Dr. Tairaのブログ

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同性愛・LGBTの考え方

最近、自民党杉田水脈(みお)衆院議員が月刊誌へ寄稿したLGBTLGBTQLGBTTQQIAAPに関する記事が、SNS上をはじめ多方面から批判を浴びています [1]。すなわち、記事の中で「同性愛者は子供を作らないので生産性がない、そこに税金を投入することが果たしていいのか」と述べたことに対して、人権意識を欠いた記述だと批判されています。
 
彼女の人権を無視したとも思える発言は論外ですが、その言述の根底にはおそらく、LGBTQは社会の中での少数の異常な性的嗜好者という差別意識があるのではないかと思います。
 
ここでは、その考え方が人権という立場からはもちろんのこと、生物学的にも正しくないということを指摘したいと思います。
 
確かに従来の社会的常識では、大多数の異性愛者(ストレート)と少数の同性愛者が存在し、両者を明確に区別できると思われてきました。また、両方を愛することができる両性愛バイセクシャル)になると、ほとんど取り上げられることはないか、やはり異常視され、これらを含めてそれらの個人的欲求・行動は社会的な規範の中で抑えつけられてきたと考えられます。
 
一方で、自然界の動物の暮らしに目を向けると、同性愛はちっとも不自然なことではなく、本能的に普通に行われている行為です [2-4](図1)。これまで、霊長類も含めて少なくとも450種以上の動物で、同性愛が確認されています[3]。むしろ、同性愛があるのが動物界のまともな姿と言っていいでしょう。
 
このような動物の同性愛は、異常行動でも性ホルモンの分泌異常でもない本能的行動の一つであり、進化的帰結として捉えられています。
 
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図1. 動物の同性愛行動に関する学術書の一つ [4]
 
人間に近い種であるチンパンジーボノボは、生殖行為としてだけではなく、練習や好みで性行為を行います。さらに、チンパンジー属の中で最も知能が高いボノボは、純粋なコミュニケーション手段として性行為を行うという、際立った特徴をもちます[5]
 
ボノボはほぼ100%両性愛者です。そして、人間だけの性的特性と考えられていた正常位での性行為、オーラルセックス、舌を使うキス、そして乱交を行います。生活は大きな共同体として営み、暇さえあれば望む相手と性行為を行います。
 
ボノボ母権制社会であり、霊長類の中でも最も平和的で、争い事が少ない共同生活を送ります。オス同士は揉め事を解決するときには暴力的手段に訴えるのではなく、平和的に収束させます。すなわち、ペニスや陰嚢、お尻同士をこすりつけるようなホモセクシャル的擬似性行動による解決策です。競争がなく、食料が自由に手に入る環境においては、他の霊長類に見られるような攻撃という行動がもはや必要ないということなのでしょう。
 
このような同性愛的指向は、実は一般のストレートと思われる人間にもあることが論文で報告されています。2016年、米国コーネル大学発達心理学/ジェンダー研究所のR. サビン-ウィリアムズ博士の研究グループは、異性愛者として自覚がある女性被験者にいくつかの性的描写の画像を見せ、その際の瞳孔の拡大の有無に基づいて性的指向を評価しました[6]
 
それによると、自分が異性愛者であると固く信じている女性においても、時として、男性に対する反応と同様に、同性に対しても性的反応を起こすということを認めました。この研究結果は、「新知見ー異性愛者など存在しない」という衝撃的なタイトルとともに、ウェブ上でも解説されています [7]
 
このような同性に対する反応は、男性でも確認されています。すなわち、相手が女性である場合と同様に、男性が自分自身に性的な行為をする画像を見せた時も反応することが認められています。同性愛の傾向は女性特有のfemale-female allianceと思われてきましたが、男性同士の関係においても、生き残りの戦略や種の維持という意味において、人類の進化とともに強化されてきたようです [8]
 
このように、とくにこの10年間における性的指向に関する実験心理学の研究は、男女とも、自分の心理とは無関係に、同性愛の指向をもつ潜在性があるということを示唆しています。
 
上述したように、動物の世界では同性愛は当たり前の行動です。一方、人間は極度の脳の進化によって社会通念や規範を生み出し、それに従って表面上は「理性として慣習化された行動」をとっています。しかしながら、その古びた規範・固定観念なるものが、実は生物としてのヒトの本能を抑圧してきただけのことなのです。つまり、LGBTQの社会的認知は、誰もが共有しているヒトという生物の表現型の一つを具現化した状態にしたにすぎません。
 
そもそもヒトの原型は女性であり、受精卵の発生の過程で典型的な女性から典型的な男性まで幅広い範囲で変化できます。この事実を考えると、これらの性変化に伴う行動様式の多様化もごく自然なことでしょう。生物学的には必ずしも女と男、そして異性愛者だけに限定する合理性はないのです。
 
政治家でも巷の意見でも「男女間で子どもが生まれて家庭を形成するのが生物学的に自然な姿」という声がよく聞かれますが、生物学的にというならむしろ逆でしょう。生物学的にはもっと自由であり、繰り返しますが、人間社会の規範や固定観念がそれを抑圧しているにすぎないのです。
 
引用文献
 
[1] 二階堂友紀: 同性カップルは「生産性なし」杉田水脈氏の寄稿に批判. 朝日新聞DIGITAL 2018年7月23日. https://digital.asahi.com/articles/ASL7R4SB9L7RUTFK00L.html
 
[2] Casey, P. L.: Homosexual behavior in primates: A review of evidence and theory. Int. J. Primatol. 16, 173–204 (1995). https://link.springer.com/article/10.1007/BF02735477
 
[3] Bagemihl, B. Biological Exuberance. Animal Homosexuality and Natural Diversity. Stonewall Inn Editions; Reprint版, 2000. ISBN-13: 978-0312253776
 
[4] Sommer, E. & Casey, P. L.(eds): Homosexual Behavior in Animals. An Evolutionary Perspective. Cambridge University Press, July 2006. ISBN: 9780521864466
 
[5] Wrangham, R. W.: The evolution of sexuality in chimpanzees and bonobos. Human Nature 4, 47-79 (1993). https://link.springer.com/article/10.1007/BF02734089
 
[6] Geruf, R. et al.: Sexual arousal and masculinity-femininity of women. J. Personal. Soc. Psychol. 111, 265-283 (2016). http://dx.doi.org/10.1037/pspp0000077
 
[7] Tourjée, D.:  Straight People Don't Exist, New Research Says. Broadly, Nov. 7, 2015. https://broadly.vice.com/en_us/article/ypa7vk/straight-people-dont-exist-new-research-says
 
[8] Muscarella, F.: The evolution of male-male sexual behavior in humans. J. Psychol. Human Sexual. 18, 275-311 (2007). https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J056v18n04_02
 
               
カテゴリー:社会・時事問題