Dr. Tairaのブログ

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世論調査は信頼できるか

毎月、各大手メディアによるRDD方式の世論調査が発表されます。それらの数字に基づいて、またメディア自身が内閣支持率や各政党支持率について「上がった」とか「下がった」とか論評します。
 
メディアによっては内閣支持率は10%近い開きが出ることもあり、SNS上ではしばしばデータが捏造だとか、偏向しているとか、操作されているとかのコメント出されます。しかしながら、世論調査のデータが捏造であるという証拠はこれまで一切出されていませんし、各社が「捏造していました」と白状でもしない限り、証明することもむずかしいでしょう。
 
私たちは世論調査の一次データをそのまま受け取って精査することしかできないわけで、とりあえずそれらを信用するしかありません。その意味で、対象となった回答者の男女比、年齢構成、職業などの属性などが公開されていることは、そのデータの信頼性の評価にとって重要です。そして各メディアから出されるデータを比較分析することでも、データの質を検証することもできます。
 
これまでブログ記事(たとえば、世論調査に見る男女・世代間のギャップ-1世論調査に見る男女・世代間のギャップ-2)で取り上げてきたように、一つの傾向として、男性は女性よりも常に内閣支持率自民党支持率が高いということが言えます。とくに、若年男性層において内閣支持率自民党支持率が高いことは、群を抜いています。
 
残念ながら、これらの詳細データが公開されている世論調査は、現在のところ朝日新聞を除いてありません。朝日新聞にできることが他のメディアになぜできないのか、不思議に思いますが、逆にそのことで、SNS上で述べられるような信頼性への低下に繋がっているのかもしれません。
 
朝日新聞は2018年8月分のRDD調査のデータを公表しました[1]。そこで、このデータにおける、男女比、年齢構成比を日本の人口統計と比較しながら、本世論調査の信頼性を検証することにします。
 
図1に、総務省統計局のデータ[2]に基づいてグラフ化した年齢別の人口を示します。図に見られるように、日本の年齢別人口は、戦後(昭和22-24年)の第一次ベビーブーム世代(67-69歳)昭和46-49年の第二次ベビーブーム世代(42-45歳)をトップとして、釣鐘状のなる構成比をなしています。60歳以上では女性が多く、若年世代では逆に男性が多いのも特徴です。全体の男女比で言えば、女性の方が1.1倍ほど多いです。
 
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図1. 日本における男女別・年齢別の人口(平成28年10月1日現在、文献[2]に基づいて作成)
 
この年齢別人口比に基づいて、おおよそ10年区分で示した人口比を図2左に、そして、朝日新聞世論調査における回答者の年齢構成比を図2右に示します。両者における年齢構成比は、きわめて類似しており、朝日新聞が、日本の年齢構成比に基づいて世論調査を行っていることがわかりました。
 
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図2. 図1に基づいて作成した年齢層別人口構成比(左)および朝日新聞RDD調査[1]における回答者の年齢層の比率
 
その結果得られている8月の世論調査における内閣支持率は、「支持する」が38%、「支持しない」が41%で、今年のこれまでの傾向と大きくは変わりません。また、男女別では、男性の43%、女性の34%が内閣を支持するとしており、男性の安倍内閣支持が10%程度高い傾向は従来通りです。
 
上記したように、朝日新聞の調査は、ほぼ忠実に日本の年齢別人口比に基づいて行われているようですが、もし、男女比を1:1にしたり、各年齢層をすべて均等として、このデータを補正したらたらどうなるでしょう。その結果を図3に示します。
 
図3に見られるように、男女比を1:1にすると内閣支持率が1%微増になり、39%となりました。さらに各年齢層の人数をすべて均等にして補正すると、さらに微増になり40%となりました。
 
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図3. 8月のRDD調査[1]における内閣支持率(上3つ)およびその調査において男女比、年齢構成比を変えた場合の内閣支持率(下2つ)
 
このように、回答者の男女比を同じにしたり、年齢層を均等にしたりして世論調査を行うことは一見まとものように思えますが、日本の実際の人口構成から見た場合は、バイアスがかかっており、それが微増とは言え、内閣支持率の上昇につながることがわかります。
 
世論調査において、男性層に偏って回答者を選択すれば、当然もっと内閣支持率は上がるでしょうし、女性に絞ればその逆になります。また、年齢層が偏れば大きく結果が違ってくることも考えられます。得られる結果は必ずしも捏造ではありませんが、意図的にこのような操作をすることは可能です。この意味で、朝日新聞以外のメディアは、世論調査の公表においては、回答者の属性に関する詳細データを付記すべきだと考えます。
 
今回、朝日新聞世論調査を例にして検証してみましたが、少なくとも当社の世論調査は人口の男女比や年齢構成比にしたがって、忠実にデータを再現していることがわかり、信頼性は高いと言えます。もっともその元になるデータで意図的な数字の操作があれば信頼性は基から崩れてしまいますが、それは知る由もありません。
 
各社とも世論調査の実際の仕事については下請けに出していると思われますが、その下請けの会社と当該メディアの関わりが非常に重要になります。発注元のチェック機能が働いていない場合には、現場の仕事の効率性を図ることなどにより、恣意的な操作や捏造が発生する危険性もあります。その意味で、各メディアは下請け会社との関わりについても公表する必要があると思います。
 
引用文献およびデータソース
 
[2] 総務省統計局:人口推計(平成28年10月1日現在)http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2016np/
             
カテゴリー:世論調査