Dr. Tairaのブログ

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旅するタネと秋の虫たち

今日は、自然観察指導員協議会の会員が講師として行う自然観察入門講座秋編「旅するタネと秋の虫たち」に参加してきました。入門講座ではありますが、タネに関してはあまり知識がないので勉強のつもりでの参加です(写真1)。
 
受講者数は20名弱で、年齢層は50–70歳といったところでしょうか。
 
イメージ 1
写真1
 
植物は動物とは違い、根を張ってしまうと動けないので、タネを拡散させることで自分の子孫を物理的に広げようとします。前半の講座ではこれを「旅するタネ」と称して、旅の戦略を8つのパターンに分けて解説していました。植物のタネの座学に続いて、後半では秋の昆虫についての講義がありました。
 
以下、主にタネを中心として取り上げたいと思います。
 
植物の「タネの旅」の8パターンですが、以下のようになります。

1) 風の利用
2) 動物の利用ーひっつきむし
3) 動物の利用ー食べさせて拡散
4) 動物の利用ーアリの利用
5) 水の利用
6) 自力
7) 時間を旅する
8) 二重に保険をかける

 
1)の「風の利用」では、タンポポに代表されるような羽毛状の毛で飛ぶもの、ハンノキのように翼で飛ぶもの、ランの仲間やナンバンギセルなどのように微小サイズで飛ぶものなどに分けられます。
 
講座では、さまざまな翼で飛ぶタイプのタネが実物(乾燥標本)とともに紹介されましたが、そのうちの1つとして、ネムノキがあります(写真2)。豆果は秋(10月)に熟し、大きさ5〜9mmの種子が10~15個入ります。樹上で乾燥すると鞘のまま風に飛ばされます。
 
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写真2
 
座学の後の午後の野外観察では、実際にネムノキにぶら下がる豆果を写真に収めました(写真3)。
 
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写真3
 
興味深かったのは、東南アジアや南アメリカになどに生息するウリ科のつる植物、アルソミトラ・マクロカルバ Alsomitra macrocarpa のタネの羽です(写真4)。世界最大のタネと言われ、その形状・飛行形態がグライダーやスティルス戦闘機のモデルになったと言われています
 
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写真4
 
翼で飛ぶさまざまなタネが、実際にその形状からどのように飛ぶのか、実際に折り紙を使って形状を真似て折り、飛行実験をしました(写真5)。
 
写真5左は、アルソミトラを真似て作られたプラスチックの翼で講座で紹介されまたものです。写真5右は、教則通りに私自身が折ったアルソミトラ(紫の折り紙)やその他の植物の羽のモデルで、実際に飛ばしてみたところ、うまく飛ばせることができました。
 
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写真5
 
2)の「動物の利用ーひっつきむし」は、私たちも経験するような衣服にいつのまにかくっつくようなタネのタイプです。フック型、トゲ型、ヘアピン型、粘着型があります。
 
これもさまざまな植物のタネが紹介されましたが、そのうちの1つがオオオナモミです(写真6)。表面にトゲがあり、それで動物の体にくっつき、運ばれます。
 
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写真6
 
写真7は、午後の野外観察で撮った野生のオオオナモミです。
 
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写真7
 
究極の「ひっつきむし」として、フック型のノゴマの仲間が紹介されました(写真8)。ツノゴマ科ツノゴマProboscidea被子植物であり、英語では、devil's claw(悪魔の爪 )やdevil's horn(悪魔の角)と呼ばれています。
 
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写真8

 
3) の「動物の利用ー食べさせて拡散」では、例としてエゴノキのタネが紹介されました。エゴノキの実には毒成分が含まれていますが、鳥類のヤマガラはこの毒をうまくよけながら食べ、タネを排泄します。
 
消化管を通して落とされたタネはそうでないものよりも発芽率がよいということでした。タネについている発芽を抑える物質が、消化管を通過することで除去されるためと説明されていました。
 
4) の「動物の利用ーアリの利用」では、エライオソーム(elaiosome)の話が出てきました。エライオソームは、スミレやカタクリなどの植物の種子にくっついている物質で、アリが好むような成分が含まれています。 エライオソームに誘引されたアリはタネを巣に持ち帰り、エライオソームのみを食べます。残されたタネは巣の近くに捨てられ、これによってタネは拡散されます。
 
5) の「水の利用」では、多くのタネが軽量で表面積が大きいなどの水に浮く構造をもっていることが紹介されていました。写真9は、実際にいろいろなタネを水に浮かべて実験をしているところです。

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写真9
 
6) の「自力」では、はじけて飛ばすカラスノエンドウや足元に落下してころげるドングリの仲間で、野外実験しました。
 
7) の「時間を旅する」では、大賀ハスの例が紹介されていました。大賀ハスは、縄文遺跡から発見されたタネが、2000年後の現代に発芽したことで知られているハスです。
 
8) の「二重に保険をかける」については、実際多くのタネが、上記した戦略の複合技でタネの拡散を行なっていることが述べられていました。

午後の野外観察では二班に分かれて、さまざまな植物のタネと昆虫の観察を行いました。その一部については前記したとおりです。私の班では、タネが専門の指導員の方でしたので、もっぱら植物のタネが観察の対象でした。その中でも、昆虫を観察した結果の一部を下に示します。

写真10は、クヌギハケタマムシの画像で、手の上に乗せた状態です。これは、タマバチの1種であるクヌギハケタマバチ Neurotrus vonkuenburgi によって作られる虫こぶのことです。 
 
クヌギの葉の裏にできる虫こぶとして知られており、丸くててっぺんがややへこんでいます。大きさは6 mmほどです。クヌギの木の下にたくさん落ちていました。写真10右は、虫こぶを割ったものを撮った拡大画像です。中に幼虫が見えます。 
 
イメージ 10
写真10
 
写真11は、ヨモギクキワタフシです。これもタマバエの一種(ヨモギワタタマバエ Rhopalomyia giraldii)によってつくられる虫こぶで、ワタのようなフワフワ感のある塊が、ヨモギの茎の周りについています。
 
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写真11

正味4時間の室内講義と野外観察の講座でしたが、ほとんど聞き慣れた、見慣れた昆虫に関してはともかく、「旅するタネ」はとても新鮮で密度の濃いものでした。6割以上は初めて見聞きする内容だったと思います。講師としての自然観察指導員の期待以上のレベルの高さも実感しました。私も見習いたいと思います。