Dr. Tairaのブログ

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晩秋のアカボシゴマダラの幼虫

 
アカボシゴマダラ Hestina assimilis は、国内では奄美大島と関東地方に生息するタテハチョウ科のチョウですが、関東に生息するものは中国からの人為的移入個体が広がったものと推察されています。そのため、今年から特定外来生物の指定を受けており、この理由として、同じエノキを食樹とするチョウの在来種、とくにゴマダラチョウ Hestina persimilis japonica との競合が考えられています。
 
果たしてアカボシゴマダラはゴマダラチョウなどの在来種の生息を脅かしているのか、もしそうだとすれば、前者が生息拡大を可能とする原因は何なのかを明らかにする必要があると思われますが、詳細についてはまだよくわかっていないようです。
 
昨日(11月4日)の自然観察会の折、行程中たくさんのエノキの幼木を目撃しました。そこで、自然観察会の後、あらためてエノキを食草とするゴマダラチョウアカボシゴマダラの越冬態勢に入る幼虫の探索・調査を行いました。また、今日も場所を変えて調査しました。
 
結論から言うと、調査したエノキの幼木の上はアカボシゴマダラのオンパレードで、ゴマダラチョウの幼虫は1頭も見つけることができませんでした。もっとも調査した場所の一つでは、この30年間ゴマダラチョウの成虫は1回しか見たことがなく、幼虫に至っては皆無です。
 
写真1は、探索したエノキの幼木の一つです。今回は、0.7 m以下の幼木は食痕がほとんどないので調査対象外としました。結果として、調査したエノキの樹高は0.85~3 mの範囲にありました。
 
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写真1
 
エノキの葉の食痕をたよりに幼虫を探しました。写真2では左上のアカボシゴマダラの幼虫がいます。保護色になっていて見つけるのに苦労しますが、一旦見つかると目が慣れて次々と見つかります。
 
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写真2

写真3は今日の探索の様子です。枝の先端の葉に食痕があり、すぐそばに幼虫がいます。
 
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写真3

食痕に加えて白い繊維状の台座も参考になります(写真4)。幼虫は白い繊維質のものを吐き出して体の下に敷き、自分の体を固定します。写真のものは、幼虫が去った痕跡と思われ、幼虫が見つからないエノキにも食痕ともにしばしば確認されました。

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写真4

見つかった幼虫は、大部分が頭部の突起が短くなった越冬型の4齢であり、突起を除いた体長は16–19 mmの範囲にありました。写真5は比較的大きい越冬型幼虫です。

ちなみに、ゴマダラチョウの幼虫はアカボシゴマダラに酷似しますが、背部の黄色い突起対が原則として3ヶ所しかないことで区別できます(アカボシは4ヶ所)。

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写真5(黒線=10 mm)

こちらは見つけた中で、比較的小さい越冬型4齢幼虫です(写真6)。

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写真6(黒線=10 mm)

ときどき、頭部を起こしたような幼虫も見つかります(写真7)。

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写真7

上記のものは緑色の越冬型幼虫ですが、少ないながらも褐色越冬型幼虫も見つかりました(写真8)。褐色型はすべて枯れた葉の上にいて保護色になっていました。

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写真8

中には枯葉に半分巻かれた状態で存在する褐色型がいました(写真9)。ちょっと枯葉がフラフラしていますが、ちゃんと糸で固定されているのでしょうか。それとも落葉する前に降りていくのでしょうか。

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写真9

こちらも数は少ないですが、赤いトゲトゲの角を有した非越冬型幼虫もいました(写真10)。体長は11-15 mmと小さく、3齢と思われます。これから大きくなり越冬型に変身するのでしょうか。

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写真10

さらに、これも数は少ないですが、エノキの幹の下に降りてとまっていた褐色越冬型幼虫がいました(写真11、12)。いずれも、枝が分かれる位置にへばりついていました。寒くなれば地上に降りて、枯葉の下に移動すると思われますが、暖冬であればこのまま冬を越すこともあるかもしれません。

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写真11

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写真12

今回の調査をまとめると以下のようになります。

●調査対象
調査日と場所:千葉県内2ヶ所の公園と周辺市街地(2018年11月4、5日)
調査したエノキの本数: 36本
樹高: 0.85-3 m(平均: 1.4 m)


これらの調査した中で、幼虫が発見された本数は15本でした。詳細は図1に示します。

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図1. 調査したエノキ幼木におけるアカボシゴマダラの幼虫の生息状況
 
15本のエノキに幼虫が見つかりましたが、幼虫の形態については図2のようになります。合計41頭が見つかり、77%が葉上にいる緑色越冬型4齢でした。残りは、褐色越冬型4齢、緑色非越冬型3齢、および幹に付着している褐色越冬型4齢です。
 
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図2. エノキ上に見つかった幼虫の形態(11月4–5日)
 
1本のエノキ上に見つかった頭数は1~7頭で、平均で2.6頭/本となりました。以前、多い時は、1本に10頭見つけたこともありますので、それから比べる少ない頭数だと言えます。
 
この理由の一つとしては、木の根元に移動した幼虫を見逃している可能性があります。今回調査したエノキの多くはツツジの植栽の中で成長してきた幼木であり、幹の下部が植栽に隠れているため、十分に調査できませんでした。
 
図3にエノキの樹高と葉上の幼虫がいた位置(高さ)との関係を示します。樹高が高くなると幼虫の位置も高くなる傾向が見られました。2 m以上の樹高のエノキでは、下枝が少なくなるため、自ずから葉の位置も高くなり、幼虫の生息位置も高くなると考えられます。平均すると、幼虫がいた位置は0.90 mとなりました。
 
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図3. エノキの樹高と幼虫がいた葉上位置(高さ)との関係

また、木の幹(根元)で発見した褐色型4齢は、数は少ないですが、28–153 cmの高さにあり、平均で64 cmでした。これは下枝の位置やどのくらい存在するかにもよると思います。
 
今回は調査したエノキにしても目撃した幼虫にしても数が限られているので、早計な結論は出せませんが、思った以上に、エノキの幼木さえあればいたるところにアカボシゴマダラが発生するということを確認しました。以前から、幼虫は幼木を好み、生息する葉上位置も低いということも言われていますが、今回の結果はそれを裏付けているように思います。
 
一方で、ゴマダラチョウは(私の経験から言えば)もう少し樹高があるエノキ(3-20 m、とくに大木)の1.5 m以上のところに幼虫が多く生息していることが多いように思います。アカボシゴマダラがゴマダラチョウの生息を脅かすという仮説に関しては、その証明にはより慎重かつ詳細な生態調査が必要と感じます。
 
一つ残念だったのは、調査した場所の一つが10月末に市による樹木剪定が行われ、多くのエノキの幼木が伐採中であったことです。個人的には、ツツジの上からエノキが伸びていてもいいと思うのですが、多くは根元からバッサリ切られていました。夏から経過観察していた株も含まれていたので、(致し方ないのですが)残念です。
 
このエノキの幼木の伐採には、また別に意味で問題があるように思います。これについてはまた機会をあらためて述べたいと思います。