Dr. Tairaのブログ

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蕎麦とカメムシの共通点


昆虫のカメムシと言えば、触ったことがある人なら誰もがあの「ツーン」とくる青臭い嫌な刺激臭を思い起こすでしょう。今朝、ひょんなことからカメムシのあの臭さの原因であるカメムシという物質について調べることになりました。

きっかけは、昨夜娘からラインでカメムシ酸に関するコメントが来たことであり、今朝のNHKあさイチ」で「蕎麦(そば)の匂いの成分がヘキサナール」であると紹介されていたことです。もう記憶が薄れていたのですが、確かカメムシ酸の主成分がヘキサナールではなかったか?と思い起こしながら、蕎麦とカメムシには共通点がある?(図1という興味から情報検索しました。

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図1. 蕎麦(ざるそば)(A) とカメムシクサギカメムシ)(B)

カメムシ酸について原著論文まで含めていろいろ当たってみたところ、読みやすい和文の解説論文の一つにたどり着きました [1]。要約すると、カメムシ酸の成分は種ごとに異なりますが、ヘキサナールやトランス-2-ヘキセナールなどの脂肪族アルデヒドとアルコールの一種である1-ヘキサノール を中心として、酪酸エステルや短鎖脂肪酸が含まれる混合物であるということを理解しました。

あらためてこれらの主成分の臭いの形容について調べてみると以下のとおりです:
●ヘキサナール:ダイズや草などの青臭さ
●トランス-2-ヘキセナール:草や葉のにおい
●1-ヘキサノール:草刈りをした後のにおい

いずれにせよ、カメムシ酸の主成分の臭いは「青臭い」、「草のにおい」というのがキーポイントのようです。

それでは蕎麦の匂いはどうでしょうか。放送では蕎麦に残る香り成分がヘキサナールであり、枯れ草のにおいと形容されていました。うーん、確かに枯れ草と言えば、そんな感じもしますが、少なくとも「草のにおい」というところで蕎麦とカメムシの共通性がはっきりしました。

ただし、蕎麦好きにとっては蕎麦の香りは嫌な臭いではありません。要するに嫌な臭いと感じるか、ほのかないい香りと感じるかはヘキサナールの濃度に依存するのかもしれません。さらにカメムシ酸の中にはヘキサナール以外のさまざまな臭い物質が入っているので、蕎麦とカメムシとの単純な比較はあまり意味がないかもしれません。

とはいえ、蕎麦にワサビや薬味を添えるのはやはり蕎麦と鰹出汁の「臭み消し」の効果を期待してということなのでしょうか(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16422582.html)。

蕎麦を美味しく食べるためには、このヘキサナールが特有の匂いが残っていることが重要であり、そのためのざる蕎麦の作り方の工夫について説明がありました(図2)。どういう方法かというと、乾麺の蕎麦を茹でる前に、あらかじめ水に浸けておくということが紹介されていました。

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図2. 蕎麦のなかのヘキサナールがあることで増加(2018.10.09 NHKあさイチ」より)

すなわち、そのまま蕎麦を茹でてしまうと香りの成分であるヘキサナールが抜けてしまうのに対し、茹でる前に水に浸けておいたものは半分の加熱時間で茹で上がってしまうので、香りが残るということでした(図3)。

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図3. 蕎麦の加熱時間によりヘキサナールの抜けに差が出る(2018.10.09 NHKあさイチ」より)

これから、乾麺の蕎麦を茹でる時はこの方法を使ってみようと思います。とはいえ、これから蕎麦を食べるたびにカメムシが脳裏に浮かびそうです

放送ではこのほかにも蕎麦をおいしく食べる方法が紹介されていました。まず、これは常識ですが、蕎麦の歯ごたえを保つためには、茹でた蕎麦をそのまま常温まで冷ますのではなく、氷水で冷やしながら洗うということが重要です(図4)。

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図4. 蕎麦を常温においたときと氷水で冷やした場合のかみごたえの違い(2018.10.09 NHKあさイチ」より)

さらに意外な方法として、のどごしをよくするために、オリーブ油を添加して茹でるということが紹介されていました。添加量は1 Lの水に対して大さじ一杯ということでした(図5)。

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図5. 蕎麦を油処理することによるのどごしの改善(2018.10.09 NHKあさイチ」より)


参考文献

1. 夏原由博: カメムシの生活 (1). 生活衛生 29, 32-35 (1985). https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/29/1/29_1_32/_article/-char/ja