Dr. Tairaのブログ

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アカボシゴマダラとゴマダラチョウの起眠における時間差

 Hestina 属種幼虫をずうっと追いかけてきて、一般で常識化していることや何となく言われていることが、実はそうではないと思うことがたくさんあります。
 
その中の一つが先のページでも述べたように、「幹上で越冬するアカボシゴマダラ幼虫の優位性」です。すなわち、幹上で越冬できるアカボシゴマダラは春に早く若葉に到達できるためにゴマダラチョウよりも有利であるというものです。しかし、実際に観察してみると幹上で越冬できるアカボシゴマダラの幼虫はきわめて稀であり、たとえ越冬できたとしても春になって多くは体力消耗で死亡していくようです。

もう一つは、アカボシゴマダラとゴマダラチョウの越冬明け幼虫のエノキ幹上に上る時期です。一般にはアカボシゴマダラが3月下旬、ゴマダラチョウが4月上旬とされています。確かにアカボシゴマダラの方が幹上に早い時期に上ることは実感としてあります。
 
しかし、アカボシゴマダラとゴマダラチョウが共存している一本のエノキ低木では、それが日当たりがよい場合は、3月に同時に幹上に上ることがわかりました。

とはいえ、アカボシゴマダラとゴマダラチョウはエノキの選択性が異なり、前者は低木・幼木、後者は大木・高木をより好んで越冬することが一般的です。低木・幼木の方が日当たりがよいことが多いので、アカボシゴマダラが早い時期に幹上に上ることは当然予想できます。
 
この時期、幼木上のアカボシの幼虫ではちらほら5齢に脱皮した個体が見られるのに対し(写真左)、ゴマダラチョウではまだ幹の二又の位置で止まっている越冬型個体が大部分です(写真右)。さらに落ち葉から起眠してくる個体もまだまだあるでしょう。
 
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アカボシゴマダラとゴマダラチョウの越冬からの起眠の時期に差があることは、両種の温度感受性が異なることで説明されているようです。一方で、両者にはエノキの大きさに関して選択性の違いがあるので、全体としてはエノキの大きさに依存する日当たりなどの物理的条件によって起眠時期の差が出てくるのは当然でしょう。
 
両種の温度感受性は違いがあってもわずかなようなので、同じ低木下で越冬した両種は同じ時期に上がってくることが普通なのではないかと考えています。