Dr. Tairaのブログ

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なぜmRNAワクチンのレトロポジションの可能性が無視されるのか

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

はじめに

COVID-19パンデミックが始まって間もない頃、私は核酸ワクチンに期待すると同時に、いくつかの懸念があることもブログ記事で示しました(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)。懸念の一つは、現在まさに使われているわけですが、化学修飾mRNAワクチンを用いた場合、その持続性強化が諸刃の剣であること、二つ目は特定タンパク質に特化した場合、免疫逃避変異ウイルスの出現を促すこと、そしてmRNAのレトロポジション(DNAへの統合)が起こらないか?ということです。

これらの疑問点については、分子生物学や微生物・ウイルス学を学んだ者であれば直ぐに思い浮かべることができると思いますが、なぜか、大方のワクチン学、免疫学の専門家、感染症・医療専門家、そしてウイルス学の専門家でさえ無視続けてきました。それどころか、以下のような根拠のない、あるいは科学的に不確実ことが当たり前のように、ワクチン推進の専門家から、ワクチン担当大臣から、そしてメディアからも発せられました。

1) ワクチンmRNAは注射部位にとどまり、拡散、循環することはない

2) 体内ではすぐに分解される

3) 免疫逃避変異体の出現を促すことはない

4) DNAに統合されることはない(ヒトは逆転写活性をもたない)

ワクチン推進派からの上記の1)〜3)の主張については、すでに誤りであったことが明白になっています。数々の論文は、ワクチンmRNAが全身に広がること、長期間存在すること、そして次々に免疫逃避変異体が現れることを証明しています。そして、4)については、現時点では全く不明です。

このような中、今から1年ちょっと前、クロアチアの進化遺伝学者、トミスラフ・デマツェットロッソ(Tomislav Domazet-Lošo)博士が書いた査読前論文が目にとまりました。「mRNAワクチンに関して、なぜレトロポジションの生物学が無視されるのか?」というタイトルの論文です。プレプリントの段階だったので、私はしばらくブログで紹介するのはペンディングにしていましたが、今年になってMDPIのGenes誌に査読済み論文 [1] として掲載されているのを見つけました。そこで、その内容を紹介したいと思います。

1. レトロポジションとは

レトロポジションについては以前のブログにも解説していますが(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる)、ここで再度簡単に説明します。

ヒトを含めた多くの真核生物の核内DNAには、その上を自由に移動することができるDNAエレメント(動く遺伝子)があってトランスポゾンと呼ばれています。トランポゾンには2種類あって、あるDNA領域を切り取って、別の場所に転位するDNA型トランスポゾンと、切り取りではなく複写して転位するRNA型のレトロトランスポゾン(レトロポゾン)とに分けられます。トランポゾンの大部分はレトロトランスポゾンであり、ヒトゲノムの半分近くも占めています。

レトロトランスポゾンの大部分は変異が蓄積して不活性です。一方、LINE-1(L1)と呼ばれるDNAエレメントは自律性活性型レトロトランスポゾンであり、ゲノムの17%を占めます。

L1は逆転写酵素を含めたタンパク質をコードする遺伝子を有し、非タンパク質部分を含めて複写・転位ができます。すなわち、1) mRNAへの転写 → 2) タンパク質への翻訳 → 3) mRNAとタンパク質の複合体形成 → 4) mRNAの逆転写によるDNAへの組み込み、という順序で転写・転位(言うならばコピー&ペースト)を起こします。これがレトロポジションと呼ばれる現象です。

 L1の重要なところは、自らの転写物(mRNA)を逆転写してDNAに組み込むだけでなく、発現した酵素を使って他のmRNAをDNAに統合する潜在力を有することです。この潜在力のために、ワクチンとして使われているmRNAがDNAに統合されることはないか?という疑問が当初からあるわけです。

事実、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)やmRNAワクチンについて、レトロポジション現象を報告した論文があります。一つは、SARS-CoV-2に感染した培養細胞においてL1が発現し、ウイルスRNAのDNAへの統合が起きたという報告です [2]。もう一つは、やはり培養細胞において、mRNAワクチンの投与によってL1が発現し、そのmRNAがDNAに統合されたという報告です [3]。いずれも、過去のブログ記事でその概要を紹介しています(→新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれるやはりワクチンmRNAは宿主細胞中でDNAに変換される)。

2. レトロポジションが無視される

デマツェットロッソ論文では、分子生物学の常識および上記のレトロポジションの事実から、mRNAワクチンの安全性評価において、なぜこれを無視するのかと投げかけています [1]。論文を適宜翻訳しながら彼の主張を以下に述べていきます。

               

今回のCOVID-19パンデミックでは、2種類のmRNAワクチン(ファイザー・ビオンテックおよびモデルナ製)が条件付きで承認され、広く適用されているが、その他のワクチンはまだ臨床試験中である。しかし、人類にはmRNAワクチンを一般集団に大規模に使用した経験はない。

このため、mRNAワクチンの安全性について、mRNAの分子生物学や進化に関するあらゆる知識を考慮した上で、慎重に評価することが必要である。驚くべきことに、「mRNAを用いたワクチンはゲノムを変化させることができない」という考え方が、mRNAワクチンの文献の多くに記載されており、この主張が広く浸透している。しかし、具体的に科学論文を参照することで、この考え方が裏付けられたことはない。

この矛盾は、マウスやヒトの集団におけるレトロポジションの分子的・進化的側面に関するこれまでの研究を考慮すれば、さらに不可解なものとなる。レトロポジションの研究では、臨床的背景も含めて、ゲノムにmRNA分子が頻繁に組み込まれることが明らかに記録されている。

基本的な比較を行なえば、mRNAワクチンの配列の特徴は、ヒトゲノムに最も多く存在する自律活性型レトロトランスポゾンであるL1エレメントを用いたレトロポジション(図1)の既知の要件を全て満たしていることが分かる。実際、mRNAワクチンに関連する多くの因子が、L1を介したレトロポジションの可能性を高めている。

図1. L1を介したレトロポジション. (A) L1エレメントのレトロポジションサイクル, (B) L1による内在性コーディング遺伝子のレトロポジションとL1によるウイルスmRNAのレトロポジション, (C) L1を介したワクチンmRNAの仮想的レトロポジション(文献 [1] からの転載図).

(A) 活性化されたL1エレメントは核で転写され, 得られた L1 mRNA は細胞質へ輸送され, そこで翻訳が行われる. L1 mRNA はORF1およびORF2タンパク質をコードしており, これらのタンパク質はL1 mRNAと優先的に結合して(cis-preference)L1リボ核タンパク質粒子(L1 RNP)を形成する. ORF1pはシャペロン活性を持つRNA結合タンパク質であり, ORF2pは逆転写酵素およびエンドヌクレアーゼとして機能する. 少なくともL1 mRNAとORF2pを含むL1 RNPは, まだ解明されていないメカニズムによって核内に侵入する. 核内では, L1 mRNAが逆転写され, target-primed reverse transcription (TPRT) のプロセスを通じてゲノムに組み込まれる. レトロポジション機構は, L1 mRNA のポリAテールへの ORF2p の結合に依存している. L1 mRNAを含む細胞外小胞(EV)を細胞が取り込み, 翻訳とレトロポジションを受けられるという証拠もある.

(B) 親タンパク質コード遺伝子は核内で転写される. その結果, mRNA前駆体が処理され, 成熟した親遺伝子mRNAが細胞質へと輸送される. L1タンパク質(ORF1pとORF2p)はトランスアソシエーションと呼ばれるプロセスを経て親遺伝子mRNAと相互作用し, 親遺伝子リボ核タンパク質粒子(親遺伝子RNP)を形成する.親遺伝子RNPはL1 RNPと同様に核に入り, TPRTを介して親遺伝子mRNAが逆転写され, ゲノムに組み込まれる. このプロセスでは, 親遺伝子mRNAのポリAテールが重要な役割を担っている. 同様のプロセスにより, 非レトロウイルス性RNAウイルスに由来するmRNA分子もゲノムに統合される可能性がある. たとえば、ボルナウイルスやおそらくコロナウイルスからのmRNAの統合がある.

(C) 脂質ナノ粒子(LNP)に配合されたワクチンmRNAは, エンドサイトーシスを介して細胞に入る. ワクチンmRNAの一部はエンドソームエスケープを介して細胞質に入り, 残りのワクチンmRNAはエンドソームで分解を受けるか, 多胞体エンドソームで細胞外小胞(EV)に再砲埋されて細胞外空間に再び分泌される. 近接・遠隔の細胞は, これらのEVからワクチンmRNAを取り込むことができる. L1タンパク質(ORF1pおよびORF2p)は, トランス会合と呼ばれるプロセスを介してワクチンmRNAと相互作用し, ワクチンmRNAリボ核タンパク質粒子(ワクチンmRNA RNP)を形成する. L1や親遺伝子RNPと同様に, ワクチンmRNA RNPは核に入り, TPRTを介してワクチンmRNAが逆転写され, ゲノムに統合される. このプロセスでは, ワクチンmRNAのポリAテールが重要な役割を果たす.

現在のmRNAワクチン改良のためのエンジニアリング戦略、および描かれている将来への方向性は、ヒト細胞に内在するL1エレメントを介してワクチンmRNAのゲノム統合が起こりえる可能性を考慮していない。これは、L1を介したレトロポジションの生物学や、ヒトの遺伝、発生、進化におけるその役割に関する知識ベースとは相容れないものである。

mRNAのレトロポジションは、ワクチン学以外でも生物医学的に認識されている現象であることを考えると、なぜこのリスクが見過ごされているのかはさらに理解し難いものになる。このような分野間の食い違いを解消するためには、ワクチンmRNAのレトロコピーの存在を検出し、そのレトロポジション頻度を推定することを目的とした動物モデルの実験研究を計画し、実施することが重要だろう。

この試みでは、様々な組織のシングル・セル・シークエンシングがきわめて重要な役割を果たすと思われる。L1レトロエレメントを介したレトロポジションが起こりやすい傾向は塩基配列に依存するため、すべてのmRNA治療薬候補を独立してテストすることが望ましいと思われる。

あらゆる技術は諸刃の剣であり、mRNA治療薬も例外ではない。この複雑なCOVID-19危機において、制御手段、手順、治療法、予防法、ワクチン技術のすべての長所と短所が、継続的にオープンに議論され、多くの角度から慎重に評価されることが不可欠である。

この方向での心強い例は、最近発表された論文に現れている。これらの論文では、COVID-19パンデミック対策と実践が、ヒトのマイクロバイオーム、新生児マイクロバイオーム、免疫をほとんど無視しているという負の側面をあぶり出し、バランスよく論じている。ここで紹介したmRNAワクチンとL1要素の相互作用の可能性も、幅広い分野の研究者の議論を呼び起こし、注目を集めることを期待する。

現在のワクチンmRNAがゲノムに統合されうるかどうか、またどの程度の頻度で統合されるかは、最終的には実験によって証明されるべきである。今のところ、L1エレメントのレトロポジションの生物学と、ワクチンmRNAのゲノム統合の可能性との理論的関連性については無視されたままである。mRNAワクチン学分野が、なぜ、どのような経緯で無視しているのかは、特にL1のレトロポジション研究の多さ、成果の認知度や意義を考えると、まったく謎のままである。

mRNAワクチン学は30年以上前に発展し始め、ヒトのL1レトロエレメントは40年以上研究されているが、明らかにこの二つの分野間のクロストークはない。この厄介な「サイロ効果」は、mRNAワクチンのグローバル化と巨大さ、前例のない普及という現実にもかかわらず、現代科学の構造的欠点が、私たちが認識する以上に深いという事実を突きつけている。残念ながら、こうしたことが原因で、L1介在レトロポジションは、mRNAワクチン学において一種のタブーであるかのような印象を与えている。

mRNAは、原理的にあらゆる情報をコード化できる情報伝達分子であることを忘れてはならない。この観点から、mRNAワクチン接種は、一種の「分子タトゥー」(molecular tattooing)と見なすことができる。したがって、すでにワクチン接種を受けた人々とその子孫の体細胞ゲノム及び生殖細胞ゲノムにおけるワクチンmRNAの統合の可能性を、明確かつ独立して追跡できるように、mRNAワクチンの正確なヌクレオチド配列や製品情報を一般公開することが重要である。

結論として、「mRNAベースの治療薬はゲノムに影響を与えない」という広く繰り返される声明は、出所が不明確な根拠のない仮定である。内在性のL1エレメントを介してワクチンmRNAがゲノムに組み込まれる経路は容易に考えることができる。このことは、ワクチンmRNAのレトロポジションの可能性を厳密に検証する実験的研究が早急に必要であることを意味している。このような研究が欠如している現在のmRNAワクチン評価では、ゲノム統合を否定しながら安全性を宣言するには不十分である。mRNAベースのワクチンの挿入変異原性に関わる安全性は未解決と考えるべきである。

               

以上が論文の主張の概要です。

おわりに

上記の論文 [1] はワクチン批判の論文ではありません。mRNAワクチンを改善するためには、そして安全性を確立するためには、DNA統合に関する研究が不可欠だと言っているわけです。一方、mRNAテクノロジーを喧伝するモデルナは、最近盛んにテレビCMを流すようになりました。日本政府の支援です [4]。そこで、モデルナジャパンのホームページにアクセスしてみたら、mRNAワクチンについて「役目を終えると長く体内に留まることはありません」、「DNAを永久的に変えたり、編集したりすることもありません」と、相変わらずの主張がありました。

このようなメーカーの主張を鵜呑みにして、それとも何かの利権絡みで、国や多くの専門家は同じ主張をしているのでしょうか。

マツェットロッソ論文が指摘するように、L1のレトロポジションについては多くの研究があり、SARS-CoV-2のRNAのDNA統合やワクチンmRNAのDNA統合も(培養細胞レベルでですが)報告されているにもかかわらず、ワクチン推進派からは全く無視されている状況です。誠に不思議というほかありません。

ワクチン推進派による、mRNAは注射部位にとどまるとか直ぐに分解されるという主張は、時が経つにつれて誤りだということが分かりました。このような経験を踏まえ、私たちは、ワクチンプロパガンダとも言えるこのような主張を鵜呑みにすることなく、事実を科学的にとらえていきたいものです。

LancetやNEJMなどに代表される権威ある医学系雑誌、一流と言われる雑誌には、いまワクチンをネガティヴにとらえるような論文は、たとえ科学的事実を述べていたとしてもほとんど掲載されません。mRNAワクチンの問題点を指摘する論文を掲載するのは、新興電子ジャーナルばかりです。マツェットロッソ論文も、基本的に方法に誤りがなければ掲載する立場をとる(もちろん査読はあり)MDPIだからこそ掲載できたとも言えます。その意味で、ワクチン推進派がよく並べ立てる「国や一流雑誌の論文の情報が正しい」という主張にも気をつけたいものです。

引用文献・記事

[1] Domazet-Lošo, T.: mRNA vaccines: Why is the biology of retroposition ignored? Genes 13, 719 (2022). https://doi.org/10.3390/genes13050719 

[2] Zhang, L. et al.: Reverse-transcribed SARS-CoV-2 RNA can integrateinto the genome of cultured human cells and can be expressed in patient-derived tissues. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 118, e2105968118 (2021). https://www.pnas.org/content/118/21/e2105968118

[3] Aldén, M. et al.: Intracellular reverse transcription of Pfizer BioNTechCOVID-19 mRNA vaccine BNT162b2 In vitro in human liver cell line. Curr. Issues Mol. Biol. 44, 1115–1126 (2022). https://www.mdpi.com/1467-3045/44/3/73

[4] 毎日新聞: 政府、CMでモデルナ使用呼びかけへ 3回目「交差接種」促進狙い. 2022.01.21. https://mainichi.jp/articles/20220121/k00/00m/010/051000c

引用したブログ記事

2022年2月26日 やはりワクチンmRNAは宿主細胞中でDNAに変換される

2021年5月15日 新型コロナウイルスのRNAがヒトのDNAに組み込まれる

2020年3月21日 集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)