ユズ(柚子、Citrus junos)はミカン属の常緑小高木であり、その実の消費量・生産量はともに日本で最大の柑橘類です。今日、ホームセンターで売られているユズの木を見ていたら、葉に食害の跡がありました。「ああー、アゲハがいるな」と思って探してみたら、案の定、数頭の4齢幼虫が見つかりました。
そこまでは日常の想定範囲内だったのですが、ふと裏側を見ると、何とそこにムラサキツバメ(Narathura bazalus、シノニム:Arhopala bazalus)が止まっていて、びっくりしました(図1, 2)。これは想定外でした。東京の街中で本種を見るのは初めてです。
図2. ムラサキツバメの尾状突起(矢印)
ムラサキツバメの大きさは、翅を広げた開長で3.5-4 cm程度です。図1, 2では、斑紋が数個並ぶ褐色の裏面の翅が見えていますが、表側は、オスでは全体が深い紫色をしており、メスでは黒褐色の地色の中に明るい紫色の部分があります。
近縁種にムラサキシジミ(Narathura japonica)がいますが(図3)、ムラサキツバメはこれよりやや大きく、前翅の前縁の先端が尖っていないこと、後翅に尾状突起がある(図2)ことで区別できます。
ムラサキツバメは、シジミチョウ科に属するチョウの一種ですが、元来は温暖な地域の照葉樹林帯に分布するチョウです。かつては生息域が本州中部以西に限られていましたが、1990年代から関東でも見られるようになり、徐々に分布を広がっているようです。私は、関東では、1994年に神奈川県小田原市において、初めて本種を見ました。
ムラサキツバメの北上化の原因の一つとしては、地球温暖化があると考えられます。もう一つの原因としては、幼虫の食草となるマテバシイが、街路樹や庭木として盛んに植樹されていることが挙げられます。関東でもあちこちの公園でマテバシイが見られ(図4)、その周りをムラサキツバメが飛ぶ姿がしばしば目撃されます。
図4. 東京近辺の街路樹や公園の植樹として見られるマテバシイ