラチョウにとっても余計に体力を使うことになり、幼虫の生存率も悪くなってしまうでしょう。
 
エノキに頼って生きている鳥や昆虫にとっては、まことに利用しにくい形に公園管理者が変えてきたということになるでしょう。そう思いながら歩いていると最近切られたと思われる下枝の跡があちこちに見られました(写真3)。高さは2.5-3 mくらいの位置にあり、人の通行の邪魔になる高さとは思えませんがなぜ切ったのでしょう。
 
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写真3
 
エノキの枝は横に広がる性質があるので樹間を保つための枝の剪定だと思われますが、むしろその性質を生かすなら木々の間伐で対応すべきだったと思います。木の樹形は不可逆であり、一度切ったものは戻りません。今となっては時すでに遅しですが。
 
樹木をすべてケヤキのようなホウキ状の形にしてしまい、個性を無くしてしまう管理下の公園は見ていてもつまらないものであり、もとより生物多様性を失わせるものです。
 
樹木の生態的意義を考慮せずその存在だけを維持していればよい、それを業者任せにするという安易な考えが管理者にあるのではないでしょうか。