Dr. Tairaのブログ

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ゴマダラチョウ越冬幼虫の個性

 先日、学生から「エノキの大木の根元からアカボシゴマダラ越冬幼虫を見つけた」と連絡が来ました。おお、それは貴重な情報だと思い、画像を送ってもらいました。しかしそれらをよく見たら、確かにアカボシによく似ていますがすべてゴマダラチョウでした。
 
再同定の結果を学生にメール送信した後、あらためてインターネット上にある Hestina 属幼虫の画像を調べてみたら、けっこう誤同定がありました。アカボシゴマダラをゴマダラチョウに見間違うことはあまりないですが、その逆はわりとあるとように思います。またオオムラサキは形態がはっきりしているので間違われることはあまりないでしょう。
 
これらの3種の越冬幼虫の見分け方については前のページでも紹介しましたが↓、ここで再度ゴマダラチョウを中心に特徴と形態の多様性について紹介したいと思います。
 
 
ここで紹介する画像は私の保蔵写真のごく一部ですが、それでも個体ごとに個性があることがわかります。
 
まず、最初は背中に並ぶ突起がきれいに3列そろった典型的な個体で、頭部突起を除いた体長は約16–17 mmです(写真1)。このようにずんぐりと太った印象を与えるのが特徴です。これらはすぐにゴマダラチョウとわかりますが、このような典型的形態の個体が多いというわけでもありません。
 
イメージ 4
写真1
 
写真2左は突起が3つですが、その間の4列の丸い小さな「イボ」が見えている個体です。写真2右はそれらのイボがやや黒ずんでいます。これもよく見られる特徴です。

イメージ 5
写真2
 
写真3左は4列のイボがはっきり黒点になっている個体です。写真3右は左の個体に比べて2番目の突起がやや出ています。
 
イメージ 6
写真3

3列の突起の間のイボがよりはっきり出ていて黒色化しているのが写真4の個体です。右の個体は1列目のイボが突起化しています。

イメージ 1
写真4
 
よくアカボシゴマダラと見間違われるのが写真5のような個体です。背中の突起が4列になっています。このような場合は尾状突起が開いているか閉じているかが判断の一つになりますが、画像を撮って拡大して見ないとはっきりわからないというのが正直なところです。
 
イメージ 2
写真5
 
ゴマダラチョウの越冬幼虫は一般に灰色から紫色(あるいは褐色)がかかった灰色をしていますが、中にはアカボシゴマダラのようにモスグリーンやダークグレーに近い色のものもいます。
 
写真6左はモスグリーンに近い色の個体です。写真6右は、一枚の落ち葉に典型的な紫色がかった灰色の個体とモスグリーンに近い個体が並んで出てきたものを撮った画像です。
 
イメージ 3
写真6
 
ゴマダラチョウの越冬幼虫は一般にずんぐりとした体型でスマートなアカボシゴマダラと見分けがつきますが、中には細い体型のものもいます。
 
写真7左がそのような個体で、アカボシゴマダラに近い体型です。写真7右は突起が4列のダークグレーの個体で、出て来たときは一瞬何の幼虫か判断を迷いました。

イメージ 7
写真7
 
最も紛らわしいのでが写真8のような個体です。写真8左ゴマダラチョウですが、同定のよりどころとなる「尾部突起が開く」という特徴が見られません。完全に閉じています。このような尾の突起が閉じているゴマダラチョウは稀に見られます。
 
写真8右は、アカボシゴマダラの非典型的越冬型幼虫です。本来背中に4列あるべき対突起が3列しかありません。体型、色、閉じた尾状突起、現場の状況からアカボシと判断できますが、紛らわしいです。
 
イメージ 8
写真8
 
写真9は以前にも紹介した幹上のアカボシゴマダラ越冬型幼虫ですが、左が典型的幼虫で右が非典型的個体です。右の個体はずんぐりとしたゴマダラチョウ類似の体型とともに、尾状突起が開いているという特徴が見られます。
 
成虫の産卵からの経過観察なのでアカボシゴマダラと判断できますが、これを単独で見たらゴマダラチョウと思うかもしれません。ちなみに、このエノキ上には見つけただけでも18頭のアカボシの幼虫がいましたが、現在は幹上からすっかり姿を消しました。
 
イメージ 9
写真9
 
以上、ゴマダラチョウおよびアカボシゴマダラの越冬型幼虫の形態的多様性と非典型的個体を紹介しました。観察を重ね目が慣れてくれば非典型的幼虫でもすぐに同定ができますが、そうでなければ判断がむずかしい場合もあり、ときには誤同定してしまうこともあるかもしれません。