Dr. Tairaのブログ

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新型コロナウイルスはアベノミクスの基礎疾患を重篤化させる?

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新型コロナウイルスによる感染症 COVID-19はWHOのパンデミック宣言以降、感染の中心が中国からヨーロッパ、さらには米国に移り急速に拡大しています。日本は相変わらずの検査控えで感染者数の急速拡大にはなっていませんが、はるかに多い潜在的感染者数と今後の急速増大は容易に想像できます。

私は健康被害はもとより経済的なダメージも心配しています。日本はそもそも現政権下で長期間アベノミクスによる基礎疾患を有しているからです。

安倍総理大臣は3月14日に記者会見 [1] で述べましたが、その内容は矛盾に満ちたものでした。前の記事でも述べましたが(手洗いと消毒ーウイルス除去の基本 )、厚生労働省が出した今回の感染症への対策の基本的考え方は集団免疫の効果をベースにしています(図1)。集団免疫の定義と意義について上記の記事および「感染症と集団免疫 」を参照してください。安倍総理はこの厚労省の概念に基づいて「流行のピークをできる限り後ろにずらす」と述べました。

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図1. 新型コロナウイルス対策の基本的考え方(厚生労働省)ー医療の限界を越えないように流行のピークを下げてそのピークをできる限り後ろにずらす

しかし単純に考えて、流行のピークが後ろにずれれば、健康被害や経済的被害はそれだけ継続し、増大することになります。東京五輪の年内開催もなくなったことも宣言したようなものです。実際に年内開催は不可能です。健康被害に加えて経済的困窮による犠牲者も増えるかもしれません。安倍総理はこういうことを想定した上で述べたのでしょうか。

国民感情から言えば、できる限り感染者や犠牲者の数を抑え、早く終わらせてほしいということではないでしょうか。そして経済的被害を最小限にし、早く復活させてほしいという願いを誰もが持っていると思います。厚生労働省のあのような方針(図1)も公表すべきでないし(少なくとも補足説明が必要)、総理の「ピークを遅らせる」などの発言はすべきではなかったと思います。

現に、今回のパンデミックは、経済的にはとくに観光業、飲食業、自営業、フリーランスの人たちを直撃しています。実体経済への大きな影響が出始めているわけで、いわば"コロナ不況"へのトンネルに入ってしまったということができます。これから倒産、解雇、失業が増大し、感染症だけでなく経済的コロナショックによる死者も出る可能性もあります。

新型感染症の流行は世界の株式市場にも大きな影響を与えています。とくに2月24日 NYダウが1031ドル下落したことをきっかけに世界同時株安が進んでいます。日経平均株価はこの1ヶ月間下がり続け、2月16日に比べて3月13日の時点では約6,000円の落ち込みとなりました(図2)。パンデミックによる世界的な景気後退への懸念が、投資家に大きな影響と不安を与えていることがわかります。

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図2. 直近(2月16日-3月13日)における日経平均株価の推移([2]に基づいて作図)

上述したように、今回の感染症流行と株価暴落の状況を見ていてすぐに思ったことの一つのは、日本経済の今後です。私は経済については素人ですが、よく知られている2月までの一見好調の平均株価の下支えになってきたのは、国民の税金と年金の投資転用であることは理解しています。これがアベノミクスによる基礎疾患」なのです。

景気を市場に任せるのではなく、安倍政権の意向で強制的に作られた官製相場による歪められた日本の景気です。国民の税金と年金を元手にした、マネーゲームによって作られた粉飾景気であることを国民は自覚すべきです。

では、国民の年金がどの程度株式市場に投入されているかというと、年金を運用しているGPIF年金積立金管理運用独立行政法人)のホームページで見ることができます [3]。GPIFとは、日本の公的年金のうち厚生年金と国民年金の積立金の管理・運用を行っている独立行政法人で、その運用資産は約160兆円です。想像もできないくらいの大金です。

従来GPIFは、国民から預かった公的年金という性質上、安全第一の運用を行っていました。しかし、安倍政権による強い意向を受けて株式での運用比率を上げ、リスクの高い積極投資を行うようになりました(図3右)。現在の比率は国内と海外の株式を合わせて50%であり(図3左)、世界でもトップクラスの投資ファンドへと変貌を遂げています。安倍政権以前とは180度変わった公的年金の運用の姿です。

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図3.GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による年金運用におけるポートフォリオ(左)および2013年からのポートフォリオの変化 ([3, 4]に基づいて作図)

2019年第3四半期運用実績では収益額は72兆円と報告されています [5]. 一見好調のように感じますが、目的は株式を下支えしてアベノミクスが成功していると見せかけるための投資なので、そのまま年金に転嫁できるという性質のものではありません。利益回収すれば株が暴落する可能性があるからです。これが官製相場であり、基礎疾患としての病巣です。

ところがはるかに深刻な問題は、今回の"コロナショック"による世界同時の株安です。国内株式の暴落です。GPIFの収益など一辺に飛んでしまうような世界恐慌、あるいはそれに近い形になるのではという危機感が生まれているのです。

投資家心理としてはパニックになりそうな感じですが、果たしてこれまでどおりルール通りに冷静な投資行動をとれるでしょうか。大手投資ファンドはAIの判断に任せっきりなのでしょうが、AIは容赦しません。

現状では株式の底値と回復の見通しは立っていません。これからの市場動向は、各国首脳の発言と感染拡大抑制対策に大きく左右されると思います。少なくとも日本政府が出した新型コロナ感染対策の基本方針は、感染のピークが(いつかわからないが)遅れ健康被害・経済的被害が長引いてしまうという不安心理を増大させてしまう危険性があります。

すなわち、新型感染症の流行とそれに対する政府の間違った方針発表は、アベノミクスの基礎疾患を重篤化させ、将来の年金支給へも悪影響を与えてしまう(若者は将来年金がもらえない)かもしれないのです。素人考えながら国民の一人として危惧しています。

ただ、株式市場の動向は不確定要素が多いです。パンデミックが深刻化し、これ以上経済や人々の生活に大きなダメージを与える状況になれば、各国は大規模な財政出動と経済支援に舵を切るでしょう。その余剰マネーが結局株式市場に流れ、政府が支援し続ける限りは、株価は維持・上昇し続ける可能性があります。

引用文献

[1] 首相官邸: 命令和2年3月14日 安倍内閣総理大臣記者会見. https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0314kaiken.html

[2] Yahoo Japanファイナンス日経平均株価. 2020年3月13日. https://info.finance.yahoo.co.jp/history/?code=998407.O

[3] GPIF: 基本ポートフォリオの考え方. https://www.gpif.go.jp/gpif/portfolio.html

[4] シニアガイド: 私達の年金の半分は「株式」で運用されている. 2019年5月7日https://seniorguide.jp/article/1182924.html

[5] GPIF: 2019年度第3四半期運用状況(速報). https://www.gpif.go.jp/operation/pdf/2019-Q3-0207-Jp_035988.pdf

                

カテゴリー:社会・時事問題