火星の魅力
7月31日、15年ぶりに火星が地球に大接近し、全国的に大天体ショーとなりました。私も当日の夜、スマホカメラを携えながら、オレンジ色に明るく輝く星を眺めて楽しみました(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16412623.html)。今日はNHKの「暮らし解説」でもこの話題を取り上げ、火星の魅力や最近の科学的知見を解説していました。
火星は地球の半分くらいの直経で、重力は1/3程度しかなく、大気も1/100の薄さです。赤く見える星と知られていますが、それは酸化鉄を含む土が全体を覆っているためです(図1)。
図1. 火星の基礎データ(2018.08.02「NHK暮らし解説」より)
図2. ジョバンニ・スキャパレリによる火星表面の筋模様の発見(2018.08.02「NHK暮らし解説」より)
火星が注目される理由の一つとしては、「生命がいるかもしれない」という興味と期待感です。米国NASAの探査車「キュリオシティ」は、この証拠集めのために送られ、2012年に火星に着陸して以来、火星の約3年(地球の約6年)にわたって探査を続けています。
もっとも、火星に生物がいるとしても、かつて想像されたような火星人のような生命体(図3)ではなくて、微生物のようなものであろうと想像されています。
図3. 火星人の想像図(2018.08.02「NHK暮らし解説」より)
火星は大気が濃く暖かかった数十億年前、地表に水が流れていたと考えられています。しかし、大気が薄くなったために、現在は地表の水は蒸発してしまっており、極地に氷が残っている程度です。図4はかつて川が流れていた可能性を示す火星表面の地形です。現在の火星表面は、生命が棲むことのできる環境にはありませんが、生命に必要な水の存在を示すいくつかの証拠が得られています。
図4. 火星表面に見られる川とみられる痕跡(2018.08.02「NHK暮らし解説」より)
キュリオシティは探査地点のゲール・クレーターで、泥岩とよばれる堆積岩にドリルで穴を開けて、泥状の土を採取しました。この岩は、30億年ほどの湖の底に溜まっていた泥から徐々に形成されたものと考えられていますが、採取された土は表面の土とは明らかに異なる形状や色をしています(図5)。
図5. 採取された火星内部の土(2018.08.02「NHK暮らし解説」より)
今年になって、火星における生命の存在を示唆するような興味深いデータが、サイエンス誌に発表されました 。それは、季節変動するメタン [1]と複雑な有機物の存在[2]です。
生命体は有機物の塊ですので、生命が存在すれば当然検出されることになります。メタンは、地球上ではアーキアと呼ばれる原核生物の一部の菌種が生産するガス成分ですので、そのような生物の季節的な活動の変化によって、ガス濃度が変化するということは考えられます。
さらに、上記に報告に続くように、イタリアの研究チームが、火星の内部に液体の水があるということをサイエンス雑誌に発表しました[3]。彼らは、欧州宇宙機関(ESA)の無人探査機「マーズ・エクスプレス」に搭載されているレーダーを使って地表を調査し、火星南極付近にある厚さ1.5 kmほどの氷床の下に、長さ約20 kmにわたる湖があることを発見しました。湖の温度は推定で–70℃程度ですが、高い塩分濃度や圧力のために、液状に保たれていると考えられています(図6)。
図6. 火星の南極の氷床下にあると考えられる湖(2018.08.02「NHK暮らし解説」より)
火星が注目されるもう一つの理由は、テラフォーミングという、仮想惑星改造に関することです。地球ではいずれ資源が枯渇し、環境悪化などで人類は住みにくくなると考えられています。そこで出てきたアイデアが、仮想レベルではありますが、火星移住計画とそれに先行して行うテラフォーミングです。
図1に示したように、火星の平均温度は–40℃です。したがって、生物が住めるようにするためには、まず火星の大気中のCO2濃度を増加させ、温暖化させる必要があります。このために、温暖化に必要なCO2量と実際に火星の極冠と岩石に蓄積されているCO2量について検証されてきました。
その結果、火星で温暖化目的に利用可能なCO2の現存量は、火星の大気圧のせいぜい3倍程度しかなく、移住可能な環境にする必要量のわずか15分の1であることがわかりました[4]。この現存量であれば、すべて利用したとしても、上昇する表面温度は10℃にもならないと考えられています。
火星をテラフォーミングするには、現在の人類の能力をはるかに超えた技術が必要であり、現段階ではやはり仮想にしかすぎないということになるでしょう。私たちは、地球上に永続的に住める環境をしっかりと維持することしかないのです。
参考文献
1. Webster, C. R. et al.: Background levels of methane in Mars’ atmosphere show strong seasonal variations. Science 360, 1093-1096 (2018). DOI: 10.1126/science.aaq0131. http://science.sciencemag.org/content/360/6393/1093.full
2. Eigenbrode, J. L. et al.: Organic matter preserved in 3-billion-year-old mudstones at Gale crater, Mars. Science 360, 1096-1101 (2018). http://science.sciencemag.org/content/360/6393/1096
3. Orosei, R. et al.: Radar evidence of subglacial liquid water on Mars. Science 25 July, 2018: eaar7268. DOI: 10.1126/science.aar7268. http://science.sciencemag.org/content/early/2018/07/24/science.aar7268
4. Jakosky, B. M. and Edwards, C. E.: Inventory of CO2 available for terraforming Mars. Nat. Astronomy 2, 634-639 (2018). https://www.nature.com/articles/s41550-018-0529-6