Dr. Tairaのブログ

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八丁味噌

八丁味噌(はっちょうみそ)と言えば、愛知県岡崎市八帖町で生産されている長期熟成させた豆味噌です(写真1)。外見はアンコのような色をしていて、独特のうま味があります。岡崎出身の武将、徳川家康の健康と長寿を支えたのが「麦飯と豆味噌」だったと言われています。
 
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写真1
 
昨年4月に岡崎を訪れ、八丁味噌の老舗を見学しました。写真2はその時途中で立ち寄った岡崎公園の様子です。徳川家康がいた岡崎城が見えます。
 
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写真2
 
岡崎にはカクキューまるやという二つの八丁味噌の老舗があります。写真3はカクキューの外観の一部で、こちらを見学しました。
 
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写真3
 
八丁味噌の製造では米麹や麦麹を用いず、原材大豆の全てを麹にした豆麹で作られます。水で洗った大豆を浸漬し、水分を取った後、蒸します。冷ました蒸し大豆を潰して味噌玉に丸め、種麹をまぶして豆麹を作ります。
 
味噌麹に白塩と水を加えて、木製の大桶(写真4)に空気を抜きながら味噌を敷き詰めていき、その上から石積みします。この状態で1年半から2年以上発酵・熟成します。
 
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写真4
 
石積みした木桶がズラっと並び、壮観です(写真5)。200本はあるだろうということでした。
 
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写真5
 
この店で最古の天保の仕込桶というものがありました(写真6)。
 
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写真6
 
カクキューとまるやの二つの老舗は、このような伝統的な石積み木桶を使った製法で八丁味噌を作っていますが、実は、この老舗のブランドを揺るがす事態が起きています。日本地理的表示(GI)登録の問題です。

GIとは、伝統的な食品や農産物を国が登録して保護する制度ですが、八丁味噌について上記の老舗がGI制度を受けられない事態が起こっています。この問題を、昨日NHKが取り上げていました(図1
 
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図1. GI登録制度の概要(2018.6.14 NHKくらし解説より)
 
問題の概要は図2–4に示すとおりです。まず、岡崎市の伝統的製法をもつ老舗2社以外に愛知県下にはいくつかの県組合の八丁味噌の生産会社があり、その生産量は老舗2社に迫っている現状があります(図2
 
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図2. 八丁味噌老舗2社と県組合の製造会社による生産地の範囲(2018.6.14 NHKくらし解説より)
 
老舗2社と県組合の会社の製法には違いがあり、前者は後者のものを八丁味噌とは言えないと主張していますが、農水省は専門家の意見を基に、味などの特性は同じとしています(図3)。
 
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図3. 老舗2社と県組合の会社の製法の違い(2018.6.14 NHKくらし解説より)
 
そしてここから問題なのですが、先に県組合の会社がGI登録を申請したところ、それが国に認められてしまいました。その結果、老舗2社がGI登録がないという状況になりました。GI登録がないと海外への輸出もできないなどいろいろと弊害が出てきます。
 
農水省は老舗2社もいっしょに申請してもらえればGI登録を許可するという立場ですが、老舗の会社には「ウチの方が本物の八丁味噌だ」というプライドがあり、県組合のものを認めたくないということになっているようです。
 
農水省がGI登録を急いだ背景には、日本産とするさまざまな偽物の商品が流通している状況があり、これをなるべく早く阻止したい意図があるようです。図4には台湾、中国、インドネシアなどから製造・販売されている偽物製品を示します。
 
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図4. 日本産として出回っている海外の偽物商品(2018.6.14 NHKくらし解説より)
 
京都では八つ橋の老舗争いが問題になっていますが、八丁味噌の問題も早く解決してほしいと思います。