Dr. Tairaのブログ

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「コロナが5類引き下げになったら」で想像できること

はじめに

現在、ウィズコロナ(living with the coronavirus)という言葉はすっかり定着した感がありますが、誤解も多い言葉です。この言葉に、新型コロナウイルス感染症COVID-19)の感染対策の上で何らかの戦略があるような印象を持っている人が多いと思いますが、全くそんなことはなく、簡単に言えば、感染対策をあきらめて社会経済活動に舵を切るというのがウィズコロナの方針です。感染制御の面で意味があるのは、ゼロコロナ戦略だけです。

日本では、ウィズコロナとともに感染対策と経済活動の両立と実しやかに言われていますが、土台両立できるはずがありません。パンデミック下で社会経済活動を推進すれば、必ず流行拡大しますし、犠牲者も出てきます。それでも、海外では、ある程度の被害や犠牲者には目をつぶり自由と社会経済活動を優先するというスローガンとして、ウィズコロナという言葉が選ばれているのです。

このような中で、新型コロナの感染症法上の分類を、現行の2類相当から5類に変更すべきという意見が、経済界や為政者から出てきています。言わば、ウィズコロナという方針を法的な変更で実践するとも言えることでしょう。

では、5類に引き下げにしたら一体どうなるのか、メリットがあるのかデメリットが多いのか、今回それを想定してみたいと思います。前のブログ記事で、関連する話題を取り上げていますが(→打つ手なしから出てきた5類相当への話第7波流行での行動制限なしの社会実験)、ここでさらに掘り下げてみたいと思います。

1. 海外の状況

感染症の1〜5類という分類は日本独自の法律に基づくものですが、5類になったらどうなるかは、海外の事例を参考にして想定することができます。欧米の主要国では、ウィズコロナの方針の下で、規制を全面解除し、感染者の全数把握も濃厚接触者の追跡もやめていますが、これには、ワクチンで重症化をある程度防止できる、医療提供体制を整えている、代替の流行把握の方法をとっている、という前提があることは忘れてはいけません。

図1に、テレビでよく取り上げられる規制解除、感染者全数把握停止の国々(米国、英国、豪州)のCOVID-19死亡者数の推移を、日本と比較して示します。死亡者数は依然として日本よりも多く(図1上)、人口比(死亡率)で見るとその差はもっと顕著になります(図1下)。しかも、いずれの国でも死亡率は上昇気味が横ばいです。これがウィズコロナ方針による全面規制解除の実態です。

図1. 規制解除、全数把握停止を行なった国と日本における死亡者数の推移(Our World in Dataからの転載図).

各国の感染者数の統計データも公表されていますが、そもそも全数把握をやめていてスポット的な調査データですので、実態はよくわかりません。

日本のテレビは、このような欧米諸国の表面的な規制解除や全数把握停止を話題として伝えますが、その結果として犠牲者数がどのようになっているかは紹介しません。しかも医療提供体制の状況や全数把握に代わるアプローチについてもまず報道しません。その結果、日本の視聴者は、欧米においては何も対策しないで経済を回しているという解放感だけが強調されてインプットされることになり、情報のバイアスに気づきにくいのです。

実際は、犠牲者の数は容認するという自己責任の社会であり、その代わり、医療はお金を出せばいつでも受けられる、流行も下水のウイルス調査などで把握している(特に豪州やカナダ)という状況なのです。日本は、後述のように、感染症に対する医療提供の窓口がきわめて小さく、全数把握をやめたとしたら流行把握の手段はなく、季節性インフルエンザなどで行なっている患者の定点調査のみとなります。しかも即時の定点データ報告ではなくなるので、実質流行状況についてはリアルタイムで知ることはできません。

2. 新型コロナはインフルエンザ"並み"ではない

次に、5類にする前提として、新型コロナは季節性インフルエンザ並みとか風邪程度とか言う声がよく聞かれます。果たしてそうでしょうか。

私が知る限り、個人的な情報のやり取りも含めて、COVID-19が季節性インフルエンザ並みと考える感染症、ウイルス学、微生物学の専門家は1人もいません。例として、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のリサ・マラガキス(Maragakis, L. L.)博士が、最近書いた、"COVID-19 vs. the Flu" というタイトルのレビュー記事 [1] を紹介したいと思います。

この記事では、病気の症状、伝播様式、予防やワクチンなど面からCOVID-19とインフルエンザの類似性が述べられています。どちらも呼吸器系の症状を起こすこと、無症状、軽症、重症、あるいは致死的な場合があること、飛沫やエアロゾルで感染すること、ワクチンで予防できることが述べられています。

ただ、インフルエンザ・ワクチンは、流行が予想されるインフルエンザ株を見越して、毎年改良されているのに対し、COVIDワクチンはオリジナルの武漢株で設計されたものが依然として使われていることには触れられていません。

両者の違いとしては、まずは(当然ですが)関わるウイルスが種類が異なることが述べられています。COVID-19は、SARS-CoV-2と呼ばれる2019年版コロナウイルスが原因であり、ウイルス変異体によって重症度や感染力に多少の違いがあります。一方、インフルエンザウイルスには大きく分けてA型とB型があり、毎年異なる系統のA型とB型が出現し、これらが循環して流行が起こります。

症状の違いとして挙げられているのが嗅覚(アノスミア)・味覚(アゲスミア)障害です。COVID-19は、突然、嗅覚や味覚を失わせることがありますが、インフルエンザではこのような症状はほとんど起こりません。稀に、パンデミックとなった1918年のインフルエンザ流行時のように、特定の株が多くの人の味覚や嗅覚を失わせることがあります。

次に強調されているのが、合併症と長期的な障害です。COVID-19に感染した場合、肺、心臓、腎臓、脳などの臓器に合併症を生じ、様々な症状が長期的に続くなどの可能性があります。一方、インフルエンザでも、合併症として、心臓(心筋炎)、脳(脳炎)または筋肉(筋炎、横紋筋融解症)の炎症、および多臓器不全が起こることがあります。

この記事では、long Covid(長期コロナ症)という言葉は出てきませんが、初期症状の程度に関係なく起こるいわゆる後遺症は、新型コロナに特有なリスクと言えるでしょう。

記事では流行の状況や致死率についても触れています。世界保健機構(WHO)は、世界で毎年10億人がインフルエンザに感染し、毎年29万人から65万人が死亡していると推定しています。一方、COVID-19の状況は変化し続けており、医師や科学者はCOVID-19の死亡率を推定するために努力していますが、現時点では、ほとんどのインフルエンザの株の死亡率よりもかなり高い(おそらく10倍以上)と考えられています。

次に、国内の専門家の見解を見てみましょう。一例として、今日TBSテレビの番組で紹介されていた厚労省アドバイザリーボードの資料を挙げます(図1)。ここでもCOVID-19と季節性インフルエンザの差があることが強調されていています(図2)。60歳以下では両者の重症化率に差はありませんが、60歳以上ではCOVID-19において約3倍の重症化率の高さがあります。そして、60歳以上ではそれ以下の年代に比べて83倍の重症化率の高さがあるのです。

図2. COIVD-19(オミクロン変異体)と季節性インフルエンザの重症化率の違い(2022.07.31. TBSテレビ「サンデーモーニング」より).

さらに、COVID-19においては、インフルエンザのように治療薬が広く使える状況ではなく、長期コロナ症の問題も強調されています。

実際に入院患者の年代について大阪府の場合を挙げてみましょう。最近の新規感染者については70代以上は6.9%しかいないのに、入院患者となると70代以上が75%を占めるのです。ここにCOVID-19の脆弱者は誰かが如実に現れています。

図3. 大阪におけるCOIVD-19(オミクロン変異体BA.5)の感染者および入院患者の年だ別割合(2022.07.31. TBSテレビ「サンデーモーニング」より).

これまでブログやツイッターで何度となく指摘してきましたが、感染症の対策において重要なのは、脆弱者を特定化し、そこに感染伝播が起こらないように制御し、被害を最小化することです。COVID-19においては、まずは若者を中心に感染が広がり、それが高齢者にも広がって、被害を拡大する、その年代での重症か率・致死率は若年層よりも、そして季節性インフルエンザよりもはるかに高いということが当初から続いています。

新型コロナは季節性インフルエンザ並み、新型コロナを特別視するな、という意見は、医者の中にも散見されますが、感染対策の基本とCOVID-19の特性の視点が、スッポリ抜けていると言わざるを得ません。医療提供のキャパシティ以上に感染者を増やさないことが一義的に重要なのに、医療ひっ迫・崩壊ということになってしまうと、今度は新型コロナは季節性インフルエンザ並みだから、感染症法上の分類を引き下げろという話にすり替えられてしまうのです。

そもそも、大流行という燃え盛っている状況の中で、その消火が満足にできない(あるいは怠っている)言い訳として、焼けた後の話なんかしている場合ではないのです。

3. パンデミック vs. エンデミック

ここで強調しておきたいことは、COVID-19は今でもパンデミックであってエンデミックではないということです。 エンデミックとは、感染させる人口と感染した人口と釣り合っていて、あたかも感染状況が静止しているような病気のことをいいます。季節性インフルエンザ、風邪、麻疹、結核マラリアなどはエンデミックの状態です。

しかし、エンデミックだから致死率が低いとか死亡数が小さいということもありません。マラリアは2020年に60万人以上が死亡し、結核では150万人が死亡しています。この数字は上記したインフルエンザの年間死亡数よりもはるかに大きいです。エンデミックのなかには、きわめて高い致死率の病気もあり、エンデミックだから軽いということもないわけです。

したがって、パンデミックとエンデミックを見かけ上の致死率や死亡者数だけで比較することもあまり意味がなく、より重要なのは、社会へ及ぼす影響です。パンデミックがエンデミックと違うところは、社会が病気の平衡状態からかく乱状態に移行し、健康被害の発生はもとより、グローバルに社会・経済活動に多大な悪影響を及ぼすということなのです。

現に新型コロナはいま社会や経済に多大な影響を与えています。パンデミックだから当然なのですが、季節性インフルエンザ並みを唱う人たちはここを忘れているようです。

4. 5類引き下げになったら

いま日々の感染拡大にしたがって、保健所と発熱外来の業務がひっ迫しています。発熱外来で言えば、全医療機関の35%でしかなく、非常に窓口が小さくなっています。予約がとれないのも当たり前です。感染者の爆発的増加に加えて濃厚接触者の特定と待機要請も行われているため、企業や公共機関の従業員・職員の欠勤が相次ぎ、社会経済活動にも支障が出ています。

そのため、一部の地方自治体や専門家、経済界からは、そしてSNS上でも新型コロナの位置づけを季節性インフルエンザと同じ5類相当に下げるべきだとの声が出ていましたが、政府はついに昨日(7月30日)、この方向で検討することに踏み切りました [2]

為政者の中で声高々に2類見直しを主張しているのは、神奈川県の黒岩祐治知事や大阪府の吉村洋文知事です。よりによって、コロナ対策に失敗し、大きな被害を出している自治体のトップほど、2類見直しの声が大きいという印象を受けます。昨日のテレビ朝日の番組では吉村知事が生出演し、同様に2類見直しを主張していましたが、これについて私は以下のようにツイートしました。

いま2類相当の扱いを受けている新型コロナですが、5類相当に引き下げられると、感染者の即日報告、入院調整・勧告などがなくなり、全数把握も必要なくなりますので、保健所はいまの激務からは解放されます。つまり、流行っている(パンデミック状態の)感染症の制御を担っている保健所の介入がなくなるわけです。

いま新型コロナの患者は、主に発熱外来で受診し、必要に応じて指定病院への入院勧告を受けますが、5類になったらどうなるでしょうか。よく言われることが、季節性インフルエンザと同じなら「一般の医療機関での診察も可能になる」というものですが、果たしてそうでしょうか。結論から言えば、これは大きな誤解です。

5類にした場合、街角の一般病院でコロナ患者を診るためには二つのケースが想定されます。一つは一般病院の全てが対応するとなれば、いまの発熱外来と同じような基準(感染防止体制、検査など)で診る必要があります。なぜなら法律上の扱いを変更したところで病気の性質やウイルスの感染・伝播リスク(パンデミックという状態)は変わらないからです。

しかし、今現実に患者の導線を分けるなど発熱外来の基準で診ている一般病院は非常に少なく、非コロナ的診療をする、受診を拒否する、指定発熱外来へ回すという対応が大部分です。このような病院が、5類になったからといって、発熱外来基準を備えて簡単に診てくれるということを期待できるのでしょうか。直ぐには到底無理でしょう。おそらく、感染リスクを恐れるあまり、大量の受診拒否が起こるのではないでしょうか。

もう一つのケースは、ウイルスの感染・伝播リスクを考慮せず(パンデミックであることを無視して)、発熱外来基準を求めず、風邪などと同じように現システムで診療するというものです。しかし、これは大きなリスクを伴うことは明白です。すなわち、たちまち院内感染があちこちで発生し、一般病院が新型コロナのエピセンターと化してしまうでしょう。患者が大量に発生してしまい、収拾がつかなくなる恐れがあります。結果として、一般病院が地域医療という機能を果たせなくなるでしょう。

法律上5類は、自己責任の措置(完全に自力医療アクセス)になっていますから、為政者は今よりも責任から逃れられるわけです。ただ、完全自力アクセスに対して医療提供側が応えられるかは、上記のように甚だ疑問なのです。米国のように遠隔診療と自宅検査にしてしまうという手もありますが、遠隔診療は導入の手間がかかり、直接対面でない分診療報酬も安くなりますので、その実現はなかなか難しいでしょう。

2類の感染症では検査で陽性確定したら隔離・入院措置であり、原則指定病院への入院が勧告されます。しかし新型コロナの場合はすでに弾力的運用がなされていて、ほとんどが(たとえ中等症以上であっても)自宅療養です。これは患者が増え過ぎてしまい、入院のところでひっ迫しているためです。

もう一つ重要なことは、これはメディアの伝え方の責任でもありますが、指定病院でないと受診ができないように誤解されていることです。実際は一般病院でも診察がなされていますし、訪問診療(例:ひなた在宅クリニック山王)も行なわれていることは周知の事実です。ただ、これらの窓口は非常に小さく、受診拒否が多いので、発熱外来に患者が殺到してパンク状態になっているのが現状です。つまり受診と入院の両方の段階でひっ迫が起こっているわけです。医療にたどり着けない患者や、入院できずに亡くなる患者もいて実質医療崩壊の状態です。

東京都医師会も2類相当の扱いの見直しを提言していますが、であれば現行法で一般病院で診ればよいわけです。別に5類などにしなくてもそれはできるでしょう。事実、上述したように、一般病院でも受診可能なところがあるし、訪問診療も行なわれています。では、それが幅広くできない理由は何か、それは一般病院が幅広く新型コロナ患者を診るシステム(感染リスクを考えた設備、治療薬、医者のマインドの面など)になっていないからです。これは法律云々以前の根本的問題です。

おわりに

COVID-19が季節性インフルエンザ並みと考えている専門家は国内外ともいません。もし、インフルエンザ並みと言っている人がいれば、その人は専門家ではないということでしょう。その延長で5類に変更しろと意見は、COVID-19がパンデミックにある病気だということを忘れ、そう叫ぶことで季節性インフルエンザあるいは風邪だと、単に思い込んでいる(思いたい)だけのものです。

実際に5類に引き下げとなれば、自治体や保健所による感染制御の介入が解かれますので、流行地域は無法状態となり(感染者数も、誰が感染しているかも、入院状況もわからなくなる)、知らず知らずのうちに大勢の人がうつし合う状況になるでしょう。今よりもっと溢れんばかりの患者が発生し、病院はあっという間にひっ迫し、被害が拡大するでしょう。

5類で「一般の医療機関での診察も可能になる」というのは、何の意味もない、念仏を唱えるようなものです。5類になることでメリットがあるのは責任逃れができるようになる為政者や業務から解放される保健所、それに経済活動優先の企業だけです。医療提供体制の面では(医療従事者にとっても)何のメリットもなく、医療費が自己負担になる分、庶民にはデメリットが大きくなるでしょう。

いま新型コロナは実質2類相当の運用をされていません。実際検査やトレーシングが追いついていないので、感染者全数把握がされているということもありません。その上で、5類変更で対応するならば、少なくともWHOがパンデミック宣言を解除した後でしょうし、もしその前とするなら、前提として早急に医療提供の窓口が拡大され、流行把握の代替手段が構築されるべきです。

目の前の燃え盛る状況の消火のためには、まずは現行法(2類相当)での弾力的な運用が必要です。保健所の業務が煩雑になっているのは厚労省の責任でもあり(HER-SYS入力の煩雑さなど)、改善が求められます。そして、発熱外来の拡大や一般病院が診療可とするような質的向上を行なうことによる窓口の拡大が求められます。

引用文献・記事

[1] Maragakis, L. L.: COVID-19 vs. the Flu. Johns Hopkins Medicine Juy 29, 2022. https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/coronavirus/coronavirus-disease-2019-vs-the-flu

[2] 読売新聞: コロナ「インフル並み」に扱い検討へ…第7波収束後、感染者「全数把握」取りやめも. Yahoo Japanニュース 2022.07.30. https://news.yahoo.co.jp/articles/eb779676724d0b9c5d06183676d8ddde18fd813f?page=1

引用した拙著ブログ記事

2022年7月20日 第7波流行での行動制限なしの社会実験

2022年7月15日 打つ手なしから出てきた5類相当への話

                    

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)