Dr. Tairaのブログ

生命と環境、微生物、科学と教育、生活科学、時事ネタなどに関する記事紹介

手洗いと消毒ーウイルス除去の基本

はじめに

一般に、風邪の原因となるコロナウイルスは、咳やくしゃみなどによる飛沫によって感染します。その際の飛距離は最大で 2 mと言われています(場合によっては 4 m)。飛沫感染に加えて、ウイルスに汚染されたドアノブ、手すり、つり革、タッチパネルなどに触れて伝染する接触感染もあります。

そして日常的に使うスマートフォンタブレットも汚染されやすく、指で頻繁に触ることになるので、そこからの接触感染も起こりえることです。

とはいえ、COVID-19感染症をもたらす新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) の場合は、発声や会話の際に放出されたウイルスを含んだ唾の細かい粒子が(短時間ですが)空中に浮遊し、他者に感染させる可能性(エアロゾル感染)に最も気をつけなければいけないでしょう。クルーズ船内で感染が拡大したことや、ライブハウスなどのような人が声を発する閉鎖空間で多数の感染者を出したことでもうなずけます。

ここで重要なことは飛沫、接触エアロゾルのいずれの場合においても、汚染された手を介して(その手で口や眼を触ることによって)感染することもあるということです。ここから言える対策は「手を洗う」、「手を消毒する」、飛沫などが直接顔につく、唾が飛ぶ、あるいはエアロゾルを吸い込むことを「マスクで防止する」ということです(図1)。

f:id:rplroseus:20200315193818j:plain

図1. 日常的なウイルス感染防止のための三つの基本:手洗い、消毒、マスク

1. 手を洗う

手を洗うといっても、その洗い方が効果的にウイルス除去に働かなければいけません。よく言われることは以下のようなことです。

                   

●流水中で洗う

●薬用石鹸を使う

●手のひらでよく泡だてる

●左手(右手)で右手(左手)で指を1本1本丁寧に洗う

●両手の指をクロスさせて洗う

●手の甲を洗う

●手首を洗う

●上記の過程にかける時間は短くても30秒

                   

しかしこれだけでは不十分です。私は細菌の汚染チェックの実験を行ったことがありますが、爪の部分に溜まった細菌を除くためには、指の先端を入念に洗うことが必要だということがわかりました。泥遊びや野良仕事をした後に爪の部分に土が溜まりますが、これを取り去ることを想像したらわかりやすいです。指先は、片側の手のひらの中で片方の手の先をゴシゴシ擦りながら10秒以上洗います。結果として手洗いにかかる時間は最低でも50秒ということになります。爪と指の間に細菌やウイルスは溜まりやすいということに注意しておくべきです。

私の場合はさらに手を洗ったあと洗顔し、そして再度石鹸で手を洗っています。

薬用石鹸(薬用ハンドソープ)には、通常主成分としてイソプロピルメチルフェノールが入っています。この成分自身はウイルスには効果はないですが、多くの細菌に対しては殺菌効果を示します。また、薬用石鹸の界面活性作用はウイルス不活化に効果があると思われるので、手洗いに薬用石鹸を使うのが望ましいです。

そしてより効果的な細菌・ウイルス除去のためには、よく泡だてることと、流水で十分に洗い流すことです(流水の中でも上と同じ手洗いの動作をする)。勘違いしやすいですが、石鹸の役目は、殺菌作用や界面活性作用もありますが、より重要なのは泡で細菌やウイルスを物理的に手から剥がすことです。したがって、その後の流水によるウイルス除去が大事になります。

2. 消毒する

消毒剤としてはエタノール溶液次亜塩素酸水が一般的です(図2)。 上記のイソプロピルメチフェノールよりもはるかに殺菌効果が高いので、消毒用として使うことができます。ただし、消毒用エタノールエンベロープを持つコロナウイルスやインフルエンザウイルスには効きますが、それを持たないウイルス(例:ノロウイルス)には効果がないので注意が必要です。

f:id:rplroseus:20200315193838j:plain

図2. COVID-19ウイルスに対する消毒薬の例

よく、消毒用エタノールを1、2回手にふりかけただけという人がいますが、これは効果が薄いです。効果を期待するならノズルトップを数回押して手のひらに溜まるくらいたっぷりと出し、上記の手洗いと同じようにとくに指先と指を入念に消毒します。

そして携帯電子機器ですが、私の場合は帰宅したらスマートフォンやデジガメを電源オフにし、必ず消毒用アルコールできれいに拭き取っています(ただしこの方法はスマホにカバーをしてない場合は避けます)。消毒用アルコールがなければ、洗剤を水で薄めてその溶液で拭き取っても大丈夫です。

次亜塩素酸水で固形表面を拭く場合は、有効塩素濃度80ppm以上のものを使います。次亜塩素酸水で濡らす場合は、有効塩素濃度35ppm以上のもので20秒以上掛け流すことで、ウイルス量を減らす効果があるようです。なお、次亜塩素酸と次亜塩素酸ナトリウムは別物です。後者の場合は、水で0.05%までに薄めた上で使用する必要があります。

3. マスクをする

マスクの使用もすでに政府やマスメディアなどを通じて情報が流布されているので、一般に外出時にマスクをつけることが多くなっています。元々花粉症が多い日本人は欧米と違ってマスク着用の習慣も根付いています。マスクのフィルター効果としては、不織布マスクがより優れているとされています。

最近、WHOがウイルスへの防御としてマスクの効果はなく、着用しなくてよいというメッセージを出しました。もちろん普通の市販マスクの網目はスカスカでウイルス自身は容易に通してしまいますが、飛沫の飛散防止やウイルスの吸着除去には期待できます。したがって、多くの人と接する場合や対面の際には着用すべきと考えます。

問題は消毒剤もマスクも品薄になって、今なかなか手に入らないことです。このような状況になっていることには政府の責任も大きいと思います。2009年の新型インフルエンザのパンデミックの教訓としてマスクの重要性は学んでいるはずです。消毒剤もマスクも足りなくならないように対策をとっておくということは政府の責任です。

私はマスクを洗って繰り返し使っています。使用後洗剤を垂らした水中に1時間ほど浸しておき(もみ洗いは厳禁)、そのあと流水で洗い流し天日干しします。天日干しでなくても吊るしておけば一晩で乾きます。マスクの再利用についてはメーカーは推奨していないようですが、私の実験では、霧吹きの飛沫を防御する効果は3回くらい洗ってもそれほど落ちませんでした。

おわりに

国民レベルで日常的にできることは、ウイルス感染予防策としての手洗い、消毒、マスク着用です。商業施設などへの入退出の際の手の消毒、帰宅時、食事前、トイレ使用後の石鹸での手洗い、やむおえず人ごみや閉鎖空間内へ行く場合や会話時のマスク着用の徹底が重要でしょう。このような手洗いと消毒の習慣づけがウイルス除去の基本であることを、政府はあらためてすべての人に呼びかけるべきだと思います。

いずれ日本でも感染者数と患者が著しく増え医療現場が疲弊する状況になることが予想されます。それを少しでも軽減させるのは、ウイルス感染を予防するための人の意識向上およびその上での行動と習慣です。

関連ブログ記事:滅菌と殺菌

                   

カテゴリー:社会・時事問題

カテゴリー:生活と科学

カテゴリー:ウイルスの話