Dr. Tairaのブログ

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虫が紫外線で見る世界

NHK-TVの「チコちゃんに叱られる」はトリヴィア的な情報を提供する番組ですが、ときどきおもしろい話題を取り上げます。
 
今日の再放送では、花の色はなぜ違うかということを取り上げていました(図1)。チコちゃんの答えは「花によって虫の好みがバラバラだから」ということでした。
 
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図1. 自然界における花の色が異なる理由(2018.06.16. NHKチコちゃんに叱られる」より).
 
昆虫は蜜を求めて花に飛来します。そして、花の中で動き回ってくれることにより、受粉が促進されます。すなわち、昆虫と花はお互いにとって利益があるわけです。したがって、花にとっては訪ねてくる昆虫が見つけやすい色をもつことが有利になります。これが進化の過程でさまざまな色として現れるようになった理由であろうと考えられます。
 
しかし、私たちの眼で見る花の色と、実際昆虫が見ている色は異なる可能性があります。それは両者が実際に感じる光の波長範囲異なっているからです。
 
私たちは可視光線と呼ばれる、おおまかに言えば 400–700 nm の範囲の光を色として認識できますが、昆虫の眼はより短波長の光(300–600 nm)を感じています(図2)。ただし、昆虫の眼の感度は悪いと言われています。
 
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図2. 人間と昆虫の感じる光(電磁波)の波長範囲.
 
300–400 nm の光といえば紫外線です。この範囲の紫外線は美容健康面から分類されているUV-Aと呼ばれる紫外線に該当します。昆虫の眼は、この範囲の紫外線を最もよく感じることができます。
 
番組では、人間の眼と紫外線カメラで見た菜の花の色を紹介していました(図3)。人間の眼には菜の花は全体に黄色く見えるだけですが、紫外線下では蜜がある部分だけ濃く見えます(図3右矢印)。昆虫の眼には、蜜がある場所が認識できるわけです。
 
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図3. 人間の眼(可視光線下)と紫外線カメラ(右)でみた菜の花の色(2018.06.16. NHKチコちゃんに叱られる」より).
 
さらに、モンシロチョウのように人間の眼にはオスとメスで区別しにくい色でも、紫外線で見ると容易に識別できます(図4)。モンシロチョウは紫外線を感じる眼で雌雄を識別していると考えられます。
 
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図4. 紫外線でみるモンシロチョウのオス(左)とメス(右)の色.
 
短波長の光を感じやすい昆虫の特性は、不快害虫の防除に利用されています。コンビニエンスストアーなどお店の入り口や果樹園の周囲などに、青紫色の蛍光灯が設置されていることがあります。これは、虫が近紫外線を認識して誘引されることを利用した駆除対策です。
 
また、一般家庭でよく使われている蛍光灯も、長波長の紫外線から青色の波長帯をもつので、昆虫が誘引する効果があります。一方、昔用いられていた白熱電球は近赤外線の波長帯(図2の黄色から赤色の範囲)をもつので、あまり虫が寄ってきません。蛾や甲虫の夜間採集をするのに、蛍光灯で照らした白幕を使うのはこの理由です。
 
最近ではLED灯がよく使われるようになっていますが、LED光は紫外線領域の波長をもたず、波長領域が狭いので、蛍光灯に比べてはるかに昆虫が寄って来ることは少ないです。
            
カテゴリー:昆虫の観察