Dr. Tairaのブログ

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辺野古の海を考える

12月14日、名護市辺野古大浦湾における米軍普天間飛行場移設の埋め立て工事の一環として、海への土砂投入が始まりました。昨日は各局このニュースを伝えていました(図1)。

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図1. 辺野古における米軍基地移設のための埋め立て(土砂投入)の開始(2018.12.14. NHKニュース)
 
政府が米軍普天間飛行場の移設のために埋め立てようとしている大浦湾は、名護市の東部にあたります(図2)。埋め立て予定の海域は約160ヘクタールにも及びます(図1挿入図)。私は大浦湾には行ったことはありませんが、近くには沖縄工業高等専門学校があり、そこを訪問した際にキャンプシュワブの南側にあるシーグラスビーチに行ったことがあります。周辺はとてもきれいな海でした。
 
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図2. 沖縄における名護市辺野古と埋め立て現場の位置(沖縄県HP[1]より改変)
 
辺野古沿岸部はこれまで大規模な開発もなく、風光明媚な自然が残されています。大浦湾には多種多様な生物が生息していることが知られており、それには貴重なサンゴや国の天然記念物であるジュゴンなどの絶滅危惧種をも含まれます。
 
今回の土砂の投入によって、当然豊かな自然環境が失われ、生態系に大きな影響を及ぼすことが考えられます。毎日新聞は埋め立て工事によるこのような生態系への影響を記事にしていました [2]
 
防衛省の調査によると、現場海域では5806種の生物が確認され、うち262種が絶滅危惧種だったそうです。また沖縄県によると、生物の種類は世界自然遺産に登録された屋久島(鹿児島県、約4600種)や小笠原諸島(東京都、約4400種)よりも多いとされています。まさしく自然の宝庫です。
 
とくに、米軍キャンプ・シュワブ南側の海域は水深の浅いリーフ(サンゴ礁で、沖縄本島周辺で最大規模の藻場が広がっていることは特筆に値します。
 
藻場は多くの水生生物の生活を支える重要な生態的役割を果たしている水環境です [3]。産卵や幼稚仔魚に成育の場を提供したり、水中の有機物を分解するなど海水の浄化にも大きな役割を演じています。大浦湾の藻場においては、ジュゴンやウミガメの貴重な餌場となるほか、海草の間に多種多様の生物の生活の場を提供していると考えられています。
 
防衛省は埋め立て予定海域内にある希少なサンゴを他の地域に移植する計画だそうですが、まったく意味がありません。サンゴを含めてすべての生物はその生息環境で物質循環や相互作用などで一体化した存在であるので、一部の生物だけを移動させても意味はないのです。
 
すでに辺野古のこれまでの護岸工事で相当な生態環境への負荷がかかっていると考えられますが、さらなる土砂の投入と埋め立ては、永久に元に戻せない大規模な生態的破壊をもたらすことは容易に想像できます。大浦湾の海と生態系は一変してしまうでしょう。沖縄の人々、そして日本国民にとって、重要な生活の場と生態系サービスの恩恵、そして貴重な観光資源を失うことになるのです
 
すでに4年前、日本の学術団体19学会は合同で大浦湾の環境保全を求める要望書を政府宛に提出しています [4]
 
辺野古への米軍基地の移設によって、普天間基地の問題解消を図るという日本政府の弁ですが、何のことはない、辺野古の海を破壊するという不可逆的な新たな問題を発生させてしまうということなのです。
 
もとより、米軍の海兵隊のグアム移転と再編という米軍側の都合で始まった問題のはずです(基本は米国が日本に経費負担を求め、日本がそれにどう応えるか)。ところが、あたかも日本政府がお願いして普天間基地返還の代わりに辺野古に基地を移設して問題解決するという風に話がすり替えられ、問題が矮小化されてしまっています。
 
海兵隊の再編の話の段階で、日本は米国側といくらでも話し合う機会はあったはずであり、辺野古移設が唯一の解決手段でもなかったはずです。とにかく、政府の米国追従の姿勢と外交力のなさは情けないの一言です。
 
 
参考文献
 
 
[2] 遠藤孝康、宮城裕也: 辺野古・大浦湾5806種の生物確認 うち262種が絶滅危惧種. 毎日新聞 2018.12.14. https://mainichi.jp/articles/20181214/k00/00m/040/084000c
 
 
[4] 日本魚類学会自然保護委員会:著しく高い生物多様性を擁する沖縄県大浦湾の環境保全を求める19学会合同要望書. 2014.11.11. http://www.fish-isj.jp/iin/nature/teian/141111.html
 
                  
カテゴリー:社会・時事問題