Dr. Tairaのブログ

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世論調査に見る男女・世代間のギャップ-1


はじめに

先日インターネットを見ていたら、毎日新聞長谷川眞理子総合研究大学院大学長のエッセイが掲載されていました [1]。要約すると、最近の若者がリスク回避の傾向にあり、そのことによって自由な発想を生むことがなく、自分の人生の選択肢も狭めているのではないかということです。翻って、若者を育てるには自由な発想を許し、後押しする社会でなければならないのに、果たしてそういう社会を作ってきたのだろうか、という問題点も指摘されていました。

私は前の記事「学生の気質と世論調査」(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/folder/580217.htmlの中で、最近のとくに男子学生の気質の変化、すなわち好奇心の低下内向きの思考の傾向を述べましたが、長谷川先生の記事と部分的に重なる部分があるように思いました。

先日、大学生たちとランチをともにし、就職などについて話を聞く機会がありました。昨今、有効求人倍率の高さに見られる好調な就職状況については学生も関心があるようでしたが、それを一元的に政府の政策の効果による好景気のためとしていることに、昨今の若者の傾向を見たように思います。彼らに対して私は、有効求職者の減少と団塊の世代の大量退職に伴う人手不足が、好調な就職状況の一因かもと述べてみたのですが、反応は今ひとつでした。

彼らを見ていると、ホモ・ソーシャルの中で目先の狭い範囲のネット情報のみを信じて生きる若者の姿に映ります。自分を肯定できる情報の中で生きていますので、現状の政治・社会システムに対しても肯定的な立場をとりがちです。彼らに支持政党についてとくに訊くことはしませんでしたが、男子学生の大部分は与党支持、女子学生は無党派という感じでした。

そこで、若者の現在の考え方を客観的に見るために、今一度、世論調査における若者の傾向を定量的に把握することを試み、学生の気質の変化との関連性を考えてみることにしました。

1. データと分析方法

1-1. データ
前回と同様に、朝日新聞の定例RDD世論調査 [2] から2018年4月14日、15日分のデータをダウンロードし、分析に用いました。朝日の調査データを選択した理由は、探した範囲では、ここにしか男女別および年齢別の詳細データがなかったことです。比較のために、現時点で最も新しいJNN世論調査 [3] を用いました。また、内閣支持率について他のメディアの調査データも比較しました。

1-2. 分析方法
選挙権がある男女別、年齢層別の12区分で得られている政党支持率および内閣支持率に関する百分率データに基づいて、すべての2者間非類似度(dissimilarity index, D value)を求めました。非類似度はデータ間の違いを表すパラメータで、0–100の間で変化します[4] 。数値が大きいほど違いの程度が大きいことになります。次に、12区分すべての2者間の非類似度マトリックスデータを作成し、統計ソフトXLSTATを用いて多次元尺度法(multidimensional scaling, MDS)による12区分の二次元平面分布図を作成しました。

2. 分析結果

まず、使用した朝日新聞のデータに偏向性があるかどうかをチェックするために、政党支持率について最新のJNN世論調査(2018年5月12, 13日)におけるデータと比較してみました。両世論調査のデータは類似しており、相関係数はR2=0.98でした。したがって、政党支持率についてはおおむね信頼性のあるデータとして扱うことにしました。

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図2に、朝日の世論調査(4月14、15日)における男女・年齢層別12区分の政党支持率のデータを示します。政党支持においては、ほとんどすべての層で自民党支持率が最も高いですが、支持政党なしとするいわゆる無党派層が女性のとくに若年層で最も多いのも特徴として挙げられます。

そのほか、男女別、年齢層別のある程度の傾向を見ることができます。たとえば、男性29歳以下の層の自民党支持の高さと支持政党なしの低さの傾向が、とくに同じ年齢層の女性と比べて違いとして目立ちます。また、男性全体では女性全体と比べて自民党支持率が高くなっています。

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図2. 朝日新聞世論調査における男女別、年齢層別の政党支持率 (%)

図2のデータに基づいて2者間の非類似度を求め、非類似度マトリクスデータとしてまとめたのが図3です。図中、右上は非類似度の数値データ、左下は数値データに基づくヒートマップ(色分け)を示します。ヒートマップでは色が濃いほど類似性があり、薄いほど類似性がないことを示します。

ここで目立つのはやはり若年層(29歳以下)の突出した傾向です。とくに男性若年層(≤29歳)では、全体の世代との類似性が低く(白〜薄い灰色が多い)、とくに女性全般とは高い相違性が見られました。あえて言えば、この層で比較的類似性があるのは男性30-39歳層と70歳以上の高齢層です。また、男性若年層と類似性が低い女性若年層(≤29歳)においても男性の区分に対する類似性は全般的に低い傾向がありました

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図3. 政党支持率に基づく男女別年齢層間の非類似度マトリクスデータ(右上が数値データ、左下が数値データに基づくヒートマップ)

図3の非類似度マトリクスデータに基づいてMDS分析したのが図4です。縦横の線が交わる中心点から離れるほど、全体の平均から類似性が低くなることを示し、また似ているものほど二次元平面上で隣接します。

図4に示すように、D=約20%レベルで三つのクラスターが見られました。一つ目は女性のクラスタ(70歳以上の高齢者を除く、ピンクの楕円)、二つ目は中年男性層(30–69歳)のクラスタ薄青の楕円)、三つ目は男女高齢者(≥70)のクラスタ薄紫の楕円)です。この中で男性60-69歳層は女性のクラスターと中年男性のクラスターの中間の位置にあり、どちらに所属してもよい感じです。また女性の若い層(≤39歳)は女性クラスターの中でも比較的離れた位置にあります。

際立っていたのが、若年男性層(≤29歳)です。上記の三つのクラスターのいずれにも属さない離れた位置にあることから、政党支持について日本のマジョリティーとは異なる独自の思考的属性があることがわかります。

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図4. 政党支持率に関する非類似度マトリクリスデータの多次元尺度分析図(男性は青丸、女性は赤丸で示す)

各層における支持政党の傾向から、このMDS分析図(図4)では、上の方に行くほど無党派・野党支持の傾向、下に行くほど与党自民党の支持が高いという傾向になります。

安倍内閣支持率については各メディアで若干傾向が異なります(図5)。JNNのように無回答が1.7%と少ないところでは、「どちらかと言えば内閣を支持しますか、支持しませんか」というような誘導的問いをしていますので、その積算で支持・不支持とも数字が上がっている場合もあります。しかし、内閣支持に対して不支持が上回る傾向は全般的に類似しています。

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図5. 各メディアの世論調査における安倍内閣支持率 (%)

上記のように各メディアで若干の相違はありますが、朝日の政党支持率に加えて内閣支持率のデータも加えてMDS分析してみました。

図6に示すように、中心点を囲むように上記の3つのクラスターが見られましたが、このうちの1つの女性層が、男性60-69歳層といっしょに集団を形成する(ピンク色楕円)と同時に、女性若年層(≤39歳)薄青楕円がこれから大きく外れました。2つ目の中年男性層(薄緑楕円からは60-69歳層と30-39歳層が外れました。3つ目の男女高齢者層はそのままクラスターを形成しました。男性若年層(≤29歳)は、図4以上に、いずれのクラスターとも大きく離れたところに位置しました(横軸–30の付近)。結果として、6つのクラスタに分かれることになりました。

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図6. 男女・各年齢層の政党支持率内閣支持率に関する非類似度マトリクリスデータの多次元尺度分析図(男性は青丸、女性は赤丸で示す)

図6では、それぞれのクラスターの特性から左側に行くほど自民党支持内閣支持率が高く、右に行くほど野党支持と内閣不支持率が高く、右下に行くほど無党派・無関心の傾向が強いということになります。

図6で得られた6つクラスターについて、内閣支持率の特性を見てみました。図7に示すように、女性若年層(≤39歳)、女性中年層(+男性60-69歳層)、男女高齢層では25-26%の内閣支持率しかありませんでしたが、男性中年層(40-59歳)が38%、男性30-39歳層が51%、男性若年層が61%と順に高くなりました。

すなわち、女性若年層(≤39歳)、女性中年層(+男性60-69歳層)、男女高齢層を合わせた日本人口の70%以上を占めるマジョリティー世代で見ると、内閣支持率は30%を切る危険水域に入っているのですが、男性のとくに若い世代(39歳以下)が現政権を下支えしている傾向が見えてきます。

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図6. 6つのクラスターに見る安倍内閣支持率 (%) の特性

3. 考察

今回の分析は、朝日新聞の1回分(2018年4月)の世論調査に基づくものですが、男女間、世代間で大きなギャップがあるとみなすことができそうです。女性と男性では内閣支持率政党支持率に違いがあり、男女の若年層とその他の世代との間でも相違性が見られました。

とくに若年男性層の傾向は、国民全体の平均的傾向からは大きく外れていることがわかります。この層は自民党支持内閣支持率が高く、女性若年層(≤39歳)、女性中年層(+男性60-69歳層)、男女高齢層のマジョリティー世代とは大きく異なります。

最近、「安倍政権の支持率が下がらない理由とその背景」という記事 [5] が出ていましたが、よく見れば男女・世代間の差があって、上記のマジョリティー世代ではすでに30%を割り込んでいることがわかります。全体としての世論調査結果が出ると、このような男女・世代間の差が隠されてしまい、実態が見えにくくなっている可能性があります。

年齢層だけではなく、男女間でも差があるとすると、いま社会で騒がれているセクハラ問題でも男女間で捉え方が大きく異なる可能性があります。つまり今の女性の思考性に鈍感な男性の考え方や態度が、状況の改善を遅らせている一因になっているかもしれません。

問題なのは、MDS分析でわかるように、若年男性層(≤29歳)に対して最も離れた距離にあるのが同世代の女性であることです。また、若年男性層は他の年齢層の女性とも遠い関係にあります。若年男性と女性間でこれだけ政治に対する価値観や思考性が違うと、共同で物事を進めることに色々と障害になるのではと心配になります。たとえば、パートナーの選択や結婚を考えた場合、男女で性格が異なることはそれほど問題にはならないと思いますが、政治的、思考的価値観の違いは大きく阻害的に働く可能性があります。

男性の若年世代が平均的傾向より大きく外れている原因はわかりませんが、先に述べた昨今のリスク回避、内向きの思考性などの傾向と関係があるかもしれません。スマートフォンSNS、ゲーム時代になってそれに拍車がかかっている気がします。

SNSでは、同じ価値観や類似の環境の者同士がフォローしあったり「友だち」になってつながることが多く、逆に多様な興味や意見を示すとフォロワーが増えない仕組みになっています。このような状況下のSNS内では、フォロワー同士の似た意見や同調だけが繰り返し入って来るようになります。そして、それがあたかも真実であり、正しいことだと錯覚してしまう、いわゆるエコーチェンバー効果を生む原因になっています。

日本の若年男性が、情報社会やSNS環境あるいはゲーム世界の選択圧を受けやすいという証拠はありませんが、そう思いたくなるような昨今の傾向です。

まとめ

●男女間で支持政党、無党派、内閣支持の傾向が異なる
●支持政党および内閣支持の傾向において以下の6クラスターに類別化される
・女性層(70歳以上を除く)+男性60-69歳層
・女性若年層(39歳以下)
・男女高齢者群(70歳以上)
・男性中年層(40–59歳)
・男性30–39歳層
・男性若年層(29歳以下)
●若年男性群はいずれのクラスターとも遠縁であり、独自の思考的属性がある
●若年男性群と若年女性層(≤29歳)は最も類似性がない。


参考文献

1. 毎日新聞:時代の風-リスク回避偏重の社会 若者の自由が育たない=長谷川眞理子総合研究大学院大学長 2018年5月13日. https://mainichi.jp/articles/20180513/ddm/002/070/066000c



4. Iwasaki, M. and Hiraishi, A.: A. new approach to numerical analyses of microbial quinone profiles in the environment.  Microbes Environ. 13: 67-76 (1998). https://www.jstage.jst.go.jp/article/microbes1996/13/2/13_2_67/_article

5. AERAdot: 政治学者・白井聡が語る〈安倍政権の支持率が下がらない理由とその背景〉2018年5月18日. https://dot.asahi.com/dot/2018051700072.html