Dr. Tairaのブログ

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人類はあと100年で終焉?

 私は大学在職中に、大学の地域連携の一環としてNPO団体「東三河生態系ネットワーク協議会」(https://higashimikawa-seitaikei.jimdo.com/) のメンバーとして活動していました(今はオブザーバーとして参画)。そして、2016年11月に大学と本団体との共催で年次フォーラムを開催し、私は基調講演で話す機会をいただきました。講演題目は「第6の大量絶滅を前にしていま生物多様性をあらためて考える」です(図1)。
 
ここで言う「第6の大量絶滅」とは何か、それは文字通り、過去地球の歴史の中で5回の生物の大量絶滅が起こっており、今まさに6回目の大量絶滅の時代に突入したということです。いささか荒唐無稽の話に聞こえるかもしれませんが、いま世界中の科学者が大量絶滅が起こりつつあることに警鐘を鳴らしています [1]。この絶滅の中にはもちろん人間も含まれます。
 
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図1. 東三河生態系ネットワークフォーラム2016のパンフレット
 
2014年、大量絶滅の警鐘を鳴らすものとして、ずばり"The Sixth Extinction: An Unnatural History"という衝撃的な英語本が出版されました [2]。この本は、「6度目の大絶滅」と題した邦訳本としてもすぐ後に出版されています。科学ジャーナリストである著者のエリザベス・コルバートはこの業績により、2015年のピューリッツァー賞(一般ノンフィクション部門)を受賞しています。
 
また、2015年に米国サイエンス・アドバンシズ誌に「第6の大量絶滅に突入」というタイトルの論文が発表されました [3]。この論文によれば、現在の生物種の絶滅ペースは過去に比べると100倍も速いということです、この絶滅速度は、私たちがよく知る動物種だけを考慮して算出されたものであり、その数がわかっていない海や森に生息する未知の動植物を含めれば、さらに多くの生物種が私たちに発見されることもなく、絶滅していくことになります。
 
この論文の著者の一人である米スタンフォード大学生物学者ポール・エーリック教授によれば、「今のままの絶滅が続けば、人類はこれから3世代で生物多様性からの恩恵を失うことになる」と述べています。
 
先月、世界的に著名な英国の理論物理学者であるスティーヴン・ホーキング(Stephen William Hawking)博士が亡くなりました。彼はさまざまな名言や遺言を残しています。私は彼が亡くなったと聞いて、すぐに「人類の終焉に関する予言」を思い出しました。そのうちの一つは「完全なる人工知能(AI)の開発は人類の終焉を意味する」であり、もう一つは「人類に残された時間は、せいぜい100年しかない」というものです。
 
AIは、すでにさまざまな分野で利用されており、私たちの身近な生活の中に食い込んでいます。オンラインショッピングやグルメサイトでは、個人の属性や閲覧行動のデータに基づいて特定のアルゴリズムで最適な選択を導き出します。そのAIの選択に私たちの行動が左右されている現実があります。AIは軍事面でも利用されており、成功の可能性が高い戦術をAIが導き出し、軍事意思決定に利用されています。その先には政治の政策決定におけるAI利用があります。それを積極的押し進める意見も出てくるでしょう。
 
ホーキング博士が言った「完全なるAIによる人類の終焉」というのは、おそらく人類や国家の意思決定がAIに完全支配された場合の危険性を予見したものでしょう。AIのアルゴリズムやその解析プロセスは権益に関することなので、決して公開されることはなく、そのアルゴリズムが理解できる人しかチェックできないという危険性を抱えたまま人類は従うことになります。
 
AIは既存の学習データに基づいて答えを導き出すので、人類を救うようなドラスティックな新たな提案はできません。その上でAIが一見暴走的な答えを提案した時に、人類や国家はそれを拒否することができるでしょうか? 答えは否でしょう。その予兆は、私たちがオンラインショッピングやグルメサイトで無意識にそれに従わされていることに現れています。AIに依存した社会や生活に馴れてしまうと、もはやAIの思考を拒否できず、AIが導き出した答えが暴走的であることさえ気づかないかもしれません。
 
ホーキング博士のこの予言に関して、今さまざまな媒体で取り上げられており、インターネット上で見ることができます [4, 5]。これらの記事では地球の「金星化」が始まっていることに言及しています。地球の金星化とは、地球温暖化の究極の状態を示します。
 
記事 [4, 5] の中で、山本良一・東京大学名誉教授は「北極圏の海氷が年々減り続け、このままでは、温暖化による影響がさらに温暖化を加速する『ポジティヴ・フィードバック』が始まってしまう」と語っています。
 
その例として2040年には夏になると北極圏の海氷がすべて解けてしまい、海氷による太陽光を反射機能が失われて、より多くの熱をため込むようになってしまうこと、シベリアの永久凍土や海中のメタンハイドレード(氷状のメタンガス)が解けて、二酸化炭素の20倍以上温室効果をもつメタンガスが大量に放出され、温暖化がさらに加速すること、が述べられています。
 
今は寒冷期にある地球自身が人類の活動で生じる温暖化をギリギリで抑え込んでいる状態であるが、すぐに抑えきれなくなり一気に温暖化へ加速するとの見方も出ています。
 
2014年に出版された論文によると、北極海近辺からのメタンの放出によって従来考えられたより15-35年速く地球温暖化が進むことが報告されています [6]図2)。 
 
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図2. 北極圏からのメタン放出の影響を報じた論文(東三河生態系NWフォーラム2016講演スライドより)
 
事実、シベリアにおいて発見されたメタンの爆発的放出によって開いたと思われる大きな穴が新聞でも報道されました(図3左)。地球温暖化によって永久凍土が融解し、その結果地中に閉じ込められていたメタンが大気中に漏れ出し、それがまた温暖化を加速するという既にポジティヴ・フィードバックが起こりつつあります。そして、この現象は、たとえ今すぐ二酸化炭素の放出を止めたとしても、人類にはもはや止める術はないかもしれません。
 
さらに厄介なことに、人類による二酸化炭素の放出によってそれが海に過剰に吸収され、急速な海洋の酸性化を引き起こしています。その結果、二酸化炭素の吸収源であるサンゴ礁の喪失、二枚貝の喪失などが起こり、海に二酸化炭素が吸収されなくなる可能性があるのです(図3右)。これは海洋生態系が壊され、海からの食料資源も急速に失われることを意味します。
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図3. ポジティヴ・フィードバックによる地球温暖化の加速(東三河生態系NWフォーラム2016講演スライドより)
 
いま人類は、地球上で持続可能な生活ができるかどうかのギリギリの瀬戸際に立たされているということでしょう。この転換点(tipping point)を切り抜けられるかどうか、いますぐにドラスティックな行動を起こさなければ、第6の大量絶滅へまっしぐらということになるのかもしれません。
 
極端に大脳皮質を発達させた結果、欲望を生み出し、生物地球化学的循環から逸脱した活動を促進している人類の当然の帰結と言ってしまえば身もフタもないのですが、私たちはいま、AIをはじめとする内なる要因と地球環境悪化という外的要因の両方から「100年終焉」のリスクを抱えていると言えます。
 
引用文献・記事
 
[1] The Guardian: Earth's sixth mass extinction event under way, scientists warn. https://www.theguardian.com/environment/2017/jul/10/earths-sixth-mass-extinction-event-already-underway-scientists-warn
[2] Kolbert, E.: The Sixth Extinction: An Unnatural History. Bloomsbury, London, 2014. https://www.bloomsbury.com/uk/sixth-extinction-9781408851241/ 
[3] Ceballos, G. et al: Accelerated modern human–induced species losses: Entering the sixth mass extinction. Sci. Adv. 1, e1400253 (2015). http://advances.sciencemag.org/content/1/5/e1400253
[4] livedoorNEWS:ホーキング博士の怖すぎる遺言「人類に残された時間はあと100年など. 2018.04.03. http://news.livedoor.com/article/detail/14524038/
[5] 日刊SPA!:人類はあと100年で終了!? 怖すぎるホーキング博士の“遺言”.  2018.04.03. https://nikkan-spa.jp/1465883
[6] Shakhova N. et al.: Ebullition and storm-induced methane release from the East Siberian Arctic Shelf. Nat. Geosci. 7, 64-70 (2014). https://www.nature.com/articles/ngeo2007