2021.07.27:22:05更新
いまテレビをつければ東京オリンピック一色です。ニュース番組さえ、感染状況を差し置いて、冒頭で「金メダル云々」というニュースを流しています。
一方で、海外のメディアはこのオリンピックの問題点を指摘する記事を次々と配信しています。日本のメディアであれば書けないような内容が多く、このブログでもそれらを紹介してきました(→東京五輪を支える見えざる手、東京五輪で露呈したホロコーストジョークの炎上、東京五輪のオープニングを飾った悪名高き作曲家の曲)。
今日(7月26日)は、「日本の組織委員会は気候が温暖というウソをつき、いま選手がその代償を支払わされている」"Japan's Olympic organizers lied about its weather, and now athletes are paying the price"というヤフー!スポーツのウェブ記事が流れてきました [1]。類似の批判記事はデイリー・ビーストも発信しています [2]。
ここでは、ヤフー!スポーツの記事を全訳として紹介したいと思います。
以下筆者による全訳
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"Japan's Olympic organizers lied about its weather, and now athletes are paying the price" by Dan Wetzel [1]
月曜の朝、男子トライアスロンのゴール地点は、まるで戦場のような光景になっていた。地面に散らばった体、熱を帯びた選手を助けに来たトレーナー、肩に腕をかけて助け出される選手もいた。
東京オリンピックでは、スタート時間を午前6時30分に変更し、暑さに負けないような対策への努力は見せた。スタート時の気温は85度 (*注)(29.4°C)、相対湿度は67.1%に達していた。
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*注)このコラムでは華氏で温度表記されているので括弧内に摂氏温度を併記する。
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灼熱の太陽、空高く舞い上がる気温、濃厚豆スープのような湿度、これらの天候について日本人が謝る必要はない。誰も母なる自然に命令することはできないのだ。
しかし、このようなコンディションの下で選手たちが体力を消耗していく以上、彼ら(大会組織)は選手全員にこれだけは謝らなければならない。彼らが必死になって嘘をついていたことだ。
「温暖な晴天の日が多く、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる理想的な気候となっています」
これは、2020年の夏季オリンピック開催に向けた日本の公式提案からの引用だ。
温暖?理想的?ここ東京の7月で?
ロシアのテニス選手、アナスタシア・パブリウチェンコワは、土曜日、アーチェリー選手、ボランティア、関係者の誰もが気を失ってしまうような状況の中で競技を行ったが、「全然楽しくなかった」と語った。
日中の気温は90度(32°C)を超え、露点温度は70度台(21–26°C)半ばで、暑さ指数が3桁になるのは確実である。ここはトロピカルな場所だ。テニス、ビーチバレー、サイクリングなどの会場は、オープンで炎天下に曝されている。
セルビアのスター選手であるノバク・ジョコビッチは、「高温多湿の中でプレーするのは、とてもチャレンジングなことだ」と語った。「東京に来る前からわかっていたことで、非常に厳しい条件になると聞いていたし、予想もしていた。だが、それがどれほど難しいことなのか、実際ここに来て経験してみないとわからない」。
文字どおり、彼らは世界で最も優れたアスリートたちだ。彼らが難しいと言えば、難しいのだ。では、なぜ日本側はそうではないと主張したのか。そして、国際オリンピック委員会は、予想される状況について何らコメントすることなく招致を許可し、なぜ彼らの言葉をそのままにしておいたのか?
日本の提案書では、「提案された大会期間中の気象条件は妥当である」と約束していた。
どのアスリートも同じ状況に置かれているのだから、不公平だと言うのはおかしい。しかし、オリンピックに出場するために人生をかけてトレーニングしてきたのであれば、選手はパフォーマンスを悪くさせる状況ではなく、最適化された状況を期待するのではないだろうか。
日本はそれが嘘だと知っていた。彼らは実際ここに住んでいる。東京の真夏を「温暖」とか「理想的」と表現する住民は一人もいない。2014年、東京都が招致に成功した直後のジャパンタイムズのコラムでは、「いったいどうやったらうまくいくのだろう? 」と疑問を呈した。
「真夏のマニラ、バンコク、ジャカルタ、プノンペン、シンガポールに行ったことがあるが、私の経験では東京は最悪」と著者のロバート・ホワイティングは書いている。「想像できる最悪の場所は、カリフォルニア州のデスバレーかアフリカの角でゲームを開催することです」。
2036年のデスバレー? IOCにそんなアイデアを与えないでほしい。
東京は世界最大の都市であり、都市圏人口は3,400万人を超えている。近代的で、親しみやすく、美しく、清潔だ。信じられないようなところだ。ただし、この時期を除いては。
そして、彼ら(招致委員会)はそれを知っていたが、とにかくそうではないと主張し、「アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる場所」を提供するとさえ自慢してきた。
東京で最後に夏季大会が開催されたのは1964年である。この大会はこのような状況を避けるために10月に開催された。それは理にかなっていた。
政府の発表によると、日本のいまは平均で3.6度(1.2°C)高い。95度(35°C)以上の日が年平均1日だったのが、12日になった。2018年と2020年には過去最高の106度(41°C)を記録し、その熱波による事例として何百人もの人が亡くなった。
これまでのところ、良いニュースとしては、そこまで悪くなっていないということである。
ウェザーチャンネルの嵐の専門家であるカール・パーカー氏は、「通常通りの仕事を行うことは非常に困難です」と述べている。「このレベルになると、アスリートたちは本当にエネルギッシュになり、汗をかき始めます。体は蒸発を利用して体を冷やそうとしますが、ほとんど効果がないため、さらに汗をかくことになります」。
現在、夏季大会は7月中旬から8月下旬にかけて開催されているが、これは世界中でテレビの視聴率が高くなるからだ。特に米国ではその傾向が強く、NBCはNFLや大学フットボール、学校の始業式などとの競合を考える必要がない。
IOCにとってお金が第一であることが、このような状況を作っている。1964年の時点では、アスリートの問題が重要だったかもしれないが、それは当時のことである。いまは数十億ドルという金の話だ。
そこで日本は、北ウィスコンシンを吹き抜ける柔らかな風のような、牧歌的な夏の日というイメージ戦略で招致活動を行った。そして、IOCはそれに気づかないふりをして、うなずいていた。
「虚偽広告に対する罰則があるとすれば、それは何だろう」とジャパンタイムズは10年近く前に言っていた。
それが何であれ、それをいま支払っているのはアスリートたちのように思える。
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筆者あとがき
パンデミック下で強行された東京オリンピックは何かと問題が多い大会です。とはいえ、海外メディアから指摘されているなかで、大会の電通支配(東京五輪を支える見えざる手)、ホロコーストジョークの演出家の辞任(東京五輪で露呈したホロコーストジョークの炎上)、超国家主義の作曲家の曲の採用(東京五輪のオープニングを飾った悪名高き作曲家の曲)などは、選手達のパフォーマンス自身にはあまり関係ない話でしょう。
一方で、今回の記事のように、酷暑という条件は、感染症対策とともに、選手達のパフォーマンスに直接影響する大きな問題です。招致段階での大きな嘘が、実際に大会を開いてみて、大きな問題だったことがあらためて露呈したということになるでしょう。まさにその代償を選手達が支払っているというは言い当てています。
IOCの商業主義、それに迎合した大会の招致、それらを利用する政治家の思惑、そしてそのマインドから行なわれるオリンピックは、もはやホスト国の人々の健康やアスリートのベストパフォーマンスさえも蹴散らすような、彼ら自身の強欲を満たすお祭りと化しているのではないでしょうか。
そしてテレビは、パンデミック下であることを忘れるかのように、ただただ歓喜と感動の物語としてオリンピックを垂れ流し、視聴者はありがたくそれをお裾分けしたもらい、オリンピックという無料商品を消費しているだけなのでしょう。その代償は、パンデミック下においては、少なからず視聴者にも降り掛かってくるかもしれません。
2021.07.27更新
「温暖な晴天の日が多く、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮できる理想的な気候..」とウソをついた当事者のツイッターのコメントをスクショで載せておきます。
引用記事
[1] Wetzel, D.: Japan's Olympic organizers lied about its weather, and now athletes are paying the price. 2021.07.26. https://sports.yahoo.com/japan-lied-about-the-weather-and-now-olympians-are-paying-the-price-010612634.html
[2] Naughton, P.: ‘Mild and sunny’: The weather lies Tokyo told to win these games. Daily Beast 2021.07.26. https://www.thedailybeast.com/mild-and-sunny-did-tokyo-olympic-bid-committee-lie-about-its-weather-to-win-right-to-host-games
引用したブログ記事
2021年7月 東京五輪のオープニングを飾った悪名高き作曲家の曲
2021年7月 東京五輪で露呈したホロコーストジョークの炎上
2021年7月 東京五輪を支える見えざる手
カテゴリー:社会・時事問題