Dr. Tairaのブログ

生命と環境、微生物、科学と教育、生活科学、時事ネタなどに関する記事紹介

はじめに


はじめに

私は幼い頃から生き物が好きで、野や山に出かけては植物や虫を眺めたり、時には採集して標本を作ったりしていました。また、つくしや季節ものの山菜、木の実、キノコ、ドジョウやフナなどの川魚などを採って食するのが楽しみであり、それが日常の生活の中に自然とありました。そのような中で、小学、中学と学年が進行するにつれてだんだんと不思議に思うようになったことがあります。それは、人間とほかの生物との間にある、あまりにも大きな違いについてです。

ヒトは主食として炭水化物を摂り、その消化分解物としてのブドウ糖を細胞内に送り込み、さらにその分解物であるピルビン酸を細胞内のミトコンドリア代謝することにより、発生したプロトンと電子を最終的に体外から取り込んだ酸素に渡して水を発生させます。この過程で化学エネルギーをATPという形で蓄えます。これが酸素呼吸です。これは細菌から植物、動物、ヒトに至るまで共通にみられる基本的な生物反応です。

もちろん、遺伝情報としてDNAをもち、その設計図をRNAに写し取り、タンパク質を合成し、細胞や体を作っていくところもヒトを含めたすべての生物に共通する基本メカニズムです。

にもかかわらず、人間はとても生物とは思えないほど様々な知的な仕事をします。子供の頃、街の中に新しいビルが建って行く姿に驚嘆し、道路工事があるとそこに出かけて1日中飽きもせず眺めながら、舗装されて行くプロセスに感動を覚えたことを思い出します。どこまでも連れて行ってくれるSL汽車にあこがれ、汽車旅行の時は、いまから考えれば愚かなのですが、トンネル内で窓から顔を出し、黒く付くススを楽しんだりしていました。道具を使う生物は自然界にもたくさんいますが、このような知的な技術を使い、生産をするのは人間だけです。

一方で、技術の進歩に感心しながらも、人間社会にある貧困の差やさまざまな差別というものも感じるようになりました。身近な昆虫や植物の世界では、格差などなく、すべての個体が平等に生活しているように見えますが、人間社会ではなぜこんなにも格差が生まれるのか? それを一段と強く感じるきっかけになったのが、高校での地理の授業でした。地理の授業ではありますが、その時の担当の先生は、マルクス・エンゲルス資本論第二次世界大戦から中国共産党の成立の歴史、東京裁判、物流と地政学の関係などについて、詳しく話してくれました。資本論の授業では格差が生じる理由について紹介され、なるほどと納得したことを思い出します。

大学に入学した頃は、折しも70年安保闘争の頃であり、学生運動の真っ只中にありました。周囲の学生仲間の多くが資本論を読んでいたので、私も購入し、あらためて自分の目で確かめようとしました。本の中身は膨大であり、難解な翻訳の文章や専門用語がたくさん出てきて、実際読んでみても、あまり理解できなかったと記憶しています。全巻を読み終える前に学生運動は終焉を迎えていました。

社会に出てからは、いわゆる非正規雇用の仕事を通じて、資本主義経済の仕組みや将来性に強く興味を持つようになると同時に、社会に横たわる矛盾もより現実的に感じるようになりました。一方で、その後、大学院で生物学を専攻し、微生物や環境の研究を行う過程で、今まで漠然としていた生物としてヒトの特性や、それを基盤にする社会の成り立ちがより理解できるような気がしてきました。地球にあまねく存在する微生物が支える生態系の現象が、人間社会にも投影できるような気がしてきました。

私の専門は生物、環境、食農科学、バイオテクノロジー、技術経営に関わる分野であり、経済学、社会学、心理学、脳科学などについてはまったくの素人です。しかし、企業での商品開発、営業、それにベンチャービジネスに関わってきた経験や、大学の教育研究という異なる職場での仕事を通じて、様々なことを学ぶ機会を得たことは貴重な財産であり、多方面から物事を見る重要性に気づかされたと思います。

表題「第6の大量絶滅ー脳の進化が人類を滅ぼす」のブログの執筆構想に至ったきっかけは、2002年に仙台を訪れた際に、偶然ツマグロヒョウモンを発見したことによります。ツマグロヒョウモンは比較的南方系の蝶であり、日本では沖縄、九州、四国、本州西部を中心に分布します。若い頃住んでいた九州では、ごく普通に見ることができたツマグロヒョウモンですが、当時、東京周辺ではまったく目撃することはありませんでした。当然ながら東北でこの蝶を見た時は、まったく予想もしないことで驚きました。地球温暖化の進行を身近に感じた瞬間でした。

当時は大学で学生といっしょに、温室効果ガスの一種である亜酸化窒素の発生抑制技術の開発研究を行なっていた時期でもありました。自分自身でも感じる気候変動と地球温暖化、それに生物多様性の減少という現象が、すでに専門家の間ですでに呟かれていた生物の大絶滅が進行中であるということと繋がりました。

2014年にはエリザベス・コルバートの「6度目の大絶滅」が出版され、私が抱いていた危機感が、世界的に共有されていることをさらに感じました。同時に、この本を読んだ後に、違った視点で大量絶滅を捉えてみようと考えたわけです。

本ブログでは、人類が招いている地球環境破壊や気候変動などの危機的状況を、一般の生物とは性質を異にするヒトの特性から、もっと奥深く考察することを試みていきます。地球上で生命が誕生し、過去数度の大量絶滅を経験しながら生物が進化し、現在の生物圏の形成に至っています。その地球史を振り返りながら、他の生物と一線を画する人間の特質を考え、それがもたらしている問題について考察していきます。

人間の最も特徴的なことは、進化した脳を持つことです。本能的な行動に加えて欲望と叡智を有し、その二つにまたがる強い好奇心を持っています。脳の進化とともに、生物としてエネルギーを獲得するという手段を物々交換に変え、さらに貨幣という商品で置き換え、現在の資本主義社会に至っています。そして資本主義はいま崩壊の危機を迎えているのではないかと思えます。

本ブログは、専門用語も含めて分野外の人にはむずかしいと思われる内容も含みますが、できる限り平易な解説・記述を行なっていきます。読者の理解を助けるために、重要な事実に関しては最低限の原著論文等の引用を行なっていきます。